よもやまメモ噺

流転のお殿様噺

　その昔、日本には数多くの大名がいたが、その中でも特異な人生を歩んだのが林忠崇であろう。

　千葉県木更津市にあった請西藩の藩主であった忠崇は、戊辰戦争をきっかけに殿様でありながら脱藩し、新政府軍と戦った。

　敗北後の謹慎期間を経て、明治6年26歳の時に旧領であった請西村に戻って農民になるもうまくいかず、知人の伝手で東京府の下級役人となるも上司と揉めて辞職し、函館へ渡って店の番頭になるも店が破産してしまう。

　しかし旧臣の支援もあってなんとか食いつなぎ、結婚して子供も生まれたのだ。

　その後次女の嫁ぎ先であった岡山へと移り、離婚後に東京へ戻るとフランス人形を製造販売する会社の経営にあたることになった。

　業績は順調だったものの、戦争の足音が聞こえてくるようになると一気に悪化し、会社を畳んでアパート経営に乗り出すことに。

　そして次女とともにそのアパートにへ移り住んだ翌年の昭和16年1月22日、94歳の生涯を閉じた。

　忠崇の死によって、元大名はすべていなくなったのである。

　では、今回はこの辺で失礼をば。