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第1章 出会い
6.眼鏡の男
しおりを挟む何となく離れるタイミングが分からなくて、そのまましばらくリベルトと抱きしめあっていると、リベルトの肩越しに、他の団員達が休憩している少し離れたところから何故かこちらを見ている1人とふいに目が合った。
その人は長い茶色の髪を束ねて肩の横に流していて、眼鏡をかけた切れ長の目元が知的さを醸し出していた。しかし、その男の口元はとんでもなく面白いものを見たかのようににんまりと弧を描いており、一瞬たりとも俺から目を離さない様子に何だか蛇に睨まれた蛙のような感覚に陥る。
馬に乗る時やここまで向かう最中、他の団員さんとは何故か全く目が合わなかった。
それなのに何となくずっと視線を感じるのが気になっていたが、その正体はこの眼鏡の人だったのかもしれない。
「あの、リベルト」
俺はリベルトに密着していた身体を離して見上げると、思ったよりリベルトの凛々しい顔が近くにあって、びっくりした。
「どうした、もう大丈夫なのか?」
そう聞かれると、何だかもう少しそのままでも良かったなという気もしたけど、それよりも依然としてこちらをガン見している人物が気になってしまう。
「ありがとうございました、もう大丈夫です。それより、あの眼鏡の方って…」
俺がそう問いかけると、リベルトはハッとしたように例の眼鏡の男の方に顔を向けた。
すると、眼鏡の男はまるでこちらの話を聞いていたかのようなタイミングで、突然すごい速さでこちらに駆けてくると、俺たちの目の前で丁寧に深い一礼をした。
「私はシモンと申します。以後お見知り置きを」
「ハルカ、こいつは相手にしなくていい。」
「何をおっしゃいます!私も一応副団長なんですがね」
このシモンという人は、副団長だったらしい。そういえば、騎士団にはこんなにお世話になっているというのに、リベルト以外の人に挨拶していなかった。
「俺はハルカと言います。お世話になっているのに、挨拶が遅くなってすみません。」
「おや、なんて礼儀正しい子なんでしょう。お気になさらず。そこの団長が私たちを近寄らせないようにしていただけですから」
リベルトが近寄らせないようにしてた?
そういえば、こんなに沢山団員が居るのに、誰も目が合わないのが不思議だったことを思い出してリベルトを見ると、片手で頭を抱えて、ため息をついていた。
「お前こそ、勝手に"視て”いただろう。」
「いいえ?あなたがさり気なくハルカ様の細い腰に手を回してちゃっかりその柔らかそうな黒髪に触れていたところなんて見ていませんよ。」
「お前…」
話のテンポについていけなくて、2人の話していることがよく分からない。リベルトに何で他の人を近づけないようにしていたのか聞こうとしていたけど、タイミングを逃してしまった。
俺の前ではまさに清廉潔白な騎士様という印象だったリベルトだったが、シモンに対してはくだけた話し方で、素で話している感じがする。やっぱり騎士団の団長と副団長となると、仲が良いんだな。
「そんなことより!ハルカ様はどんな魔法を使われるのでしょうか?私はハルカ様のその黒髪を見た時からそれが気になりすぎて頭がおかしくなりそうなんですよ」
ふいに自分に話題が向けられて、
確かに異世界といえば魔法が定番だけど、こんな何のブランドの服着てるの?みたいなノリで聞かれるとは思わなかった。
どうしよう。俺って魔法使えるのかな。よく聞く異世界の話では、主人公は神様に魔法のチート能力を貰っていたけど、俺は貰った覚えがないし、使えそうな感じもしない。
「シモン、やめろ。ハルカが困ってる。」
「そうですね。私としたことが、つい不躾に聞いてしまいました。」
俺がなかなか答えられずに焦っていると、リベルトが助けてくれた。シモンさんも、先程までの勢い余ったテンションとは打って変わって、申し訳なさそうに項垂れつつもフォローしてくれた。
第一印象は何だか圧が強くて怖い人だなという感じだったけど、やっぱりいい人の友達はいい人なんだよな。
「すみません、大丈夫です。ただ、その…魔法を使ったことがなくて…」
魔法のことなんて何も分からないし、適当なことは言えないから、またもや何とも微妙なことしか答えられなかった。
「使ったことがない!??」
すると、シモンさんは腹の底から出ているくらい大きな声を出して、目ん玉が飛び出そうなほど目を見開きながら俺の両肩をガシッと掴んできた。
どうしよう。ものすごくまずいことを言ってしまったのかもしれない。
「こんなの、おかしいですよね。」
苦し紛れに俺が笑って誤魔化そうとすると、シモンさんの目の色が変わった。
「おかしくなんてありませんよ!それならば僭越ながらぜひ私に指導させていただけませんか!?こう見えて魔法には自信がありまして」
突然顔と顔がくっつきそうなくらい近づいてきたシモンさんに驚いて身体が仰け反ってしまったが、リベルトが支えてくれたので倒れずにすんだ。
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