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第1章 出会い
24. 魔力無し
しおりを挟む「…アンタを連れてきたのはね、最初はただ黒髪だったからなんだけどさ」
これまでの自分を誘拐した人だと忘れてしまいそうなくらい不自然に気の抜けた男の雰囲気が突然変わったのが分かった。
じりじりと距離を詰められて、後ずさりしても後ろで手を拘束されているせいであまり動けない。
その時、ふいに魔法の存在を思い出した。こういう時に身を守るために練習したんだから、今使わないでいつ使うんだ。
そう思ってすぐに手首の方に向かって練習通りに魔力を込めて魔法を使おうとしてみたが、何故か魔法が発動しなかった。
「…な、なんで…」
俺が目に見えて動揺していると、男はまるで当然のことであると言いたげな反応で、淡々と告げて来た。
「それ、魔力封じの拘束具だよ。まぁ黒髪の魔法使い相手に普通の拘束具を使うわけないよね」
「魔力封じ…」
そんなものがあるなんて知らなかった。
正直、魔法が使えれば怖いものなんてないと思っていた。
魔法が使えなければ、俺はただのひ弱なのに。
頼りの綱が急に失われて、一気に不安が押し寄せてきた。
目に見えて焦る俺を見て、男はやけにご機嫌な様子だった。
「はは、暗髪の魔法使いの魔法を使えない姿ってどうしてこんなに唆るんだろう」
「…あなたは、暗い髪の人を恨んでるのか?」
白髪で生まれつき魔力がないだけで、虐げられてきたなんて、あまりにも不憫で、俺はいつの間にか目の前の誘拐犯に同情してしまっていた。
そんな風に差別されてきたなら恨んで当然だ。
でも、何となく、この人から恨みの感情は伝わってこない。さっき、自身の過去を自嘲的に話していた時も、声音から憎悪は感じなかった。
「ん~そうかもね。いつも見下してる存在に何されても抵抗出来ないなんて、滑稽じゃん?だから、いつもなら適当に遊んだあとは組織に売ってたけど、アンタは他の奴らとは何か違うし、どうしようかなって思ってて」
そう言いながら突然俺に覆いかぶさってきた男は、両手を床について俺を見下ろしてきた。
「それでオレ、いいこと思いついちゃった」
白髪の男のそれまでずっと保たれていた無表情が崩れて、にんまりと口角が上がった。子供がとっておきのいたずらを思いついたような調子でそう言った男が次に発した言葉に、俺は耳を疑った。
「ねぇ、オレの子供を孕んでよ」
ーーーーーーー
次回R18です。
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