乙女ゲームのヒロインに転生したので、推しの悪役令嬢をヒロインにしてみせます!

ちゃっぷ

文字の大きさ
上 下
14 / 39
第四章 ダンスパーティーとかムリ……

第十四話

しおりを挟む
 アミーラ、弟くん、王子様のお出かけから数ヶ月が経った。

 王子に関しては今までと大きな変化はないが……弟くんがアミーラと笑顔で話していることは増えたように思う。

 アミーラと二人きりの時間が減ってしまったのは寂しいが……アミーラヒロイン化計画の第一歩が成功したのを強く感じられて、何だかんだで喜びを感じている。

 ただ今までは問題なく順調に行けていたが、ここに来て最大の難関が私に迫ってきていた。

「ナジマ? どうしたの?」

 いつも通りにアミーラと図書室で放課後のひとときを過ごしていたのだが、私の暗い表情と重たいため息を心配して彼女が声を掛けてくれた。

 せっかくのアミーラとの時間、できれば余計なことを考えずに穏やかに過ごしたいのだが……今はそういうわけにもいかない。

「……学園主催のダンスパーティーが気がかりで」

 そう、暑い時期が近づいてきて……もうすぐ学園主催のダンスパーティーが開催される予定なのだ。

 ダンスパーティーでは寮制なためになかなか会えない家族を学園に招くことができ、美しいドレスに身を包んで豪華な食事と音楽に囲まれた盛大な一夜を過ごすことができる。

 ゲームではこのダンスパーティーでヒロインと意中のイケメンがダンスを踊り、イケメンに急接近するきっかけになる重要なイベントだった。

「あら、生徒はみんな家族と会えることや、ダンスパーティーを心待ちにしているけれど……ナジマはそうではないの?」

 家族との再会に関しては、男爵令嬢として引き取られてすぐに学園への入学が決まったために、父親との思い出なんてものはないからどうでも良いと思っている。

 問題はダンスパーティー……。

「私、ダンスが壊滅的にヘタで……」

 平凡な日本人アラサーだった私はダンスなんて経験がなくて、この世界に転生して学園の授業で初めてダンスというものに触れる機会を得た。

 そして初めて知ったが、どうやら悲しいことに私にダンスの才能はないらしく、学園のダンスの授業では優雅さが足りない・スマイル・足元が疎かと散々な成績を残している。

 これはもうダンスは踊らず、生涯壁の花を気取ってやり過ごそうと思っていたのだが……この世界での貴族にとって、ダンスは必修科目であり最低教養と言っても過言ではないらしい。

 貴族たちがダンスパーティーを主催することも招待されることもとても多く、交流の全てがダンスからはじまりダンスで終わるとすら言われている。

 つまりダンスが踊れないとなると、冗談で済まされない死活問題なのだ。

 この世界に転生したからにはアミーラを幸せにすることが最大の目標ではあるものの、私にもこれからの人生があるから……ダンスを踊れるようにならなければいけない。

 そしてそのための第一歩が……学園主催のダンスパーティー。

 学園主催のダンスパーティーでは最後に学園OBと踊るという伝統があるから、そこでまずはダンスを成功させなくてはいけない。

 もしOBとのダンスで粗相しようものなら……相手方の評判を落とすことに繋がりかねないし、私に至っては『関わってはいけないヤツ』というレッテルを生涯貼られてしまう可能性がある。

 そうなればいくら思い入れがないといっても父親の仕事や家名に泥を塗りかねないし、アミーラとの交友関係までも絶たれてしまう可能性がある。

 それだけは……それだけはなんとしても避けたい!

 でもダンスの授業に力を入れて、先生に不明点を聞きに行ったり指導してもらったりしているのだが……全く上達する兆しがない。

 というかこの時期は先生自身もダンスパーティーの準備、他の生徒への指導にあたったりと忙しくて、私ばかりにかかりっきりになるわけにはいかないから……いかんせん、練習時間が足りていないような気もする。

 かといって一人でやってもちんぷんかんぷんだし……この世界には動画とかないから、何かを参考に真似して覚えるということもできなくて手詰まり状態だ。

 偶然見かけたアミーラのダンスは公爵家の令嬢・王子の婚約者として完璧なものだったので、今回のイベントに関しては何も心配していない……問題があるのは私だけ。

「……もしよかったら、私が教えましょうか? ダンス」

 自分の情けなさと、思うように事が運ばないことによる心労でぐったりしている私に……アミーラが女神様のような提案をしてくれた。

 アミーラにマンツーマンで教えてもらえれば、たしかに私の壊滅的なダンスも少しは上達するかもしれない……と喜んだのもつかの間、すぐにハッとする。

「嬉しいけど……アミーラもダンス練習があって忙しそうにしているじゃない。私本当にヘタクソだから、あなたに迷惑をかけてしまうよ……」

 アミーラは公爵家の令嬢として、そして王子の婚約者として私以上にダンスを失敗できないプレッシャーを背負っている人だから……ダンスの先生の元にも何度も足繁く通って指導を受けていた。

 そんなアミーラの邪魔をするわけにはいかない。

「もちろん、自分の練習も続けるわ。ただ私も何かもうちょっと……というところで手詰まりになっているから、気分を変えてダンス練習をしたいと思っていたところなのよ」

 アミーラは気高い表情で、そう答える。

 そんな美しいアミーラに見とれていると、こちらを見つめながらニッコリと微笑み続ける。

「ナジマにダンスを教えたら私の練習にもなるし、なにか手詰まりを脱却するきっかけにもなると思うの。だから……ね?」

 小首をかしげるアミーラにキュンッと胸を鷲掴まれると共に、私が気を使わないようにと思いやってくれるその優しい言い回しにもはや感動する。

 本当に良いのだろうかと思う気持ちもまだあるが……アミーラは優しい笑みを浮かべてくれている。

 申し訳ないが今回ばかりは、アミーラを頼らせてもらおう。
しおりを挟む

更新の励みになりますので
お気に入り登録・しおり・感想・エールを
ぜひよろしくお願いいたします(*´ω`*)

感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

婚約破棄をいたしましょう。

見丘ユタ
恋愛
悪役令嬢である侯爵令嬢、コーデリアに転生したと気づいた主人公は、卒業パーティーの婚約破棄を回避するために奔走する。 しかし無慈悲にも卒業パーティーの最中、婚約者の王太子、テリーに呼び出されてしまうのだった。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います

ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」 公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。 本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか? 義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。 不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます! この作品は小説家になろうでも掲載しています

処理中です...