上 下
42 / 86
第1章 北条家騒動

小田原城へ

しおりを挟む
「お、なんか城っぽいものが見えてきたけど、あれ小田原城かな?」

 辰巳が指差す先を見て、夏がうなずく。

「あ、そうです。本当にあっという間ですね。なんだか夢みたいです」

「どうやら、あそこが目的地のようだね。それで、僕はあの城に着陸すればいいのかい?」

「いやいや、さすがにそれは色々とマズいと思うんで。……あ、海岸って下りられます?」

 小田原城は海岸近くに位置していた。

「海岸? 岩場はちょっと無理だけど、砂浜だったらオーケーだ」

「じゃあ、あそこの砂浜に下りてください」

 辰巳は、お城の近くに見える砂浜を指差した。

「オーケー」

 ヘリコプターは徐々に高度を下げていくと、激しい砂煙をまきおこしながら、小田原城から一番近い砂浜に着陸した。

「とうちゃぁく」

 ヘリコプターはエンジンを止めてドアを開けた。

「奈々ちゃん、小田原に着いたよ」

「……」

「ほら、外見てみなって。気が晴れるよ」

 奈々はユノウの腕をしっかりと掴んだまま、恐る恐る顔を上げた。

「……あ、海」

 窓の外には白い砂浜と相模湾の大海原が広がっていた。

「あぁ~」

 辰巳は海岸に降り立つと、コリをほぐすように大きく背伸びをした。

「まぎれもなくあれは小田原城だ。かように早く移動できるとは、ヘリコプターとはすごいものだな」

 吉右衛門は小田原城を見つめながら、感嘆の声を上げた。

「凄まじい音だった。まだ頭の中で響いてやがる」

 初めて聞いたエンジン音がよほどうるさく感じたのか、仁は海を見ながら耳を休ませていた。

「ごめんね夏。私の代わりに道案内をさせちゃって」

 奈々は元気を取り戻すと、真っ先に夏へお礼を言った。

「気にしないでください。それより、気分はもう大丈夫なんですか?」

「うん、もう平気平気。これなら氏元様と対峙しても問題ない」

 奈々のコンディションが万全になったのを合図に、辰巳たちは出発した。

 海岸から小田原城までは徒歩でおよそ一〇分。城門に到着するや、辰巳はその存在感に圧倒された。

「ヘリからも見たけど、この城だったら俺でも籠城戦を選ぶだろうな」

「辰巳さん、あれ見てください。天守閣の造りが独立式望楼ぼうろう型ですよ」

 辰巳は高校で習う程度の日本史知識を有していたが、ユノウは軽くそれを凌駕していた。

「独立式? ちょっと専門的すぎてよくわかんないだけど」

「じゃあ、ちょっと説明しますね」

「いやいいいい」

 確実に話が長くなるなと思った辰巳は、右手を左右に振って不要の意思を示した。

「大丈夫ですよ、本当にちょっとだけですから。まず、天守の形には大きく分けて二つの種類があり、それぞれ望楼型と層塔そうとう型という名前で呼ばれています。望楼型は織豊しょくほう期に建てられた天守によく見られた形で、代表的なものに姫路城や彦根城があります」

 結局、ユノウの説明は“ちょっと”では終わらず、奈々が諸々の段取りを整えて戻って来る時まで長々と続いたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...