71 / 86
第2章 北条家戦争
相模川にて陣を張る
しおりを挟む
ワミからの報告を受け、もののけ討伐軍は相模川で妖怪たちを待ち構えていた。
「お前ら、一体たりともここを通すなよ」
正二郎の率いる部隊は、橋を渡ってきた妖怪を攻撃すべく、橋の小田原方出入口付近に布陣。
一方で、辰巳たちは川岸から橋や対岸の様子をうかがっていた。
「うーむ、もう少し左か」
照之進は橋を渡っている妖怪を弓で射るべく、弓を構えながら攻撃位置を探っている。
その近くでは、市丸と三郎が並んで待機していた。
「い、いよいよ戦うのか……」
初の実戦が眼前に迫っているということもあり、対岸の街道を狙う市丸の緊張はいやが上にも高まっていた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。落ち着いて戦えば何も問題ありませんから」
三郎は、市丸の緊張をほぐすために落ち着いたトーンで話しかけた。
「ありがとうございます。なんか、知久さんにそう言ってもらえると安心します」
戦闘車両同士通ずるものがあるのか、三郎の言葉は市丸に響いていた。
そして橋を挟んだ反対側の川岸では、辰巳とユノウが並んで橋を眺めていた。
「こうやって布陣しておいて言うのもあれですけど、たぶん妖怪たちは橋を渡ってきませんよ」
ユノウは率直な感想を漏らす。
「どうして?」
「どうしてって、こんな風に橋の周りで待ち構えているのを見たら、普通は渡ってきませんよ。どう考えたって、橋を渡ってる最中に攻撃されるわけですから」
「けど、橋を渡らなきゃこっちに来られないんだから、無理をしてでも渡ってくるんじゃないの? 例えば、朧車っていうのを盾代わりにするとかさ」
主要街道の橋だけあって、強度はもちろん、馬車同士が余裕ですれ違えるだけの幅が確保されており、朧車が走行するうえでの支障は何もなかった。
「確かに、普通ならそれも有効な戦術だと思いますよ。ただ、今回は市丸さんがいるんで、その戦法は使えませんね」
市丸に与えられた任務は朧車の撃破であり、対空ミサイルの戦果から考えれば、妖怪相手でも戦車砲は十二分に威力を発揮するはずであった。
「あ、そっか。そのためにあそこで構えてるんだもんな」
「向こうがどういう戦い方をしてくるかはわかりませんが、高い攻撃力を有しているであろう朧車を倒してしまえば、勝負はほぼ決まりですよ。ここでは大兵力を展開することはできませんし、遠距離攻撃の使い手が大勢いるとも思えません。そして橋を渡ろうとすれば、さっき言ったように集中砲火を浴びることになりますから」
「なるほど……あ、だからここに布陣したのか」
「そうですよ。偶然ここになったわけじゃないんですからね。地図で地形とかをしっかりと確認したうえで、『ここだ!』って思って提案したんですよ」
辰巳から妖怪たちの位置情報を聞いていたユノウは、地の利が活かせるこの場所で待ち構えるべきだと、正二郎に強く進言していたのだ。
「あ、これユノウの案なんだ?」
「ええ。正二郎さんに『ここがいいですよ』って提案したら、『わかりました』って快諾してくれたんです」
冒険者に指図されたくないという思いが、正二郎の中に少なからず存在していたものの、出発前に吉右衛門に言われた言葉や、三郎の圧倒的な戦果を前に、提案を受け入れるしかなかったのだ。
「そうなんだ。ところで、もし攻撃で橋が壊れちゃったらどうすんの?」
「ご心配なく。戦闘によって生じた損害は、北条家が責任をもって補償することになってますから」
「じゃ、問題ないな」
「あ、そうだ橋といえば、この戦いが終わったら、また頑丈なコンクリートの橋を切って出してください」
辰巳は酒匂川に差し掛かった折、コンクリート橋を切って出していた。
「あの二人が渡る用だろ、わかってるって」
市丸と三郎はともに五〇トン近い重量があり、いかに頑丈な木造橋といえども、耐えられるはずがなかった。
「お願いし……」
ユノウが話している最中、強烈な発砲音が相模川に轟いた。
「お前ら、一体たりともここを通すなよ」
正二郎の率いる部隊は、橋を渡ってきた妖怪を攻撃すべく、橋の小田原方出入口付近に布陣。
一方で、辰巳たちは川岸から橋や対岸の様子をうかがっていた。
「うーむ、もう少し左か」
照之進は橋を渡っている妖怪を弓で射るべく、弓を構えながら攻撃位置を探っている。
その近くでは、市丸と三郎が並んで待機していた。
「い、いよいよ戦うのか……」
初の実戦が眼前に迫っているということもあり、対岸の街道を狙う市丸の緊張はいやが上にも高まっていた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。落ち着いて戦えば何も問題ありませんから」
三郎は、市丸の緊張をほぐすために落ち着いたトーンで話しかけた。
「ありがとうございます。なんか、知久さんにそう言ってもらえると安心します」
戦闘車両同士通ずるものがあるのか、三郎の言葉は市丸に響いていた。
そして橋を挟んだ反対側の川岸では、辰巳とユノウが並んで橋を眺めていた。
「こうやって布陣しておいて言うのもあれですけど、たぶん妖怪たちは橋を渡ってきませんよ」
ユノウは率直な感想を漏らす。
「どうして?」
「どうしてって、こんな風に橋の周りで待ち構えているのを見たら、普通は渡ってきませんよ。どう考えたって、橋を渡ってる最中に攻撃されるわけですから」
「けど、橋を渡らなきゃこっちに来られないんだから、無理をしてでも渡ってくるんじゃないの? 例えば、朧車っていうのを盾代わりにするとかさ」
主要街道の橋だけあって、強度はもちろん、馬車同士が余裕ですれ違えるだけの幅が確保されており、朧車が走行するうえでの支障は何もなかった。
「確かに、普通ならそれも有効な戦術だと思いますよ。ただ、今回は市丸さんがいるんで、その戦法は使えませんね」
市丸に与えられた任務は朧車の撃破であり、対空ミサイルの戦果から考えれば、妖怪相手でも戦車砲は十二分に威力を発揮するはずであった。
「あ、そっか。そのためにあそこで構えてるんだもんな」
「向こうがどういう戦い方をしてくるかはわかりませんが、高い攻撃力を有しているであろう朧車を倒してしまえば、勝負はほぼ決まりですよ。ここでは大兵力を展開することはできませんし、遠距離攻撃の使い手が大勢いるとも思えません。そして橋を渡ろうとすれば、さっき言ったように集中砲火を浴びることになりますから」
「なるほど……あ、だからここに布陣したのか」
「そうですよ。偶然ここになったわけじゃないんですからね。地図で地形とかをしっかりと確認したうえで、『ここだ!』って思って提案したんですよ」
辰巳から妖怪たちの位置情報を聞いていたユノウは、地の利が活かせるこの場所で待ち構えるべきだと、正二郎に強く進言していたのだ。
「あ、これユノウの案なんだ?」
「ええ。正二郎さんに『ここがいいですよ』って提案したら、『わかりました』って快諾してくれたんです」
冒険者に指図されたくないという思いが、正二郎の中に少なからず存在していたものの、出発前に吉右衛門に言われた言葉や、三郎の圧倒的な戦果を前に、提案を受け入れるしかなかったのだ。
「そうなんだ。ところで、もし攻撃で橋が壊れちゃったらどうすんの?」
「ご心配なく。戦闘によって生じた損害は、北条家が責任をもって補償することになってますから」
「じゃ、問題ないな」
「あ、そうだ橋といえば、この戦いが終わったら、また頑丈なコンクリートの橋を切って出してください」
辰巳は酒匂川に差し掛かった折、コンクリート橋を切って出していた。
「あの二人が渡る用だろ、わかってるって」
市丸と三郎はともに五〇トン近い重量があり、いかに頑丈な木造橋といえども、耐えられるはずがなかった。
「お願いし……」
ユノウが話している最中、強烈な発砲音が相模川に轟いた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!
SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、
帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。
性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、
お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。
(こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる