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第七章 私の想い、みんなの想い
第二十八話
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私が泣きじゃくっていると、座っていたアミーラが立ち上がって私の背中を擦りに来てくれた。
抱きしめながら背中を擦ってくれるアミーラからは温かさと良い香りがして、少しだけ落ち着いてきたと思っていたところに、ガラッと図書室の扉が開く音がした。
振り返ってみると入り口に弟くんがいて、後ろには王子様と生徒会長、後輩くんもいるようだったが……弟くんが何事かと状況を把握できず、固まっていた。
「……何かあったのか?」
とりあえず私が泣いていることだけは分かったようで、弟くんが慌てた様子でこちらに駆け寄ってきた。
入り口で固まったかと思うと慌てて図書室に入っていく弟くんを見た他のイケメンたちも、何だ何だと不思議そうにしながら部屋の中を覗き込んで、弟くんと同じようにびっくりしながら慌ててこちらに駆け寄ってきた。
ヒロインが泣いている姿を見て、イケメンたちとの好感度が上がってしまうかもしれないと咄嗟に思って、急いで顔を背けてみたが……涙は止まらず、泣いているのは一目瞭然だっただろう。
「……」
私が何も言わないし、目を背けているせいか、イケメンたちは駆け寄ったは良いものの声を掛けられずにいるようだった。
「どうしたのですか?」
最初に口を開いたのは生徒会長で、私に言っているのかアミーラに言っているのか分からないが、とりあえず状況を把握したいような冷静な口調だった。
「なんでもないわ。ナジマが少しだけ……驚いてしまっただけよ」
私を気遣ってくれたアミーラが、私とイケメンたちの間に立ってそう言ってくれた。
また気を使わせてしまったな……と申し訳無さを感じつつ、早く泣き止まなければと目元を袖で抑えて涙を拭う。
「……ナジマ、だいじょうぶ?」
私をかばうように立ちふさがっているアミーラからひょこっと顔をのぞかせるようにしながら、後輩くんが声を掛けてきた。
涙は少しずつ止まり始めていたけど、泣いた影響から声をうまく出せずにいた私は静かにコクンっとうなずくことしかできなかった。
後輩くんはそっか……と静かに言うだけで、それ以上特に突っ込んでくることはなかったが、純粋に心配してくれているのは感じられた。
アミーラはこちらをちらっと見ると、なおも心配そうに包み込むようにしながら背中を擦ってくれていた。
そのおかげもあって涙が止まったと思った時、予想外の人が話しかけてきた。
「――何かあれば、相談すると良い」
声を掛けてきたのは王子様だった。
絶対そんなこと言うキャラじゃない王子様の言動に驚いて思わず顔を上げると、王子様は至って真剣な様子だったが……アミーラも他のイケメンたちも驚いた表情をしていた。
「お前のことはアミーラからよく聞いているし、バレンタインの時も……至らない俺に代わって、アミーラのそばにいてくれただろう」
王子様は周りの驚いた表情は全く気にしていないようで、なおも話を続ける。
「お前が悲しむとアミーラも悲しむ。俺のことは信用できないかもしれないが、役に立てることもあるかもしれん」
だから相談してほしいと続くのだろう……無口な王子様からこんなに多くのセリフを聞いたのは初めてかもしれないと、混乱する頭でそんなことを思っていた。
周りは応じの言葉に呆然としていた。
「そうだよ。悩みがあるならぼくたちにも相談して」
けれどハッとしたように、後輩くんが言う。
「言いにくいようであればムリにとは言わないが、話すと楽になるかもしれん」
弟くんもそう言ってくれて、その表情は真剣そのものだった。
生徒会長だけが心配そうではあるものの、神妙な顔をしているだけで何も言わずにいたが……イケメンたちにそう言われても、なお口をつぐんでいる私に口を開いた。
「――君は一人で抱え込みすぎだ」
またしても思いもよらない人物から、思いもよらない言葉を掛けられて驚いた。
「普段から何かを一人で抱え込んでいる節があったが、一人で悩んでいても間違った方向に努力するだけで……良い結果には繋がらないものだ」
自分のことを振り返りながら言っているような生徒会長の言葉に、私は静かに耳を傾けていた。
「……何かあるならば相談してくれ。それができないのであれば、自分たちにできることを教えてくれ。君はどう思っているか分からないが、私は君のことを大切な友人の一人だと思っている」
大切な友人……その一言が自分に向けられるなんて思ってもいなくて、ただただ驚くことしか出来なかった。
「ボクも友達だよ」
「そうだな」
後輩くんと弟くんがそう言ってくれた。
「……俺も、友人だと思っている」
そして王子様も、少し気恥ずかしそうにしながらではあるがそう言ってくれた。
「もちろん、私もよ」
アミーラは嬉しそうに微笑んでいる。
さっきまで上位貴族、下位貴族だの……打算だの何だのと考え込んでいた自分が馬鹿らしくなるくらい、皆が本心から心配してくれて、友達だと言ってくれて、たまらなくうれしくなった。
「……せっかく泣き止んだのに、また涙が……」
私はまた涙が止まらなくなって、ここは一つ文句を言おうと思っても、言うことができなかった。
恋愛対象にならないように、イベントを起こさないようにとイケメンたちとの接触をできるだけ避けていたけど……彼らとの時間は穏やかで大好きで、できることなら自分も友達になりたいと思っていた。
でもヒロインだからと諦めていたけど……みんなは友達だと思ってくれていた。
それが嬉しくて申し訳なくて……そうだったのかと気が抜けて、また涙が止まらなくなった。
抱きしめながら背中を擦ってくれるアミーラからは温かさと良い香りがして、少しだけ落ち着いてきたと思っていたところに、ガラッと図書室の扉が開く音がした。
振り返ってみると入り口に弟くんがいて、後ろには王子様と生徒会長、後輩くんもいるようだったが……弟くんが何事かと状況を把握できず、固まっていた。
「……何かあったのか?」
とりあえず私が泣いていることだけは分かったようで、弟くんが慌てた様子でこちらに駆け寄ってきた。
入り口で固まったかと思うと慌てて図書室に入っていく弟くんを見た他のイケメンたちも、何だ何だと不思議そうにしながら部屋の中を覗き込んで、弟くんと同じようにびっくりしながら慌ててこちらに駆け寄ってきた。
ヒロインが泣いている姿を見て、イケメンたちとの好感度が上がってしまうかもしれないと咄嗟に思って、急いで顔を背けてみたが……涙は止まらず、泣いているのは一目瞭然だっただろう。
「……」
私が何も言わないし、目を背けているせいか、イケメンたちは駆け寄ったは良いものの声を掛けられずにいるようだった。
「どうしたのですか?」
最初に口を開いたのは生徒会長で、私に言っているのかアミーラに言っているのか分からないが、とりあえず状況を把握したいような冷静な口調だった。
「なんでもないわ。ナジマが少しだけ……驚いてしまっただけよ」
私を気遣ってくれたアミーラが、私とイケメンたちの間に立ってそう言ってくれた。
また気を使わせてしまったな……と申し訳無さを感じつつ、早く泣き止まなければと目元を袖で抑えて涙を拭う。
「……ナジマ、だいじょうぶ?」
私をかばうように立ちふさがっているアミーラからひょこっと顔をのぞかせるようにしながら、後輩くんが声を掛けてきた。
涙は少しずつ止まり始めていたけど、泣いた影響から声をうまく出せずにいた私は静かにコクンっとうなずくことしかできなかった。
後輩くんはそっか……と静かに言うだけで、それ以上特に突っ込んでくることはなかったが、純粋に心配してくれているのは感じられた。
アミーラはこちらをちらっと見ると、なおも心配そうに包み込むようにしながら背中を擦ってくれていた。
そのおかげもあって涙が止まったと思った時、予想外の人が話しかけてきた。
「――何かあれば、相談すると良い」
声を掛けてきたのは王子様だった。
絶対そんなこと言うキャラじゃない王子様の言動に驚いて思わず顔を上げると、王子様は至って真剣な様子だったが……アミーラも他のイケメンたちも驚いた表情をしていた。
「お前のことはアミーラからよく聞いているし、バレンタインの時も……至らない俺に代わって、アミーラのそばにいてくれただろう」
王子様は周りの驚いた表情は全く気にしていないようで、なおも話を続ける。
「お前が悲しむとアミーラも悲しむ。俺のことは信用できないかもしれないが、役に立てることもあるかもしれん」
だから相談してほしいと続くのだろう……無口な王子様からこんなに多くのセリフを聞いたのは初めてかもしれないと、混乱する頭でそんなことを思っていた。
周りは応じの言葉に呆然としていた。
「そうだよ。悩みがあるならぼくたちにも相談して」
けれどハッとしたように、後輩くんが言う。
「言いにくいようであればムリにとは言わないが、話すと楽になるかもしれん」
弟くんもそう言ってくれて、その表情は真剣そのものだった。
生徒会長だけが心配そうではあるものの、神妙な顔をしているだけで何も言わずにいたが……イケメンたちにそう言われても、なお口をつぐんでいる私に口を開いた。
「――君は一人で抱え込みすぎだ」
またしても思いもよらない人物から、思いもよらない言葉を掛けられて驚いた。
「普段から何かを一人で抱え込んでいる節があったが、一人で悩んでいても間違った方向に努力するだけで……良い結果には繋がらないものだ」
自分のことを振り返りながら言っているような生徒会長の言葉に、私は静かに耳を傾けていた。
「……何かあるならば相談してくれ。それができないのであれば、自分たちにできることを教えてくれ。君はどう思っているか分からないが、私は君のことを大切な友人の一人だと思っている」
大切な友人……その一言が自分に向けられるなんて思ってもいなくて、ただただ驚くことしか出来なかった。
「ボクも友達だよ」
「そうだな」
後輩くんと弟くんがそう言ってくれた。
「……俺も、友人だと思っている」
そして王子様も、少し気恥ずかしそうにしながらではあるがそう言ってくれた。
「もちろん、私もよ」
アミーラは嬉しそうに微笑んでいる。
さっきまで上位貴族、下位貴族だの……打算だの何だのと考え込んでいた自分が馬鹿らしくなるくらい、皆が本心から心配してくれて、友達だと言ってくれて、たまらなくうれしくなった。
「……せっかく泣き止んだのに、また涙が……」
私はまた涙が止まらなくなって、ここは一つ文句を言おうと思っても、言うことができなかった。
恋愛対象にならないように、イベントを起こさないようにとイケメンたちとの接触をできるだけ避けていたけど……彼らとの時間は穏やかで大好きで、できることなら自分も友達になりたいと思っていた。
でもヒロインだからと諦めていたけど……みんなは友達だと思ってくれていた。
それが嬉しくて申し訳なくて……そうだったのかと気が抜けて、また涙が止まらなくなった。
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