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第1章 卒業後の進路

対エルフツリー

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(コレ以上近ヅクナ。去レ、去レ)

「な、なんだ? なんか頭ん中で声がしたんだけど?」

 突然頭の中で不気味な声が響いたので、タフィは思わず後ずさりした。

「あ、タフィもこれ聞こえたんだ」

「僕も変な声が聞こえました」

 タフィだけでなく、カリンとボイヤーの頭の中でも謎の声が響いていた。

「これなんの声なんだ?」

「そうねぇ、状況から考えれば、この木からのメッセージじゃないの」

「メッセージ? ……あ、ちゅうことは、近づいて欲しくない何かがあるってことか!」

 再び木に向かって歩き出すタフィ。

(近ヅクナ、去レ、去レッ!)

 先ほどよりも少し口調が強くなったが、タフィは歩みを止めない。

 一方で、カリンとボイヤーは様子を見るために木陰には入らず、立ち止まってタフィの動向をじっと見つめていた。

(去レッツッテンダロ!)

「おわっ!?」

 怒ったエルフツリーは、地中から根を出してタフィの足に絡ませ、盛大にすっ転ばせた。

「いってぇ……」

(近ヅイタ報イダ。ワカッタラ去レ)

「なめんなよ。こんなもんどうってことねぇや」

 タフィは立ち上がって体に付いた土を払い落とすと、根を絡ませないために全速力で駆け出した。

(ワカラン奴ダナ)

 エルフツリーは、タイミング良くタフィの進路上に根で小さなアーチを作り出した。

「のわっ!?」

 根のアーチにつまずいたタフィは、再び盛大にすっ転んだ。

(ドウダ、今度コソ諦メテ去レ)

「誰がこんなもんで諦めるかよ」

 タフィとエルフツリーのやり取りを見ながら、ボイヤーは冷静に状況を分析する。

「カリン姉さん、思うんですけど、アレ絶対ただのエルフツリーじゃないですよね」

「そうね。怨念というか、なんかの魂が乗り移ってるような感じがするわね」

「ということは、やっぱりここに隠してあるってことですかね?」

「可能性は高いわね。いずれにせよ、ああやってしゃべってれば、そのうち答えがわかるでしょ」

 カリンの言葉どおり、答えはすぐに判明する。

(ナゼ、ソコマデシテワタシニ近ヅコウトスル?)

「なぜって、ここに包丁が隠してあるかもしれないからだよ」

 タフィが「包丁」と言った瞬間、ガサガサっと木が揺れた。

「あっ、なんか今揺れたぞ。やっぱここに包丁があるんだな」

(ナイ、ナイゾ。ダカラ去レ)

 若干だが口調に乱れがあった。

「完全に動揺してんじゃん。あんだろここに、包丁がさ」

 タフィはもちろん、カリンとボイヤーもこれで確信した。

「ボイヤー、うちらも行くよ」

「はい」

 満を持して、カリンがエルフツリーとのやり取りに加わった。

「エルフツリーさん、うちらはある凄腕の料理人の依頼で、ジェイコブセンが作ったっていう肉切り包丁を探してるの。もしここにそれがあるのなら、渡してもらえないかな?」

「凄腕の料理人? 母ちゃんはそんな凄う……」

「あんたちょっと黙ってな」

 バチーンと、カリンはタフィの後頭部をひっぱたいた。

(サッキモ言ッタガ、ココニソノヨウナモノハナイ。ダカラ去レ)

「お願い。その料理人のことは、ケーシー・カルドーゾさんも認めてるし、それに包丁は使ってこそ価値があるもんだと思うんだ。だから、渡してもらえないかな?」

(ダカラ、ソンナモノハナイト言ッテルダロ。サッサトココヲ去レ)

 少し口調が荒くなっていた。

「お願い。絶対に売ったりしないし、大事に使うからさ」

 カリンは頭を深々と下げて懇願する。

(イイカラ去レ!)

 だが、エルフツリーは全く聞く耳を持たない。

「お願い」

(去レ!)

「お願い」

(去レ!)

 そんな堂々巡りのようなやり取りが何回か続き、カリンはこのままではらちが明かないと判断、攻め方を変えることにした。
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