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第八章 最後のイベント、星願い

第三十一話

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 星願い当日。

「……ふー……」

 いつもの図書室でアミーラと過ごしているけど、彼女は夜のことで頭がいっぱいなのか決意がこもっている深呼吸のような、不安そうなため息のような、何とも言えない吐息を何度も繰り返している。

 ぼんやりしたかと思うとハッとして、真っ赤になったかと思うとアタフタしていて……見ていて飽きない挙動不審さだ。

 おそらくだけどゲームでのヒロインがそうであったように、アミーラも今夜、エスネイニに告白するつもりなのだろう。

 バレンタインの時は散々だったけど、あの頃とはもう違う。

 アミーラもエスネイニからの愛情を感じていることだろうが……お互いに好意を直接伝えることはしていなかったようだから、さすがに緊張しているのだろう。

「楽しみだね。エスネイニ様との星願い」

 私が彼女を見つめながらそう言うと、アミーラはまたボッと赤面していたけど、少し考え込んだかと思うと決意めいた瞳に変わって微笑んでいた。

 そんな様子を見ると、バレンタインの時に背中を押すまで不安そうにチョコレートを握りしめるだけだった彼女はもういないのだなと、寂しさと嬉しさがこみ上げてきた。

「ナジマの方はどう?」

 アミーラが心配そうにこちらを見つめてそう尋ねてくるけど、私は苦笑することしかできなかった。

 すると彼女も私の表情から察してくれたのか、それ以上のことを聞いてくることはなかった。

 結局、星願いの日まで何度も街に行ってみたけどワハイドとは会うことができず……会う約束すら取り付けられずにいた。

 こんな時、前世だったらスマホでサクッとメッセージを送れるのになと思うけど、あの頃の私はそんな大胆なことはできなかっただろうと、自分自身で突っ込んで少しだけ笑ってしまった。

 ここまでくると縁がなかった……ということなのかなと、少しだけ諦め始めている自分がいた。

 いけない、いけない!

 すでにヒロインじゃない私にとっては星願いのイベントが最終イベントというわけじゃないし、ワハイドだってゲームでは登場しなかった人物なんだから、ゲームに沿う必要も、ここで諦める必要もないと自分を必死に説得する。

 星願いのイベントはずっと『星降る夜に』というゲームをプレイしていた私にとっては、アミーラの運命を決める重要なイベントだったから……どうしても転生した今も、重要視してしまう。

 ヒロインがイケメンとカップル成立すればアミーラは断罪からの襲撃を受けて死亡ルート、イケメンがヒロインの告白を断ればアミーラか殺害されるルートにいく。

 星願いはアミーラの人生を決める、ターニングポイントとも言えるイベントになっていた。

 だから星願いのイベントの時にはいつも画面内の星に、今度こそアミーラが幸せになりますようにと祈っていた。

 前世ではその願いが叶うことはついぞなかったけど……今は幸せそうにしているあなたが目に浮かぶよ。

 目の前でドキドキとしながらも決意めいた表情をしているアミーラを見て、叶うことのなかった願いがやっと叶いそうだなと……心底嬉しくて、いつまでも見ていたいなと微笑ましく彼女を眺めていた。

 私の方は……一旦、ワハイドのことは忘れよう。

 ワハイドを探しに街まで行っても見つかる可能性は低そうだし、彼への恋心が星願いの日をきっかけに消えるわけではないのだから……私はもう少しゆっくり彼との再会を、告白できる機会を待とう。

 でもアミーラの方は何度も断罪・不幸なルートを見ていたせいか、大丈夫だとは思いながらもやはり不安だった。

 前回のアミーラと王子様のデートでは尾行しなかったけど、星願いのイベントはさすがにアミーラの運命を決める重要なイベントだから……陰ながら見守りたいと思っている。

 そうだ、アミーラの星願いを見守りたいと思いながらワハイドとも会いたいと思っていたなんて……自分の中ですごい矛盾があったんだなとフッと気付いた。

 私はアミーラの幸せを見守りたい……それが一番なんだから、これで良かったんだ。

 少しずつ暗くなっていく窓の外を見ながら、私は自分にそう言い聞かせていた。
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