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第四章 ダンスパーティーとかムリ……

第十四話

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 アミーラ、弟くん、王子様のお出かけから数ヶ月が経った。

 王子に関しては今までと大きな変化はないが……弟くんがアミーラと笑顔で話していることは増えたように思う。

 アミーラと二人きりの時間が減ってしまったのは寂しいが……アミーラヒロイン化計画の第一歩が成功したのを強く感じられて、何だかんだで喜びを感じている。

 ただ今までは問題なく順調に行けていたが、ここに来て最大の難関が私に迫ってきていた。

「ナジマ? どうしたの?」

 いつも通りにアミーラと図書室で放課後のひとときを過ごしていたのだが、私の暗い表情と重たいため息を心配して彼女が声を掛けてくれた。

 せっかくのアミーラとの時間、できれば余計なことを考えずに穏やかに過ごしたいのだが……今はそういうわけにもいかない。

「……学園主催のダンスパーティーが気がかりで」

 そう、暑い時期が近づいてきて……もうすぐ学園主催のダンスパーティーが開催される予定なのだ。

 ダンスパーティーでは寮制なためになかなか会えない家族を学園に招くことができ、美しいドレスに身を包んで豪華な食事と音楽に囲まれた盛大な一夜を過ごすことができる。

 ゲームではこのダンスパーティーでヒロインと意中のイケメンがダンスを踊り、イケメンに急接近するきっかけになる重要なイベントだった。

「あら、生徒はみんな家族と会えることや、ダンスパーティーを心待ちにしているけれど……ナジマはそうではないの?」

 家族との再会に関しては、男爵令嬢として引き取られてすぐに学園への入学が決まったために、父親との思い出なんてものはないからどうでも良いと思っている。

 問題はダンスパーティー……。

「私、ダンスが壊滅的にヘタで……」

 平凡な日本人アラサーだった私はダンスなんて経験がなくて、この世界に転生して学園の授業で初めてダンスというものに触れる機会を得た。

 そして初めて知ったが、どうやら悲しいことに私にダンスの才能はないらしく、学園のダンスの授業では優雅さが足りない・スマイル・足元が疎かと散々な成績を残している。

 これはもうダンスは踊らず、生涯壁の花を気取ってやり過ごそうと思っていたのだが……この世界での貴族にとって、ダンスは必修科目であり最低教養と言っても過言ではないらしい。

 貴族たちがダンスパーティーを主催することも招待されることもとても多く、交流の全てがダンスからはじまりダンスで終わるとすら言われている。

 つまりダンスが踊れないとなると、冗談で済まされない死活問題なのだ。

 この世界に転生したからにはアミーラを幸せにすることが最大の目標ではあるものの、私にもこれからの人生があるから……ダンスを踊れるようにならなければいけない。

 そしてそのための第一歩が……学園主催のダンスパーティー。

 学園主催のダンスパーティーでは最後に学園OBと踊るという伝統があるから、そこでまずはダンスを成功させなくてはいけない。

 もしOBとのダンスで粗相しようものなら……相手方の評判を落とすことに繋がりかねないし、私に至っては『関わってはいけないヤツ』というレッテルを生涯貼られてしまう可能性がある。

 そうなればいくら思い入れがないといっても父親の仕事や家名に泥を塗りかねないし、アミーラとの交友関係までも絶たれてしまう可能性がある。

 それだけは……それだけはなんとしても避けたい!

 でもダンスの授業に力を入れて、先生に不明点を聞きに行ったり指導してもらったりしているのだが……全く上達する兆しがない。

 というかこの時期は先生自身もダンスパーティーの準備、他の生徒への指導にあたったりと忙しくて、私ばかりにかかりっきりになるわけにはいかないから……いかんせん、練習時間が足りていないような気もする。

 かといって一人でやってもちんぷんかんぷんだし……この世界には動画とかないから、何かを参考に真似して覚えるということもできなくて手詰まり状態だ。

 偶然見かけたアミーラのダンスは公爵家の令嬢・王子の婚約者として完璧なものだったので、今回のイベントに関しては何も心配していない……問題があるのは私だけ。

「……もしよかったら、私が教えましょうか? ダンス」

 自分の情けなさと、思うように事が運ばないことによる心労でぐったりしている私に……アミーラが女神様のような提案をしてくれた。

 アミーラにマンツーマンで教えてもらえれば、たしかに私の壊滅的なダンスも少しは上達するかもしれない……と喜んだのもつかの間、すぐにハッとする。

「嬉しいけど……アミーラもダンス練習があって忙しそうにしているじゃない。私本当にヘタクソだから、あなたに迷惑をかけてしまうよ……」

 アミーラは公爵家の令嬢として、そして王子の婚約者として私以上にダンスを失敗できないプレッシャーを背負っている人だから……ダンスの先生の元にも何度も足繁く通って指導を受けていた。

 そんなアミーラの邪魔をするわけにはいかない。

「もちろん、自分の練習も続けるわ。ただ私も何かもうちょっと……というところで手詰まりになっているから、気分を変えてダンス練習をしたいと思っていたところなのよ」

 アミーラは気高い表情で、そう答える。

 そんな美しいアミーラに見とれていると、こちらを見つめながらニッコリと微笑み続ける。

「ナジマにダンスを教えたら私の練習にもなるし、なにか手詰まりを脱却するきっかけにもなると思うの。だから……ね?」

 小首をかしげるアミーラにキュンッと胸を鷲掴まれると共に、私が気を使わないようにと思いやってくれるその優しい言い回しにもはや感動する。

 本当に良いのだろうかと思う気持ちもまだあるが……アミーラは優しい笑みを浮かべてくれている。

 申し訳ないが今回ばかりは、アミーラを頼らせてもらおう。
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