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第1章 出会い
10.カオス
しおりを挟む突如爆発した的から目を離せないまま呆然とした。そして、それは俺だけではなく、周りでこちらを見ていた団員さん達も目を点にして固まっていた。
「次は水属性を!」
「は、はい」
その沈黙を打ち破ったのは、シモンさんの次を急かす声だった。
俺は魔法を使えた感動に浸る間もなく、シモンさんに言われるがままに、慌てて残りの水木光闇の属性の魔法も放っていった。
水属性を放てば、滝のような水量が吹き出てきて床まで水浸しになり、木属性を放てば的を大破しながら木が生い茂り、光属性を放てばレーザー銃のような光線が出て的の中心に穴が空き、闇属性を放てば的がドロドロに溶けた。
俺はこうして、この調子で訓練場にあった的を全て破壊してしまった。
「………はは!素晴らしい…!」
「ありがとうございます…?」
こんな感じで良かったのかな。
思ったよりすんなり魔法が使えてしまって、未だに実感が湧かない。もしかして、魔法って俺が思っていたより、意外と簡単なものだったのかな。
「私と同じ全属性持ちとは…!事前に"視て"いた魔力に間違いはなかったようです」
「見ていた?」
「ああ!私は人の魔力を"視る”スキルがありまして、団長の傍らにいるハルカ様を初めて見た時!このような魔力を持つ人間が居るのかと興奮してしまいまして」
ずっと視線を感じたのも、妙に熱の籠った瞳で見つめてきたのもそれが理由だったのかな。
「ところでハルカ様、騎士団に入りませんか?」
「…え?それはどういう…」
「そのままの意味です!実は今、騎士団ではちゃんとした魔法使いが私しかいなくて…」
騎士団に入る?俺が?
いやいや、魔法も今初めて使ったばかりの貧弱な男が騎士団なんて、相応しくない。
俺がすぐにそう言おうとすると、先程まで固まっていた団員の人達が急に押し寄せてきた。
「副団長!!いい加減説明してくださいよ!」
「森で保護した子だと聞いていたのに、実は新しい魔法使いだったんですか!?」
「さっきの魔法!全属性持ちが副団長の他に居るなんて大問題ですよ!!」
団員達はこれまで溜めていたものを吐き出すように一斉に声を上げた。
「皆さん落ち着いてください。ハルカ様には近寄らないように言われていたでしょう。団長に怒られますよ」
興奮した団員達を落ち着いた声でなだめたシモンさんは、また改めてこちらに向き直って切実な目で訴えてきた。
「今、深刻な魔法使い不足なんです…!どうかハルカ様の手を借りたく…」
「それは副団長が魔力が美しくないとかよく分からないことばかり言ってすぐクビにするからじゃ…」
「おや、あなたのそのうるさい口は凍らせてしまいましょうか」
団員の内の一人が口を挟むと、不気味なほど清々しく微笑んだシモンさんに黙らされてしまった。その一部始終を見ていた俺はシモンさんは絶対に怒らせないようにしようと心に誓った。
「あ、あのお誘いは嬉しいんですが、俺は魔法もまだ初心者ですし…」
「ご心配なく!私が完璧に指導いたします。そうすればハルカ様に勝てる者など居なくなりますよ!」
そこまで言われてしまっては断る理由がない。
そもそも、働かざるもの食うべからずというし、ここでただのんびり居候生活を送らせてもらうわけにはいかないと思っていた。
それに、魔法使いとしてなら、リベルトや騎士団の人達に恩返しが出来るかもしれない。
「ハルカを騎士団に入れるとか聞こえた気がしたが、俺の気のせいか?」
俺がシモンさんに頷こうと決心した時、いつの間にか近くまで来ていたリベルトが、眉間に皺を寄せて、普段よりいっそう低い声で言い放った。その鋭く細められたワインレッドの瞳の矛先はシモンさんに向けられていた。
「気のせいではありませんよ。私がお誘いしました。」
団員たちはリベルトの尋常じゃない様子を見て、慌てて離れていったが、シモンさんは全く臆すことなく笑顔でリベルトに向き合っていた。
「ハルカを騎士団には入れない」
「お気持ちは分かりますが、ハルカ様には魔法使いとしての優れた才能があります」
「そんなことは関係ない。絶対に許可しない。」
こんなに怒ったリベルトは初めて見た。
美形は怒ると怖いとよく聞くけど、それは本当だと実感する。リベルトの凛々しい顔立ちと堂々とした立ち姿から発せられる強いオーラは、人を圧倒するものだった。
リベルトは、俺を騎士団に入れたくないみたいだ。騎士団に入りたかったわけではないのに、胸がぎゅっと締め付けられて苦しくなった。
昨日2人で話している時、記憶が無いと言った俺に、優しく大丈夫だと言ってくれたけど、騎士団の団員さんに俺に近寄らないように言っていたり、裏ではずっと信用出来ないやつだと思っていたのかな。でも、今までのリベルトのあたたかい眼差しに嘘はなかったように思える。
「ハルカ、騎士団に入りたいのか?」
そうだ。リベルトは、こうやっていつも俺の気持ちを真っ先に確認してくれる。
「はい、お世話になるばかりは嫌なんです」
「騎士団の仕事には危険も多い。魔法の才能があるとしてもハルカには…」
やっぱり、リベルトは弱い俺を心配してくれてるんだ。俺が騎士団に入って、あっけなくやられるんじゃないかって。
「あなたが反対するのは想定内でした。かよわいハルカ様に何かがあったらと考えると怖いんですよね。分かりますよ。しかし、とりあえずハルカ様の実力を見てから言ってもらえますか?」
「今さっき適性検査をしたばかりなんだろう?魔法はこれから練習していく予定では…」
「ハルカ様、さっきよりも力を込めてあちらに魔法を放ってください。」
「分かりました」
まだ、魔法はさっき使えるようになったばかりだけど、リベルトに認めて貰えるように頑張らないと。
俺は、シモンさんが示した訓練場の中心に向かって、今度は爆弾をイメージして思い切り火属性魔法を放った。
バァァァァン!!!!
かなり遠くに放ったつもりだったのに、爆風がこちらまで吹いてきた。
思ったより大きな爆発が起きてしまって、冷や汗を垂らしながらリベルト達の顔色を伺った。
「…………」
「ははははは…!!!」
目を点にして固まってしまったリベルトと少し遠くから見ていた団員達に対して、目が完全にキマリきっているシモンさんが高笑いしているという絵面は、あまりに対照的すぎて状況はカオスを極めていた。
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