6 / 40
第二章 やたらと甘い神様の溺愛
第六話
しおりを挟む
「ふぅ……ごちそうさまでした」
イラホン様の嬉しそうな顔が嬉しくて、ついつい食べすぎてしまった。
人の顔色を窺うのは良いけど、イラホン様に対してはどこかで制限をかけなければ、すぐにまん丸く肥えてしまうだろうと、食べ終わった頃にやっと気が付いた。
「ふふっ……アルサは見ていて飽きないね」
イラホン様は嬉しそうにニコニコしながら指パッチンをして、食事を片しつつ食後の紅茶を出してくれて、良い香りが鼻先をくすぐった。
ずっと見つめられ続けていることに恥ずかしさを感じながらも紅茶に口をつけると、香りの通りに甘く優しい味がして、心まで落ち着くのを感じる。
「美味しい……です」
私が控えめにそう言うと、イラホン様は満足そうな表情をしている。
イラホン様は私が喜ぶだけで、世界で一番の幸せ者とでも言いたげな表情をするので……私はそれに対してどんな表情をすれば良いのか分からず、つい戸惑ってしまう。
私もイラホン様との暮らしが長くなれば、少しずつ分かるようになるのだろうか……。
「苦手な食べ物はなかった?」
ぼんやりと考え事をしている私に、イラホン様はそう尋ねてくる。
「ありませんでした。全部、美味しかったです」
考え事をしていたから暗い表情に見えたのだろうか……私は慌てて、不満がないことを伝える。
するとイラホン様は良かったと微笑んで、私の顔をじっと見つめてくる。
イラホン様の淡い水色の瞳に見つめられると、胸がドキドキして顔も熱くなる……私はどうして良いのか分からず、紅茶を飲むのが早まった。
紅茶が飲み終わった頃、イラホン様が口を開いた。
「そろそろお風呂にして、今日は休もうか。アルサ、先に入って良いよ」
そうですね……と答えようとして、ハッと気が付いた。
イラホン様のお屋敷のお風呂ってどうなっているのかしら……人間でも扱える物か、そもそもイラホン様は私を一人でお風呂に入らせてくれるのだろうか。
立ち上がって風呂場へ行こうとするイラホン様に、私は慌てて聞いてみた。
「お風呂はどこでしょうか? 私、入ってきますね」
さすがにお風呂場まで一緒ではないよねと、そういった意味も込めて聞いてみたが……イラホン様にその真意は伝わっていないようだった。
「お湯を出すのに神力が必要だし、俺が洗ってあげ――「そっそれは……さすがにご容赦ください!」
イラホン様の顔を見る限り、下心も悪意も全く感じられなかったが……さすがに夫婦になったとは言え、会ったばかりの男性に裸を見られるのには抵抗があった。
イラホン様は寂しそうな、不満そうな表情をしていたが……ここだけはさすがに譲るわけにはいかない!
「だ、男性とお風呂に入るのは……て、抵抗があります!」
顔はおそらく真っ赤だろう……それでもお願いしますと言うと、イラホン様はうーんと悩みこんだかと思うとパチンッとまた指を鳴らした。
すると誰もいなかった場所に風が巻き起こり、突如メイド姿の女性が現れた。
イラホン様と同じ銀髪・淡い水色の瞳をした彼女は、私を見るとニッコリと微笑んでいた。
「俺の作った神使。これなら神力も使えるし、見た目も女だからアルサとお風呂に入っても問題ないかな?」
私はイラホン様の説明を受けて、よく分からない部分も正直あったが……彼と二人でお風呂に入るよりかは良いだろうと、首を縦にぶんぶんと振って答えた。
「よろしくお願いいたしますね、アルサ様」
メイドの女性がそう言って丁寧に頭を下げてくれたので、私もつられて頭を下げてこちらこそと答える。
そうしてあれよあれよという間に、風呂場まで連れて行かれてしまった。
自分でやると言ってもメイドの女性は全く聞いてくれず、ニコニコと穏やかな笑みを浮かべながら、結局一から十までお世話になってしまった……。
温かな湯船に浸かりながら、申し訳無さでいっぱいになるが……彼女は特に気にした様子はない。
「あの……こんな格好で言うのも恥ずかしいですが、よければお名前を教えていただけますか?」
あまりにもいたたまれずに私がそう尋ねると、彼女は少し驚いたようにしながら……でもどこか嬉しそうに答えた。
「私に名前はありません……良ければ、アルサ様がつけてくださいますか?」
突然のことに戸惑ったが、世話してくれる彼女の名前を呼べないのは嫌だったので……懸命にない頭を捻る。
そして神様が彼女のことを神使と呼んでいたことを思い出して、それになぞらえた名前にすることをやっとのことで思いついた。
「……マラク、なんてどうでしょうか?」
私がそう言うと、彼女は神様によく似た満足げな表情でニッコリと微笑んだ。
「マラク……気に入りました。ありがとうございます。これからはぜひ、マラクとお呼びください」
突然のことに驚くばかりだが、今まで眺めているだけだった笑顔が自分に向けられるのは……すごく口元がムズムズするけど心地よくて、悪い気はしなかった。
イラホン様の嬉しそうな顔が嬉しくて、ついつい食べすぎてしまった。
人の顔色を窺うのは良いけど、イラホン様に対してはどこかで制限をかけなければ、すぐにまん丸く肥えてしまうだろうと、食べ終わった頃にやっと気が付いた。
「ふふっ……アルサは見ていて飽きないね」
イラホン様は嬉しそうにニコニコしながら指パッチンをして、食事を片しつつ食後の紅茶を出してくれて、良い香りが鼻先をくすぐった。
ずっと見つめられ続けていることに恥ずかしさを感じながらも紅茶に口をつけると、香りの通りに甘く優しい味がして、心まで落ち着くのを感じる。
「美味しい……です」
私が控えめにそう言うと、イラホン様は満足そうな表情をしている。
イラホン様は私が喜ぶだけで、世界で一番の幸せ者とでも言いたげな表情をするので……私はそれに対してどんな表情をすれば良いのか分からず、つい戸惑ってしまう。
私もイラホン様との暮らしが長くなれば、少しずつ分かるようになるのだろうか……。
「苦手な食べ物はなかった?」
ぼんやりと考え事をしている私に、イラホン様はそう尋ねてくる。
「ありませんでした。全部、美味しかったです」
考え事をしていたから暗い表情に見えたのだろうか……私は慌てて、不満がないことを伝える。
するとイラホン様は良かったと微笑んで、私の顔をじっと見つめてくる。
イラホン様の淡い水色の瞳に見つめられると、胸がドキドキして顔も熱くなる……私はどうして良いのか分からず、紅茶を飲むのが早まった。
紅茶が飲み終わった頃、イラホン様が口を開いた。
「そろそろお風呂にして、今日は休もうか。アルサ、先に入って良いよ」
そうですね……と答えようとして、ハッと気が付いた。
イラホン様のお屋敷のお風呂ってどうなっているのかしら……人間でも扱える物か、そもそもイラホン様は私を一人でお風呂に入らせてくれるのだろうか。
立ち上がって風呂場へ行こうとするイラホン様に、私は慌てて聞いてみた。
「お風呂はどこでしょうか? 私、入ってきますね」
さすがにお風呂場まで一緒ではないよねと、そういった意味も込めて聞いてみたが……イラホン様にその真意は伝わっていないようだった。
「お湯を出すのに神力が必要だし、俺が洗ってあげ――「そっそれは……さすがにご容赦ください!」
イラホン様の顔を見る限り、下心も悪意も全く感じられなかったが……さすがに夫婦になったとは言え、会ったばかりの男性に裸を見られるのには抵抗があった。
イラホン様は寂しそうな、不満そうな表情をしていたが……ここだけはさすがに譲るわけにはいかない!
「だ、男性とお風呂に入るのは……て、抵抗があります!」
顔はおそらく真っ赤だろう……それでもお願いしますと言うと、イラホン様はうーんと悩みこんだかと思うとパチンッとまた指を鳴らした。
すると誰もいなかった場所に風が巻き起こり、突如メイド姿の女性が現れた。
イラホン様と同じ銀髪・淡い水色の瞳をした彼女は、私を見るとニッコリと微笑んでいた。
「俺の作った神使。これなら神力も使えるし、見た目も女だからアルサとお風呂に入っても問題ないかな?」
私はイラホン様の説明を受けて、よく分からない部分も正直あったが……彼と二人でお風呂に入るよりかは良いだろうと、首を縦にぶんぶんと振って答えた。
「よろしくお願いいたしますね、アルサ様」
メイドの女性がそう言って丁寧に頭を下げてくれたので、私もつられて頭を下げてこちらこそと答える。
そうしてあれよあれよという間に、風呂場まで連れて行かれてしまった。
自分でやると言ってもメイドの女性は全く聞いてくれず、ニコニコと穏やかな笑みを浮かべながら、結局一から十までお世話になってしまった……。
温かな湯船に浸かりながら、申し訳無さでいっぱいになるが……彼女は特に気にした様子はない。
「あの……こんな格好で言うのも恥ずかしいですが、よければお名前を教えていただけますか?」
あまりにもいたたまれずに私がそう尋ねると、彼女は少し驚いたようにしながら……でもどこか嬉しそうに答えた。
「私に名前はありません……良ければ、アルサ様がつけてくださいますか?」
突然のことに戸惑ったが、世話してくれる彼女の名前を呼べないのは嫌だったので……懸命にない頭を捻る。
そして神様が彼女のことを神使と呼んでいたことを思い出して、それになぞらえた名前にすることをやっとのことで思いついた。
「……マラク、なんてどうでしょうか?」
私がそう言うと、彼女は神様によく似た満足げな表情でニッコリと微笑んだ。
「マラク……気に入りました。ありがとうございます。これからはぜひ、マラクとお呼びください」
突然のことに驚くばかりだが、今まで眺めているだけだった笑顔が自分に向けられるのは……すごく口元がムズムズするけど心地よくて、悪い気はしなかった。
0
お気に入りに追加
89
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
大好きだけど、結婚はできません!〜強面彼氏に強引に溺愛されて、困っています〜
楠結衣
恋愛
冷たい川に落ちてしまったリス獣人のミーナは、薄れゆく意識の中、水中を飛ぶような速さで泳いできた一人の青年に助け出される。
ミーナを助けてくれた鍛冶屋のリュークは、鋭く睨むワイルドな人で。思わず身をすくませたけど、見た目と違って優しいリュークに次第に心惹かれていく。
さらに結婚を前提の告白をされてしまうのだけど、リュークの夢は故郷で鍛冶屋をひらくことだと告げられて。
(リュークのことは好きだけど、彼が住むのは北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまう私には無理!)
と断ったのに、なぜか諦めないリュークと期限付きでお試しの恋人に?!
「泊まっていい?」
「今日、泊まってけ」
「俺の故郷で結婚してほしい!」
あまく溺愛してくるリュークに、ミーナの好きの気持ちは加速していく。
やっぱり、氷の国に一緒に行きたい!寒さに慣れると決意したミーナはある行動に出る……。
ミーナの一途な想いの行方は?二人の恋の結末は?!
健気でかわいいリス獣人と、見た目が怖いのに甘々なペンギン獣人の恋物語。
一途で溺愛なハッピーエンドストーリーです。
*小説家になろう様でも掲載しています
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
限界王子様に「構ってくれないと、女遊びするぞ!」と脅され、塩対応令嬢は「お好きにどうぞ」と悪気なくオーバーキルする。
待鳥園子
恋愛
―――申し訳ありません。実は期限付きのお飾り婚約者なんです。―――
とある事情で王妃より依頼され多額の借金の返済や幼い弟の爵位を守るために、王太子ギャレットの婚約者を一時的に演じることになった貧乏侯爵令嬢ローレン。
最初はどうせ金目当てだろうと険悪な対応をしていたギャレットだったが、偶然泣いているところを目撃しローレンを気になり惹かれるように。
だが、ギャレットの本来の婚約者となるはずの令嬢や、成功報酬代わりにローレンの婚約者となる大富豪など、それぞれの思惑は様々入り乱れて!?
訳あって期限付きの婚約者を演じているはずの塩対応令嬢が、彼女を溺愛したくて堪らない脳筋王子様を悪気なく胸キュン対応でオーバーキルしていく恋物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる