よもやまメモ噺

いんじんリュウキ

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ゴンドラ噺

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 水の都ヴェネチア。
 この街を象徴するものといえば、運河の上を優雅に移動するゴンドラであろう。

 このゴンドラ、全てが黒一色に塗られているが、これにはちゃんとした理由がある。

 時は17世紀、この頃のゴンドラはとても華やかなもので、小舟全体が赤や青や金色など様々な色に塗られ、また船内には大理石の椅子が置かれたり、ペルシャ絨毯が敷かれたりもしていた。

 さらに漕ぎ手も華やかな衣装に身を包んでいた。

 これによって大運河は満開の花園のように華やかになったのだが、一方で皆が豪華さを意識し始めるようになったのか、贅沢競争のような異常な状況にもなり始めていたのだ。

 この状況を見かねたヴェネチア政府は、「贅沢取締り委員会」なるものを作って、1633年に「船体は黒に統一すること。船室の覆いも黒いラシャ以外は使用しないこと」という法令を下した。

 なお黒ラシャは、当時のヴェネチアでは一般家庭のベッドカバーに使われていたごくごくお粗末な布であった。

 要するに、贅沢は敵だということで黒になったのである。

 では、今回はこの辺で失礼いたします。
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