よもやまメモ噺

板垣噺

　自由民権運動の指導者として、歴史に名高い板垣退助。

　板垣を語るうえで有名なのは、岐阜で演説していた際に保守主義者に刺され、「板垣死すとも自由は死せず」と言っというエピソードです。

　この有名な言葉ですが、実際その場では言っていなかったようなのです。

　板垣本人の回顧談によれば「アッと思うたばかりで声が出なかった」とのこと。

　ではこの名言の出所はどこなのかといえば、ジャーナリストの小室信介の言葉が変化したようなのです。

　板垣を支持していた小室が、事件直後に「板垣死ストモ自由ハ亡ビズ」との題目で演説していたとの記録が残っており、おそらくこれが世間に伝わっていくうちに、いつの間にか板垣がこういうことを言ったものだと思われていったのでしょう。

　実はこれに近いことは現代でも起きています。

　野球ファンには有名な、加藤哲郎投手の「巨人はロッテより弱い」発言です。

　1989年に行われた巨人ー近鉄の日本シリーズ第三戦、この試合で勝利投手となった加藤投手がインタビューでこのように発言。その後近鉄は、発奮した巨人に4連敗して日本一を逃しました。
　そのため、この発言がなければ近鉄が日本一になっていたのではとも言われています。

　しかし実際のところ、加藤投手はそのようなことを言っていません。

　ただインタビューでは、「シーズンの方がよっぽどしんどかった、相手も強いし」「いつもよりもリラックスして投げられた」などと、やや相手を舐めたような発言をしていました。

　おそらくこういった加藤投手へのイメージと、実際に巨人が逆転した事実などが入り混じって、新聞の見出しに書かれた「巨人はロッテより弱い」という過激な言葉が、実際に言われたものだと思われていったのでしょう。

　では、今回はこの辺で失礼いたします。