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第九章 話したいこと

第三十五話

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「話したいことって……?」

 ワハイドが不思議そうに、何を話すのか想像もつかない様子で私を見ながらそう言う。

 私はワハイドに……私の友達のことを話すことにした。

「まず、私は第一王子のエスネイニとは友人なの」

 私がそう言うと、ワハイドは一気に警戒心を強めた表情をしていた。

「大丈夫だよ。告げ口したりはしない」

 けれど私が真っ直ぐに彼の目を見つめてそう言うと、まだ困惑した表情ではあるものの信じてくれたようだった。

「正確に言うと、彼の婚約者と友達で……その繋がりで友人になったんだけどね。ほら、ワハイドが私を初めて見かけた時、一緒にいたキレイな子……彼女がエスネイニの婚約者なのよ」

 そう言うとワハイドは、あぁ! と少しだけ驚いた表情をしていた。

 たまたま見かけた私のそばに、弟の婚約者がいるとは思わないよねと、ワハイドの驚いた顔を見て少しだけ笑ってしまった。

「そんな二人の友人であり、二人を近くで見てきた私だからこそ言えることがある。エスネイニとアミーラは、この国を光ある方へと導いてくれるって」

 私がそう言うと、ワハイドは真剣な表情で考え込んでいる様子だった。

「根拠はあるの?」

 そして、私にそう尋ねてきた。

 今の彼は私の好きな明るくおちゃらけているワハイドではなく、反王政派の人間として話しているような雰囲気があった。

「エスネイニは確かに、少し前まであいつはそりゃあ最低な男だった。自分勝手で、他人に興味がなくて、近づく者みな傷つけるツンケンしたいや~な男だったわ」

 この前、図書室で言われた分を言い返す勢いで、昔のエスネイニの悪いところをずらずらと並べたてると、ワハイドは拍子抜けしたようにぽかーんとしていた。

「けど、今は違う。一人で悩んで落ち込んでいる私に『相談しろ』って、『友人だろ』って言ってくれたの」

 私が嬉しそうにそう言うと、ワハイドの開いていた口が閉じた。

「他人を思いやれる優しい心があるし、何より彼を支えてくれる完璧な婚約者がいる……だから、この国の未来は明るいと私は確信しているわ」

 私がそう言い切ると、ワハイドはまた考え込んでいるようだった。

 これが根拠かと笑われるかもしれない、国を左右することをこんな言い方で決めて良いのかと思われるかも知れない……でもこれが私の本心だし、私は本当にそう思っている。

 アミーラがヒロインになったから、ハッピーエンドになったからとかではなく……彼らなら大丈夫だと、友人として私はそう思っているのだ。

「……それだけだと、根拠としては弱いかな」

 考え込んでいたワハイドは、ボソリと呟くようにそう言った。

 確かに友達だから大丈夫なんて言っても、反王政派の人間的には信じられないよな……そう思いながらも、ワハイドを説得できなかったのが残念で少しだけしょげていると、ワハイドが頭に手をぽんっとのせてきた。

「ただ……ナジマがそう言うなら、俺は信じるよ」

 さっきまでは硬い表情をしていたけれど、信じると言うワハイドは私の頭を撫でながら笑ってくれていて……何かから解き放たれたような、晴れやかな明るい表情をしていた。

「ナジマが友人を信じている、そんなナジマを俺は信頼している……完璧だね!」

 ハハハッと笑いながらそう言うワハイドは、どこかハイになっているようで少し心配になったが、私の頭を撫でる手は変わらず優しくて、私に安心感を与えた。

「ワハイドは信じてくれたけど、反王政派のグループには何て言うの?」

 安心している場合じゃないとハッと現実に戻ってそう言うと、ワハイドは「ん~?」と楽しそうに微笑んでいた。

「大丈夫だよ。俺……自分が兄だと、エスネイニに打ち明けるよ。んで、王族としてエスネイニの補佐をして国を正常な方向に導くって言えば、反王政派も納得すると思う」

 目からポロッと鱗が落ちる音がしたような気がした。

 そんな単純なことで良かったのかと私としては思ってしまうけど、エスネイニのことを人づてにしか聞いたことのなかったワハイドにとっては、そんな簡単なことが踏み出せない大きな一歩だったんだろうな。

 けど私を信じて、その一歩を踏み出すことを決めてくれた。

 ワハイドとエスネイニが近づく一歩になれたことを嬉しく思うとともに、ワハイドが自分の話を信じてくれたことが嬉しくてついニコニコと笑っていると、ワハイドが真剣な表情でこちらを見つめていた。

「今度はまた俺が話す番ね」

 ワハイドはニコッと笑ってそう言った。
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