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第十章 ハッピーエンド!
第三十九話
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結婚式もパレードも終わって、国中が幸せムードに包まれる中……ひっそりと国王の処罰が話し合われた。
さすがにここまで国を堕落させた王をただ野放しにはできないということで、なんらかの処罰は必要だという話になっていて……ワハイドとエスネイニはそっくりな苦々しい表情をしながらも、その話を受け入れていた。
「命を奪ったりはしませんよね?」
重々しい空気の中、私が意を決してそう言うと、ワハイドやエスネイニ含む周囲の貴族たちは驚いた表情でこちらを一斉に見る。
「確かに良い王ではありませんでしたが、それでも夫やエスネイニ新国王の父親です。どうか……命だけはご容赦いただけませんか?」
私がそう言って頭を下げると、貴族たちはワタワタと慌ててお辞めくださいと言って……周囲がざわざわとしているのを感じたが、私は頭をあげなかった。
国王のことなんて、正直どうでも良いと思っている。
でも彼は私の大好きな人と大切な友人の父親……先程の表情から察するに、彼らが望んで父親を処刑したいと思っているわけではないことは分かった。
でも今までの国王の行いを思うと、立場的に恩赦を……なんて言うことはできなかったのだろう。
だから私が言う……平民出身で、下級貴族の王太子妃。
そんな扱いの難しい私が言うことで、貴族たちも強くは言えないし……ワガママで通す事ができるかも知れない。
そう願いながら顔をあげてワハイドやエスネイニの方を見ると、驚いたような困ったような表情をしながら二人して優しく微笑んでいた。
「ナジマがそんな顔をするな」
私はいったいどんな表情をしていたのだろう。
結局、国王は王族名簿からの除外と生殖機能の剥奪をしたら、名ばかりの侯爵の地位を与え、少しの護衛と従者をつけて国の端へと移り住ませることになった。
国の中では亡き者として扱いながら、監視をつけて余生を過ごさせるということらしい。
あとでワハイドに聞いたが……これはかなり手ぬるい処罰で、反王政派が聞いたらきっと不満を爆発させるだろうと笑っていた。
でもそういった後にありがとうと笑ってくれていて、私はあの時発言して良かったと思った。
それから何年か経って……腐敗していた国は、少しずつ正常な明るい国になりつつあった。
アルアはファハンロ家当主になって、領地の運営も実に良好……気張っていたが、拍子抜けするほど順調な状態にむしろヒマなくらいだと笑っていて、最近だとタリブたちの要請もあって王宮の仕事を手伝っている。
前までは金髪碧眼の上級貴族と紫の髪と瞳を持つ王族しかいなかった王宮には、今では黒も茶も入り混じり……多くの人間がより良い国造りのために働いてくれているが、まだまだ人手が十分とは言えないらしい。
タリブ曰く、使い物にならない貴族の排除・国政や税収の見直し・国民の不満の聞き取り・人材の雇用……やることは山積みで、いくら人手があっても足りないとのことだ。
王太子妃と言っても国政にそこまで大きく関わることはできず、私にできることは他貴族との交流を深めるパーティーの開催・参加、諸外国との外交などなどだ。
それだけでも忙しすぎて参っているくらいなのに、私よりも忙しいはずのアミーラはあの頃と変わらない笑顔で微笑んでいた。
「お疲れ様、ナジマ」
とある一室で紅茶を淹れてくれたアミーラが、私の前にカップを置きながらそう言った。
王妃様に紅茶を入れさせるなんてと他人が見ると思うかも知れないが……この部屋にいるときだけは、昔のままでいようという彼女の提案で、私は図書室で過ごしていた時のように彼女の紅茶をありがたく受け取った。
紅茶を飲んでいるとエスネイニ・アルア・タリブ・シハロも入ってきた。
「やっぱりここにいたか」
「お邪魔します」
「おじゃましま~す」
普段はかしこまっている彼らも、この部屋でだけは昔のような言動に戻る。
アミーラが当然のように紅茶を入れ、彼らにも振る舞う。
エスネイニは疲れ切った表情をしていたが、アミーラの淹れてくれた紅茶を一口飲むとキツくなっていた表情が少しだけ緩んだのを感じる。
穏やかな時間が流れていた時、コンコンコンと扉をノックする音がした。
扉の方を見ると、ワハイドが顔を覗かせていた。
「あぁ、やはりここか。すまないが、うちのお嫁さんを連れて行っても良いかな」
彼がそう言うと、いつものことと言わんばかりにアルアたちがどうぞと口々に言って、私は席を立った。
紅茶を飲みきってからアミーラにごちそうさまと告げて、私は扉まで向かう。
扉まで来てからくるっと振り返ると、あの頃と変わらないリラックスした皆……私はそれが嬉しくて、笑みがこぼれてしまう。
「どうした?」
そんな私に、アルアが不思議そうに声を掛けてきた。
「なんでもない。いってきます!」
ふるふると首を横に振ってそう言うと、彼らは少しだけ驚いた表情をしていたが、すぐにいつもの笑顔に戻って見送ってくれる。
「いってらっしゃーい」
「いってらっしゃい」
「あぁ」
「気をつけて」
そしてアミーラを見ると、彼女も幸せそうに微笑んでくれていた。
「いってらっしゃい、ナジマ」
彼らの言葉に背中を押されながら図書室を出ると、ワハイドが待ってくれていた。
「どうしたの、嬉しそうな顔をして……」
そう尋ねられた私は幸せを噛み締めながら笑って、ワハイドと腕を組んで背筋を伸ばし、彼の隣を歩いた。
さすがにここまで国を堕落させた王をただ野放しにはできないということで、なんらかの処罰は必要だという話になっていて……ワハイドとエスネイニはそっくりな苦々しい表情をしながらも、その話を受け入れていた。
「命を奪ったりはしませんよね?」
重々しい空気の中、私が意を決してそう言うと、ワハイドやエスネイニ含む周囲の貴族たちは驚いた表情でこちらを一斉に見る。
「確かに良い王ではありませんでしたが、それでも夫やエスネイニ新国王の父親です。どうか……命だけはご容赦いただけませんか?」
私がそう言って頭を下げると、貴族たちはワタワタと慌ててお辞めくださいと言って……周囲がざわざわとしているのを感じたが、私は頭をあげなかった。
国王のことなんて、正直どうでも良いと思っている。
でも彼は私の大好きな人と大切な友人の父親……先程の表情から察するに、彼らが望んで父親を処刑したいと思っているわけではないことは分かった。
でも今までの国王の行いを思うと、立場的に恩赦を……なんて言うことはできなかったのだろう。
だから私が言う……平民出身で、下級貴族の王太子妃。
そんな扱いの難しい私が言うことで、貴族たちも強くは言えないし……ワガママで通す事ができるかも知れない。
そう願いながら顔をあげてワハイドやエスネイニの方を見ると、驚いたような困ったような表情をしながら二人して優しく微笑んでいた。
「ナジマがそんな顔をするな」
私はいったいどんな表情をしていたのだろう。
結局、国王は王族名簿からの除外と生殖機能の剥奪をしたら、名ばかりの侯爵の地位を与え、少しの護衛と従者をつけて国の端へと移り住ませることになった。
国の中では亡き者として扱いながら、監視をつけて余生を過ごさせるということらしい。
あとでワハイドに聞いたが……これはかなり手ぬるい処罰で、反王政派が聞いたらきっと不満を爆発させるだろうと笑っていた。
でもそういった後にありがとうと笑ってくれていて、私はあの時発言して良かったと思った。
それから何年か経って……腐敗していた国は、少しずつ正常な明るい国になりつつあった。
アルアはファハンロ家当主になって、領地の運営も実に良好……気張っていたが、拍子抜けするほど順調な状態にむしろヒマなくらいだと笑っていて、最近だとタリブたちの要請もあって王宮の仕事を手伝っている。
前までは金髪碧眼の上級貴族と紫の髪と瞳を持つ王族しかいなかった王宮には、今では黒も茶も入り混じり……多くの人間がより良い国造りのために働いてくれているが、まだまだ人手が十分とは言えないらしい。
タリブ曰く、使い物にならない貴族の排除・国政や税収の見直し・国民の不満の聞き取り・人材の雇用……やることは山積みで、いくら人手があっても足りないとのことだ。
王太子妃と言っても国政にそこまで大きく関わることはできず、私にできることは他貴族との交流を深めるパーティーの開催・参加、諸外国との外交などなどだ。
それだけでも忙しすぎて参っているくらいなのに、私よりも忙しいはずのアミーラはあの頃と変わらない笑顔で微笑んでいた。
「お疲れ様、ナジマ」
とある一室で紅茶を淹れてくれたアミーラが、私の前にカップを置きながらそう言った。
王妃様に紅茶を入れさせるなんてと他人が見ると思うかも知れないが……この部屋にいるときだけは、昔のままでいようという彼女の提案で、私は図書室で過ごしていた時のように彼女の紅茶をありがたく受け取った。
紅茶を飲んでいるとエスネイニ・アルア・タリブ・シハロも入ってきた。
「やっぱりここにいたか」
「お邪魔します」
「おじゃましま~す」
普段はかしこまっている彼らも、この部屋でだけは昔のような言動に戻る。
アミーラが当然のように紅茶を入れ、彼らにも振る舞う。
エスネイニは疲れ切った表情をしていたが、アミーラの淹れてくれた紅茶を一口飲むとキツくなっていた表情が少しだけ緩んだのを感じる。
穏やかな時間が流れていた時、コンコンコンと扉をノックする音がした。
扉の方を見ると、ワハイドが顔を覗かせていた。
「あぁ、やはりここか。すまないが、うちのお嫁さんを連れて行っても良いかな」
彼がそう言うと、いつものことと言わんばかりにアルアたちがどうぞと口々に言って、私は席を立った。
紅茶を飲みきってからアミーラにごちそうさまと告げて、私は扉まで向かう。
扉まで来てからくるっと振り返ると、あの頃と変わらないリラックスした皆……私はそれが嬉しくて、笑みがこぼれてしまう。
「どうした?」
そんな私に、アルアが不思議そうに声を掛けてきた。
「なんでもない。いってきます!」
ふるふると首を横に振ってそう言うと、彼らは少しだけ驚いた表情をしていたが、すぐにいつもの笑顔に戻って見送ってくれる。
「いってらっしゃーい」
「いってらっしゃい」
「あぁ」
「気をつけて」
そしてアミーラを見ると、彼女も幸せそうに微笑んでくれていた。
「いってらっしゃい、ナジマ」
彼らの言葉に背中を押されながら図書室を出ると、ワハイドが待ってくれていた。
「どうしたの、嬉しそうな顔をして……」
そう尋ねられた私は幸せを噛み締めながら笑って、ワハイドと腕を組んで背筋を伸ばし、彼の隣を歩いた。
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