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第1章 卒業後の進路

リリーフエース登場

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「ほんっと、どっかに磁石でも付いてんじゃないかって思うくらい現れるね」

 カリンは若干呆れた様子で、マウンドへ向かうアポロスのことを見た。

「磁石?」

「タフィに引き寄せられてるって意味よ」

「あ、そういうことですか」

「しかも、よりによってこの場面で出てくるとわね……」

 カリンは、ボイヤーと一緒にネクストバッターズサークルからアポロスの投球練習を見届けると、渋い表情を浮かべながら左打席に立った。

(追い込まれる前に決めたいな)

 初球、アウトコース低めへカーブ、これを見逃してストライク。2球目、インコース高めの剛速球に振り遅れ、三塁線へのファウル。そして3球目、膝元に鋭く落ちるフォークに、バットが空を切って空振り三振。

「あぁー」

 悔しさをにじませるカリンに続いて、ボイヤーがバッターボックスに入る。

(なんとか出塁できれば……)

 だが、初球、2球目と直球をファウルにして、簡単にツーストライクと追い込まれてしまう。

「タイム」

 ボイヤーは間を空けることで流れを変えようとしたが、鋭く落ちるフォークの前に、あえなく空振り三振に終わる。

「……」

 ボイヤーはうつむき加減でベンチへと戻っていく。

「しょげるなボイヤー。お前の分まで俺が打ってやるよ」

「兄やんお願いします」

「任せとけ」

 タフィは豪快に素振りをすると、打ち気満々でバッターボックスに立った。

「平民なんかに打たれてたまるか」

 対するアポロスも、タフィを見るなり気合を入れ直した。

「カリン姉さんは、この勝負どう見ますか?」

 ボイヤーとカリンは、ベンチから勝負の行方を見守っていた。

「そうねぇ……変なプライドを出さなければ、バカ息子が優勢かな」

 アポロスはフォークボールの使い手として、一目置かれる存在だった。

 なお、これまでの対戦成績は14打数4安打の打率2割8分6厘、ホームラン3本、三振7である。

 初球、真ん中高めへの剛速球を豪快に引っ張り、打球はレフトポールへ向かってライナーで飛んでいく。

「巻け巻け巻けぇー!」

 タフィは声で打球を後押ししながら、ファーストに向かって走り出す。

「切れろ切れろ切れろ切れろ切れろぉー!」

 アポロスはファウル方向へ向かって小刻みに手を振った。

 2人の思いがぶつかるなか、審判が判定を下す。

「ファウル」

 審判は両腕を斜め上に上げた。

「切れたかぁ……」

「切れたな」

 悔しそうにバッターボックスへ戻るタフィを見て、アポロスはニヤッと笑う。

「打ち直しゃいいんだ打ち直しゃ」

 2球目、インコース低めの直球に詰まって三塁線へのファウル。

 ツーストライクと追い込んだところで、キャッチャーは定石通りミットを思い切り外に構え、カーブのサインを出した。

 ところが、アポロスは首を縦に振らない。

 キャッチャーはもう一度カーブのサインを出したが、アポロスはまたしても首を横に振った。

「はぁ……タイム」

 キャッチャーは小さくため息を吐くと、アポロスの考えを聞くためにマウンドへ向かう。

「なんであんなにサインが決まらないんでしょうか?」

 ベンチからその様子を見ていたボイヤーは、思わず疑問を口にした。

「たぶん、変なプライドが出てんのよ」

 カリンはアポロスの心中を察する。

「そういえば、さっきも変なプライドが出なければって言ってましたけど、それってどういう意味なんです?」

「まぁ、簡単に言えばフォークへのこだわりね。あいつはフォークに絶対的な自信を持っている。だからこそ、フォークで空振り三振を取りたいのよ。それも、外で落とすような安全策じゃなくてね」

 カリンが推測したように、アポロスはフォークでの勝負にこだわっており、根負けしたキャッチャーはしぶしぶそれを受け入れ、アポロスが求めるコースにミットを構えた。

「おらぁっ!」

 アポロスは渾身のフォークをインコース低め目掛けて力いっぱい投げ込んだ。

「お見通しじゃぁ!」

 タフィは狙いすましたように思い切りフルスイング。そして確信したように右手を高々と突き上げた。

 打球はレフトスタンド目掛けて一直線、そのまま場外へ。今度こそ文句なし、正真正銘のサヨナラホームランだ。

「……」

 アポロスは悔しそうに唇を噛む。

「よくやったよタフィ」

「さすがです兄やん」

「当然だろうが」

 カリンやボイヤーを含めたドライバーズの選手全員に迎えられ、タフィはサヨナラのホームを踏んだ。

 こうして試合はドライバーズのサヨナラ勝ちで幕を閉じ、タフィたちはタダでキュービンゲンまで連れていってもらえることが確定した。

 ちなみにそれぞれの成績は、タフィがホームラン2本を含む5打数3安打3打点、ボイヤーが5打数ノーヒット、そしてカリンは5打数1安打で、9回を2点に抑えての完投勝利である。
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