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第2章 北条家戦争
もののけとの戦いに向けて
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「氏元、江戸はもののけに占拠されておるぞ」
小田原城に戻るなり、吉右衛門はショッキングな事実をはっきりと告げた。
「え? も、もう占拠されているのですか?」
「そうだ。城はもちろん、城下ももののけたちが闊歩しておる。しかも戦の準備も随分と進んでおるようだし、空を飛んで警戒している輩までおる始末だ。正直に言って、生半可な兵力では勝ち目はないぞ」
「な、なんと……」
氏元は大きな衝撃を受けた。
「そこでだ。この件、私が預かろうと思うのだが、構わんか?」
吉右衛門は北条の手に余るだろうと判断し、周辺大名の兵力も投入できるよう、自ら陣頭指揮を執ることにしたのだ。
「お待ちくださいませ。このようなことを言えた立場ではございませんが、これはあくまでも北条家中の問題にございますゆえ、北条家の力によって解決しとうございます」
幕府の介入を避けたい氏元にとって、吉右衛門の提案は簡単に受け入れられるものではなかった。
「そなたの気持ちはわかるが、北条の兵だけで対処できる相手だとは思えん。これは東国の大事として、諸大名が協力して事にあたるべきであろう」
実際に江戸の状況を見てきた吉右衛門は、氏吉の敵意が北条の外へ向けられることを恐れていた。
「確かに、秀頼様のお話を聞く限りでは、家中の兵だけで対処するのは少し荷が重いかもしれません。されど、家中の問題を解決するにあたって、始めから他家の力を借りたとあっては北条家の名折れ。ですので、まずは我らにお任せくださいませ」
話でしか状況を把握していない氏元は、吉右衛門ほどには危機感を抱いていなかった。
「氏元、負ければ体面も何もないのだぞ。そして、今のまま戦えば北条は確実に負ける。その辺をよく考えよ」
吉右衛門は強めの口調で言い放った。
「……わ、わかりました。氏吉の件、秀頼様にお任せいたします」
吉右衛門の迫力に気圧された氏元は、謝罪をするかのように頭を下げた。
「では、早速このことを大坂や古河に知らせねばな。すまんが、書状をしたためるので、紙と墨を用意して用意してもらえるか」
「かしこまりました、すぐ用意させます。それと、食事の支度を整えておりますので、どうぞごゆるりとお召し上がりくださいませ」
「そういえば昼がまだだったな。ありがたく頂戴しよう」
吉右衛門を先頭に、辰巳、ユノウ、奈々の四人は、小姓に案内されて食事が用意された部屋へと向かっていった。
案内されたのは二〇畳ほどの広さの部屋で、床の間には掛け軸と老松の盆栽が飾られており、部屋の真ん中に四人分の膳が用意されていた。
「味噌汁が二つあるっていうのは初めてだな」
辰巳は膳の上に並んだ料理を見て、それが真っ先に気になった。
「こっちはかまぼこで、そっちはボラだと思います」
特に意味はないが、箸をつける前にユノウが具材を確認する。
「ボラ? 名前は聞いたことあるけど、食べるのは初めてだな」
辰巳は箸でボラの身を箸でつまむと、少し身の感じを見てから口に入れた。
「……ちょっと淡泊だけど結構うまいね」
「ボラはあたしも釣ったりしますけど、お刺身はもちろん、唐揚げにして食べてもおいしいんですよ。ただ、下処理をちゃんとやらないと臭いが気になりますけどね」
「そうなんだ」
辰巳は聞きながら味噌汁をズズゥっとすすった。
「「……」」
普通に昼食を食べている辰巳とユノウに対し、向かい側に座っている吉右衛門と奈々の表情は暗く、箸もあまり進んでいない。
「なんか、申し訳ない気持ちになってくるな」
辰巳は小声で心情を吐露した。
「仕方ないですよ、二人とは思い入れや立ち位置が違うんですから」
人生経験の差か、ユノウは特に気にすることなく食事を楽しんでいる。
「ユノウはさ、この戦いどう見てるの?」
「そうですねぇ……情報が少ないんでなんとも言えないですけど、江戸の様子を見た感じだと、ちょっと厳しいかなって」
「それは妖怪とかの方が強いからってこと?」
「それもないわけじゃないですけど、一番は兵力の展開スピードですよ」
「兵力の展開スピード?」
「半日ほどで江戸があのような状況になったとすれば、短時間に大量の兵力を用意することができるってことですよ。極端なことを言えば、こっちが一〇〇の兵を用意する間に、向こうは一〇〇〇の兵を用意できるってことです」
「それキツイなぁ……」
「しかも、召喚の類だと敵が湯水のように沸いて出てくる可能性もありますから、その場合、早急に元栓を閉めにかからないと、数に押しつぶされてしまいますね」
「マジか……」
自分が思っていた以上に不利な戦況であることを知り、辰巳の表情も暗くなる。
「ただ、そんなに悲観することもないですよ。辰巳さんが紙切りで色んなものを出せば、戦力不足なんてどうとでもなりますから」
「え、どうにかなるの?」
「なりますよ。それこそあの空飛ぶ提灯だって、戦闘機とか対空戦車みたいなのを出せば簡単に倒せるはずですから」
ユノウは自信を持って太鼓判を押す。
「確かに、ミサイルとかを打ち込めば倒せそうな感じはするね」
辰巳もその気になってきたところで、タイミングよく吉右衛門がユノウに意見を求めてきた。
「ユノウ殿にお伺いしたいのだが、あの空飛ぶ提灯に向かって、ヘリコプターから魔法を放つことはできないかな?」
「できますけど、あれは移動用なので、戦闘に用いるには防御面などで不安が大きいです。なのであたしとしては、“空飛ぶ敵を撃つ専門家”に任せた方がいいんじゃないかなって思ってます」
「なんと、そのような専門家がおるのか」
吉右衛門は前のめりになって食いついた。
「良かったら、食べ終わった後に会いますか?」
「もちろん」
吉右衛門の顔に明るさが戻り、同時に箸も進み始めた。
小田原城に戻るなり、吉右衛門はショッキングな事実をはっきりと告げた。
「え? も、もう占拠されているのですか?」
「そうだ。城はもちろん、城下ももののけたちが闊歩しておる。しかも戦の準備も随分と進んでおるようだし、空を飛んで警戒している輩までおる始末だ。正直に言って、生半可な兵力では勝ち目はないぞ」
「な、なんと……」
氏元は大きな衝撃を受けた。
「そこでだ。この件、私が預かろうと思うのだが、構わんか?」
吉右衛門は北条の手に余るだろうと判断し、周辺大名の兵力も投入できるよう、自ら陣頭指揮を執ることにしたのだ。
「お待ちくださいませ。このようなことを言えた立場ではございませんが、これはあくまでも北条家中の問題にございますゆえ、北条家の力によって解決しとうございます」
幕府の介入を避けたい氏元にとって、吉右衛門の提案は簡単に受け入れられるものではなかった。
「そなたの気持ちはわかるが、北条の兵だけで対処できる相手だとは思えん。これは東国の大事として、諸大名が協力して事にあたるべきであろう」
実際に江戸の状況を見てきた吉右衛門は、氏吉の敵意が北条の外へ向けられることを恐れていた。
「確かに、秀頼様のお話を聞く限りでは、家中の兵だけで対処するのは少し荷が重いかもしれません。されど、家中の問題を解決するにあたって、始めから他家の力を借りたとあっては北条家の名折れ。ですので、まずは我らにお任せくださいませ」
話でしか状況を把握していない氏元は、吉右衛門ほどには危機感を抱いていなかった。
「氏元、負ければ体面も何もないのだぞ。そして、今のまま戦えば北条は確実に負ける。その辺をよく考えよ」
吉右衛門は強めの口調で言い放った。
「……わ、わかりました。氏吉の件、秀頼様にお任せいたします」
吉右衛門の迫力に気圧された氏元は、謝罪をするかのように頭を下げた。
「では、早速このことを大坂や古河に知らせねばな。すまんが、書状をしたためるので、紙と墨を用意して用意してもらえるか」
「かしこまりました、すぐ用意させます。それと、食事の支度を整えておりますので、どうぞごゆるりとお召し上がりくださいませ」
「そういえば昼がまだだったな。ありがたく頂戴しよう」
吉右衛門を先頭に、辰巳、ユノウ、奈々の四人は、小姓に案内されて食事が用意された部屋へと向かっていった。
案内されたのは二〇畳ほどの広さの部屋で、床の間には掛け軸と老松の盆栽が飾られており、部屋の真ん中に四人分の膳が用意されていた。
「味噌汁が二つあるっていうのは初めてだな」
辰巳は膳の上に並んだ料理を見て、それが真っ先に気になった。
「こっちはかまぼこで、そっちはボラだと思います」
特に意味はないが、箸をつける前にユノウが具材を確認する。
「ボラ? 名前は聞いたことあるけど、食べるのは初めてだな」
辰巳は箸でボラの身を箸でつまむと、少し身の感じを見てから口に入れた。
「……ちょっと淡泊だけど結構うまいね」
「ボラはあたしも釣ったりしますけど、お刺身はもちろん、唐揚げにして食べてもおいしいんですよ。ただ、下処理をちゃんとやらないと臭いが気になりますけどね」
「そうなんだ」
辰巳は聞きながら味噌汁をズズゥっとすすった。
「「……」」
普通に昼食を食べている辰巳とユノウに対し、向かい側に座っている吉右衛門と奈々の表情は暗く、箸もあまり進んでいない。
「なんか、申し訳ない気持ちになってくるな」
辰巳は小声で心情を吐露した。
「仕方ないですよ、二人とは思い入れや立ち位置が違うんですから」
人生経験の差か、ユノウは特に気にすることなく食事を楽しんでいる。
「ユノウはさ、この戦いどう見てるの?」
「そうですねぇ……情報が少ないんでなんとも言えないですけど、江戸の様子を見た感じだと、ちょっと厳しいかなって」
「それは妖怪とかの方が強いからってこと?」
「それもないわけじゃないですけど、一番は兵力の展開スピードですよ」
「兵力の展開スピード?」
「半日ほどで江戸があのような状況になったとすれば、短時間に大量の兵力を用意することができるってことですよ。極端なことを言えば、こっちが一〇〇の兵を用意する間に、向こうは一〇〇〇の兵を用意できるってことです」
「それキツイなぁ……」
「しかも、召喚の類だと敵が湯水のように沸いて出てくる可能性もありますから、その場合、早急に元栓を閉めにかからないと、数に押しつぶされてしまいますね」
「マジか……」
自分が思っていた以上に不利な戦況であることを知り、辰巳の表情も暗くなる。
「ただ、そんなに悲観することもないですよ。辰巳さんが紙切りで色んなものを出せば、戦力不足なんてどうとでもなりますから」
「え、どうにかなるの?」
「なりますよ。それこそあの空飛ぶ提灯だって、戦闘機とか対空戦車みたいなのを出せば簡単に倒せるはずですから」
ユノウは自信を持って太鼓判を押す。
「確かに、ミサイルとかを打ち込めば倒せそうな感じはするね」
辰巳もその気になってきたところで、タイミングよく吉右衛門がユノウに意見を求めてきた。
「ユノウ殿にお伺いしたいのだが、あの空飛ぶ提灯に向かって、ヘリコプターから魔法を放つことはできないかな?」
「できますけど、あれは移動用なので、戦闘に用いるには防御面などで不安が大きいです。なのであたしとしては、“空飛ぶ敵を撃つ専門家”に任せた方がいいんじゃないかなって思ってます」
「なんと、そのような専門家がおるのか」
吉右衛門は前のめりになって食いついた。
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