初心なイケメンくんの初体験は異世界の騎士団長と 《もだもだラブコメBL》

らくタ

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第1章 出会い

10.5.シモン・イシス

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私、シモン・イシスは昔から人の魔力を"視る”ことが出来た。
この能力は、他人の力量を一目見るだけで量ることが出来るため、騎士団でも非常に重宝されている。
一見するとただ便利な能力だが、この能力を日常的に使っている内に、私は人を魔力で優劣を付けてしまうようになっていた。
魔力の質は、本人の力量だけではなく、魂の美しさと比例する。この世界で、魔力の多い人間は、優れた人間とされるが、人にもてはやされ傲慢になった者の魔力は醜い。

私は副団長という立場と、団長ほどでは無いが顔立ちも整っているため、貴族の子女や子息から言い寄られることは多くとも、その魔力を見れば腹の底の醜さが一目瞭然で、いくら美人ともてはやされている人間であっても、魅力など感じられなかった。

国が運営するこの騎士団で働く魔法使いとしては、魔力が多いことが大前提だ。人材を探すと、魔力が多い人間は髪の色が暗いためすぐに見つけられたが、魔力を視てみればやはり量が多いだけでその質は悪い者ばかりでガッカリするというのが日常だった。

騎士団長であるリベルトは、その透明感のある金髪を見れば分かるように、魔力が極めて少ない。しかし、その極わずかな魔力は眩く煌めいていて、彼の魂が外見と違わず美しいことを表していた。だからこそ、彼は数少ない信頼出来る人間で、魔力が少ないながらも少しの魔法を応用した剣術だけで騎士団長に登りつめた彼は人として尊敬している。

魔力が多い人間は魔力が汚い。この常識がこれまで崩されることはなかった。ハルカ様を一目"視る”までは。

ウラル森林での遠征で、団長が保護した子。
いつの間にか団長の姿が見えなくなったかと思えば、突然見知らぬ子を連れて戻ってきた。団長によると、茂みの中で1人で座り込んでいた上に、服が乱れていたという。それを聞いた時の私は、調査していた人身売買組織の被害者ならば良い手がかりになってくれるだろうと、その子自身には特に興味は沸かなかった。

しかし、しばらくして団長が保護した子にテントで食事を提供しているところを通りすがりに見かけた。その時、フードを脱いでいたその子の髪は少しも茶色が混じっていない純粋な黒色だった。
私は、初めて見たその色にすぐに興味を引かれた。しかし、もしこんなに黒髪を持つ稀有な人間なのだから、その性格は傲慢で、せっかくの大量の魔力も穢れているのではないか。これまで、魔力が美しい暗髪の人間なんて見たことがなかったのだから。
期待してはいけない。そう思いながらおそるおそる魔力を視た瞬間、それまでの心配は、私の中のこれまでの常識とともに消え去った。

その子は、真っ白で純粋な魔力で満ち溢れていた。その美しさは見ているだけで浄化されそうな程で、目が離せなかった。その後、遠くからうっとりその美しい魔力を眺めているところを見つかってしまった時は怖がられてしまったが、身を守る術を持つというもっともらしい理由でハルカ様の魔法の指導をさせてもらえることになり、興奮が抑えられなかった。

魔法の適性検査は、通常六歳を迎えた子供が行うもので、専用の道具を使って魔力の量や得意な属性を知ることが出来る。それから何年も時間をかけて座学でイメージを組み立てる練習をしてから、初めて初級の魔法から実践してみるものだ。

それでも、私は何故かハルカ様ならすぐに魔法を使えるような気がして、ほぼ冗談のつもりでいきなり魔法を使うようにと指示してみた。
すると、ハルカ様は本当に私の真似をしただけで魔法をあっさり習得してしまっただけでなく、私が指示した全ての属性の魔法を使ってみせた。

そこでやっと、団長が大事そうに傍を離れず、私を含めた他の団員に近寄らないように言っていた気持ちが私にも理解できた。

私がこの騎士団の副団長を務めているのは、魔力が見えるスキルと、全属性の魔法を使えるという才能を買われてのことだった。それだけ、全属性魔法が使えるというのは異例だった。その2人目が現れたとなれば、これは国を揺るがす大事件だろう。

団長は、ハルカ様の魔法の才にはもちろん気づいてはいなかったが、騎士団長としての経験と直感から、ハルカ様を一目見た時には既にその危うさを感じていたのかもしれない。それにしても過保護すぎるのは、元々世話焼きな性格の団長と、庇護欲をそそるハルカ様は相性が良すぎたんだろうか。

団長は人の目に触れないようにすることで、守ろうとしているみたいだが、ただ隠しているだけでは限界がある。それならいっそのこと、魔法使いとして騎士団に入団してしまえば他所からは簡単に手出しは出来なくなる。
というのはほぼ建前で、ただ私がハルカ様の魔法を、その成長を近くで見ていたいからというのが本音だけれど。

「これを見ても、まだハルカ様はか弱いと思いますか?」

過保護な団長を認めさせるために、ハルカ様が放った極大の火属性魔法は、1部隊を一撃で壊滅させるほどの威力があった。
ハルカ様の力はもう、一目瞭然だろう。

「……思わない」

やっとのことでその一言を絞り出した団長は、正直まだ危険の多い騎士団にハルカ様を入団させたくない気持ちがありそうだ。
だとしても、言質は取ったのだから、あとは入団させるメリットを後で熱弁しておけばいいだろう。

ああ、早くその美しい魔力が魔法に変わる様をもっと見たい。これからが楽しみで仕方ない。いつの間にかまた興奮した勢いでハルカ様に密着しそうになり、またうっかり素が出て怖がられないよう気をつけなければと思い直して、改めて深呼吸をしながら下がらなくなった口角を隠した。
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