よもやまメモ噺

いんじんリュウキ

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ひとり相撲噺

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 江戸時代、ひとり相撲という大道芸が人気を博したことがあった。

 文字通りひとりで相撲の取組を演じるもので、人通りがあるところにひょっこり現れると、持参の扇子を広げて「ひがぁーしぃー、荒馬ぁ、にぃーしぃー、谷風ぇ」と呼び出しをまねて大声をあげる。

 人々が集まってきたところで、今度は力士に変身し、実在の力士のモノマネをして笑いをとりながら仕切りを行い、取組の場面へと進んでいく。

 そして迫真の演技で荒馬になったり谷風になって好勝負を繰り広げ、興奮した見物人たちが「荒馬ッ」「谷風ッ」と叫び始めると、突然、がっぷり四つに組んだところで相撲を止める。
 そのまま見物人たちを見まわすと、「さぁさ、皆さん銭を投げたり。荒馬が多ければ荒馬を勝たせ、谷風が多ければ谷風が勝つぞ」と叫んだのだ。

 すると、見物人たちは自分が好きな方の四股名を叫びながら銭を投げ、本当に銭が多かった方を見事に勝たせたのである。

 もちろん、この結果に対してお客たちから「汚い!」と不満の声があがることはなかったという。

 では、今回はこの辺で失礼をば。
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