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第三章 デートでリベンジ!
第十三話
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「きみ……何してるの?」
出店の影でアミーラと王子の会話を聞きながら微笑んでいると、どこかで聞き覚えのあるような男の声がした。
ふっと見てみるとキラキラと輝く金髪、深みのあるネイビーブルーのような瞳をした男性――乙女ゲームの攻略キャラの一人でもおかしくない見た目をしていたが、見覚えがないのでおそらくはモブだろう。
前世では街中で声をかけてくる人は宗教勧誘・変な人・ナンパのどれかと学んでいたので、無言で軽くお辞儀だけしてその場を去ろうとする。
「あっ……まって。怪しい者じゃないって」
そう言って私の進行方向を遮るように彼が立ち、明らかに上位貴族の見た目をしている彼をどうあしらうべきかと訝しく思っていると、彼が私の地雷スイッチを押した。
「……この前、キレイな女の子と一緒に街に来てた子だよね?」
キレイな女の子――街に一緒に来たことがあるのはアミーラだけだから、おそらくはバレンタインの準備のために街にやってきたときのことを言っているのであろう。
「……彼女が何か?」
……よもや彼女のことを狙う悪い虫かと、男を少し睨みながら返事をする。
「イヤ、俺が興味あるのはきみ。前見かけた時はあのキレイな子と一緒で楽しそうにしていたけど、今日は一人なのにこれまた楽しそうな顔をしているから……なんだか気になってさ」
私の睨みなど全く意に介さず、男はニコリと笑いながらそう言う。
「そうですか」
自分で言うのも何だが、不審な人間にそう声をかけるべきではないと思うぞと心の中で忠告しながら、アミーラに害なす人間ではないらしいので、私は適当な返事だけしてアミーラたちの方を確認する。
どうやらアルアはまだ戻っていないようで、アミーラと王子様が何やら話している様子……多少ゆるんだとは言え、アルアは警戒心が強いからこのまま相手をしていると尾行がバレる可能性がある。
……早くどっか行ってほしいなと考えながら、チラリと男の方を見る。
「あぁ、まだ名乗っていなかったね。俺の名前はワハイド。街外れにあるのどかな場所で、領主の手伝いをしている」
ニコニコと微笑まれながらきちんと名乗られてしまった。
……しかし、この世界で金髪碧眼は上位貴族の証だから、てっきりこの人もお貴族様だと思っていたのだけれど家名を名乗らなかったな。
少し不思議に思っていると、ワハイドがきみの名前は? と訪ねてくる。
無視してもこの人はどこかに行く気配がないし……かと言って何かを企んでいるような気配もないな。
この感じ……何となく私が初めてアミーラに声をかけた時のことを思い出すな。
一度そう思ってしまったら、このまま無視を決め込むのは良心と罪悪感がチクチクと心を刺してきそうだなと思って、観念して名前を告げることにした。
「……ナジマです」
家名は言わずに名前だけ答えると、ワハイドは「ナジマかぁ」と心底嬉しそうにしている。
「もしよかったら――」
そして何か言葉を続けようとしていたのだが、アルアがアミーラたちのもとへ向かっているのが見えたので……この位置はマズイと思って、近くにある建物の影にサッと隠れた。
声は聞こえないが、アルアとアミーラがなにか話していてから歩き始めた。
後を追おうとしていると、私の隠れている建物のすぐ側にもたれかかっていたワハイドがまた声を掛けてくる。
「――何しているの? ほんと」
……完全に存在を忘れていた。
というか目の前で話していた人間が唐突に建物の影に隠れたというのに、この人はなぜそんなにも冷静でいられるのだろうか。
この状況、下手なごまかし方をするといくらなんでも憲兵を呼ばれる可能性があるな。
「友達が初デートなんです。それで様子を見ていて……」
私がそう答えると……彼は先程とは様子が変わって、少し冷めた目をしながら続ける。
「覗きってこと……? それで弱みでも握ろうとしているのかな?」
「そんなわけない!」
冷めた目線と侮蔑を含んだ言葉に、バレンタインデーでの王子とアミーラのことを思い出してしまって、カッとなって強い口調で否定してしまった。
弱みなんて握るわけがない。
むしろ私の方がハートをガッシリ掴まれているんだから! そんなことができるわけがないじゃない!
そう思いながら真っ直ぐにワハイドの目を見つめていると、冷たい目をしていた彼はフッと優しい表情に戻った。
「そっか。なら良かったよ」
ニコニコと笑う彼。
何が良かったんだか……とりあえず誤解が解けたようだけど、こうしている間にもアミーラたちがどこかに行ってしまう。
見失う前にアミーラたちの後を追わなければ!
「あの……私、急ぐので! これで失礼します!」
ワハイドにそう伝えて、私は足早にアミーラたちの後を追った。
前のアミーラたちしか見ていなかったけど、後ろからまたねと言うワハイドの明るい声が聞こえた。
私はめったに街には来ないからもう会うことはないと思うけどね!
声には出さなかったけど、そう思いながら私はその場を立ち去った。
出店の影でアミーラと王子の会話を聞きながら微笑んでいると、どこかで聞き覚えのあるような男の声がした。
ふっと見てみるとキラキラと輝く金髪、深みのあるネイビーブルーのような瞳をした男性――乙女ゲームの攻略キャラの一人でもおかしくない見た目をしていたが、見覚えがないのでおそらくはモブだろう。
前世では街中で声をかけてくる人は宗教勧誘・変な人・ナンパのどれかと学んでいたので、無言で軽くお辞儀だけしてその場を去ろうとする。
「あっ……まって。怪しい者じゃないって」
そう言って私の進行方向を遮るように彼が立ち、明らかに上位貴族の見た目をしている彼をどうあしらうべきかと訝しく思っていると、彼が私の地雷スイッチを押した。
「……この前、キレイな女の子と一緒に街に来てた子だよね?」
キレイな女の子――街に一緒に来たことがあるのはアミーラだけだから、おそらくはバレンタインの準備のために街にやってきたときのことを言っているのであろう。
「……彼女が何か?」
……よもや彼女のことを狙う悪い虫かと、男を少し睨みながら返事をする。
「イヤ、俺が興味あるのはきみ。前見かけた時はあのキレイな子と一緒で楽しそうにしていたけど、今日は一人なのにこれまた楽しそうな顔をしているから……なんだか気になってさ」
私の睨みなど全く意に介さず、男はニコリと笑いながらそう言う。
「そうですか」
自分で言うのも何だが、不審な人間にそう声をかけるべきではないと思うぞと心の中で忠告しながら、アミーラに害なす人間ではないらしいので、私は適当な返事だけしてアミーラたちの方を確認する。
どうやらアルアはまだ戻っていないようで、アミーラと王子様が何やら話している様子……多少ゆるんだとは言え、アルアは警戒心が強いからこのまま相手をしていると尾行がバレる可能性がある。
……早くどっか行ってほしいなと考えながら、チラリと男の方を見る。
「あぁ、まだ名乗っていなかったね。俺の名前はワハイド。街外れにあるのどかな場所で、領主の手伝いをしている」
ニコニコと微笑まれながらきちんと名乗られてしまった。
……しかし、この世界で金髪碧眼は上位貴族の証だから、てっきりこの人もお貴族様だと思っていたのだけれど家名を名乗らなかったな。
少し不思議に思っていると、ワハイドがきみの名前は? と訪ねてくる。
無視してもこの人はどこかに行く気配がないし……かと言って何かを企んでいるような気配もないな。
この感じ……何となく私が初めてアミーラに声をかけた時のことを思い出すな。
一度そう思ってしまったら、このまま無視を決め込むのは良心と罪悪感がチクチクと心を刺してきそうだなと思って、観念して名前を告げることにした。
「……ナジマです」
家名は言わずに名前だけ答えると、ワハイドは「ナジマかぁ」と心底嬉しそうにしている。
「もしよかったら――」
そして何か言葉を続けようとしていたのだが、アルアがアミーラたちのもとへ向かっているのが見えたので……この位置はマズイと思って、近くにある建物の影にサッと隠れた。
声は聞こえないが、アルアとアミーラがなにか話していてから歩き始めた。
後を追おうとしていると、私の隠れている建物のすぐ側にもたれかかっていたワハイドがまた声を掛けてくる。
「――何しているの? ほんと」
……完全に存在を忘れていた。
というか目の前で話していた人間が唐突に建物の影に隠れたというのに、この人はなぜそんなにも冷静でいられるのだろうか。
この状況、下手なごまかし方をするといくらなんでも憲兵を呼ばれる可能性があるな。
「友達が初デートなんです。それで様子を見ていて……」
私がそう答えると……彼は先程とは様子が変わって、少し冷めた目をしながら続ける。
「覗きってこと……? それで弱みでも握ろうとしているのかな?」
「そんなわけない!」
冷めた目線と侮蔑を含んだ言葉に、バレンタインデーでの王子とアミーラのことを思い出してしまって、カッとなって強い口調で否定してしまった。
弱みなんて握るわけがない。
むしろ私の方がハートをガッシリ掴まれているんだから! そんなことができるわけがないじゃない!
そう思いながら真っ直ぐにワハイドの目を見つめていると、冷たい目をしていた彼はフッと優しい表情に戻った。
「そっか。なら良かったよ」
ニコニコと笑う彼。
何が良かったんだか……とりあえず誤解が解けたようだけど、こうしている間にもアミーラたちがどこかに行ってしまう。
見失う前にアミーラたちの後を追わなければ!
「あの……私、急ぐので! これで失礼します!」
ワハイドにそう伝えて、私は足早にアミーラたちの後を追った。
前のアミーラたちしか見ていなかったけど、後ろからまたねと言うワハイドの明るい声が聞こえた。
私はめったに街には来ないからもう会うことはないと思うけどね!
声には出さなかったけど、そう思いながら私はその場を立ち去った。
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