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第2章 北条家戦争

期待と不安と

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 辰巳たちを見送った後、吉右衛門は朝食を食べながら氏元と話し合いを行っていた。

「さすがに今日中ということはないだろうが、明日、明後日には戦が起こるだろうな。ここで勝利すれば、氏吉も少しは動揺するだろう」

「確かに」

「そこを突いて一気に江戸を……となれば申し分ないが、これはさすがに虫が良すぎるか」

 奈々同様、吉右衛門も三郎による強力な対空攻撃を目撃したことによって、だいぶ精神的余裕が戻ってきていた。

「いえ、私もあのような摩訶不思議な攻撃を目の当たりにしまして、もしかしたらと思っている次第でございます」

「辰巳殿の魔法には毎度驚かされる。……とはいえ、無理をして何かあっては困るのでな、よほど戦況に余裕がある時でない限り、江戸への本格的な攻撃は避けるようにとは言ってある」

 今回の出陣は時間稼ぎが主目的であり、本格的な攻撃は古河などからの増援を待って行うつもりであった。

 ただ、即応できるようにしていた正二郎の部隊とは異なり、増援部隊が江戸に着くまでには少なくとも一週間程度の時間が必要で、その間に失った兵力の補充や守りの強化を行われてしまう可能性が高い。

 そこで、辰巳たちに嫌がらせのような攻撃を江戸に仕掛けさせ、そういった行動を滞らせようと考えていたのだ。

「賢明なご判断だと思います」

 氏元は機嫌を損ねてはならないという思いからか、太鼓持ちに徹していた。

「依頼処に兵の募集は出しておろうな」

「はっ、ご指示に従い、高額な報酬にて募集しております」

「指揮する者にも気を配るようにな。冒険者という者はクセがあるものが多いから、生半可な者では統率できないぞ」

「わかりました。人選には注意いたします」

「頼んだぞ」

 そう言って、吉右衛門は甘く煮られたタコを口の中に放り込んだ。



「うーん……こうだな」

 江戸城の一室で、ぬらりひょんは塗壁と将棋を指していた。

「……」

 塗壁は盤上を数秒見つめると、無言で角を動かす。

「そうくるか……なら」

 ぬらりひょんは銀を動かして塗壁の歩を取った。

「おらの出番はありそうか?」

 江戸防衛の責任者である塗壁は、持ち駒の銀を打ちつつ、くぐもった声で言った。

「瀬戸大将殿の意気込みどおりなら、出番はないな」

 友人と二人きりということもあってか、ぬらりひょんは砕けた感じでしゃべりながら、持ち駒の飛車を打った。

「その意気込みとやらは、どれくらい信用できるんだ?」

 塗壁はすかさず銀を動かして、飛車の動きを封じる。

「八割ってとこかな。……まぁ、もし瀬戸大将殿の軍が敗れたとしても、相手も相応の被害を被っているはず。江戸を攻めるだけの余裕はないだろうよ」

 ぬらりひょんはやや楽観的な意見を述べつつ、歩を前進させた。

「おらは五分ぐらいだと思う」

「五分? ずいぶんと厳しい見立てだな。理由はなんだ?」

 盤面を見ていたぬらりひょんは、思わず顔を上げた。

「お前さんもそうだろうが、皆ここでの戦いを基準にして、小田原の強さを考えていると思う」

「そうだな」

 ぬらりひょんはうなずきながら金を動かす。

「けどあれは、完全なる奇襲だったからな。言うなれば寝込みを襲ったようなもんで、あれを実力だと判断するのは早計でねぇかな」

「お前の言うことも一理あるが、仮にもう少し強かったとしても、数の面でこっちが圧倒的に有利だろ」

「それも危ねぇんだよ。こんだけいりゃあ負けねぇだろって、油断が出てくっからな。侮りと油断、この二つが混ぜ合わさると、勝てるもんも勝てなくなるんだ」

 塗壁は渋い表情で桂馬を動かした。

「うーん……」

 ぬらりひょんも、僅かではあるが表情を曇らせる。

「だから負けそうな時のために、第二陣も小田原へ向かわせるべきなんだよ」

 第二陣として出撃準備を進めていたのは、口裂け女の指揮する部隊であった。

 この部隊は総数一〇〇と、数は多くなかったものの、口裂け女を筆頭に、朧車や輪入道などといった機動力に富んだ妖怪たちによって編成されており、第一陣に比べて移動速度が六倍以上速かった。

「あれは大首殿の提案だ。小田原攻めから間髪入れずに河越へも攻撃を加えれば、相手は大きな衝撃と恐怖を覚えるだろうと。元々は飛行部隊だけで攻撃する予定だったが、瀬戸大将殿がいつまでを連れて行きたいと言って、その代わりとして河越へ向かうことになったんだ」

「狙いはわかるが、小田原攻めをしくじったらどうしょうもないんだぞ。念には念を入れて、戦力を投入すべきなんだよ」

 塗壁は語気を強めながら、持ち駒の歩を指した。
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