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第1章 出会い
5.夢
しおりを挟む騎士団もといリベルトに世話になることになった俺は、騎士団一行とともに、騎士団の本部があるらしい、このアルシュタイン国の城下町に向かった。
森の中の仮拠点で、俺が呑気に美味しいご飯を食べてリベルトとお喋りしている間に、騎士団の他の人たちは帰る準備を進めていたらしく、リベルトにぜひお世話になりたいと伝えたら、すぐに「では向かおうか」と言われた時は驚いたが、リベルトのような出来る男っていうのは、こんなにスマートなのかと妙に納得した。その後も、いざ向かおうとした時にまた抱えられそうになって、慌ててもう歩けるから大丈夫だと遠慮した。やけに子供扱いされているのは何故なんだろう。
拠点から少し歩くと、木の葉の影が少なくなり、開けた場所に何十頭もの馬が大人しく並んでいた。
どうやら、今まで居た森の奥の方は植物が生い茂っていて、馬は通れないからここに置いてきていたらしい。
「ここからは馬で行くからな」
リベルトは俺を連れて一頭の白い馬の近くに来て、馬のサドルを調整していた。
もしかして、俺はこれに乗らないといけないのかなと心配していたら、リベルトは先に馬に跨り、極めて当然のことのようにこちらに手を差し伸べてきた。リベルトは油断すると騎士様ムーヴをしてくるからすごいんだよな、と改めて思いつつも、馬に1人では乗れない自分が悪いのでありがたくリベルトの手を取って前に乗せてもらった。
リベルトに後ろから包まれるような体勢になってしまって、初めは距離の近さにちょっと緊張したが、鎧を脱いでいるリベルトの懐の温かさと、馬が比較的ゆっくり歩いていることも相まって、段々うとうとしてきてしまった。
『キャハハハ』
男女の入り交じった笑い声がぼんやりと遠くから聞こえてきた。
『はぁ…興奮してきた』
そして、目の前にはあの時のテニスサークルの金髪の先輩が、赤い顔で口で息をしながら、足の間から彼自身の膨らんだものを見せつけてこちらを見ながら舌なめずりをしている。
押し倒されたまま動けないでいる俺に、先輩がお腹から胸のあたりをいやらしい手つきで撫で回しているのが見える。
自分は今、震えながら涙を零しているはずなのに、何だか頭は冷めきっていて、自分のことのように思えなかった。
そういえば、リベルトはどこに行ったんだろう。
どんどん身体の内側から冷えきっていく感覚がして、またあの優しい手のぬくもりを求めてしまう。
この先輩は同じ金髪でもリベルトとは全く違っている。リベルトの髪は陽の光が透き通って輝いていて、比べ物にならないほど綺麗だった。
あれは、全部夢だったのかな。
それなら、もう二度と目覚めたくなかった。俺はまだ出会ったばかりでリベルトのことを何も知らないけど、もう大丈夫だと慰めてくれた時の頭から伝わる手のぬくもりや、言葉を交わしている時の安心感を確かに覚えている。本当にリベルトは都合の良い俺の夢の中の住人だったのかな。
「ハルカ」
ふいに、聞き覚えのある低くて落ち着く声音が聞こえると、周りの騒がしかった男女の声は消え、静寂が広がった。
そして柔らかくて温かいものが頬に優しく触れてきて、俺は、それをもう手放したくなくて、それに縋るように頬を擦った。
「…っ、ハルカ、大丈夫か?」
すると、少し焦ったような低音が、やけに近くで聞こえて、意識が浮上した。
ゆっくり瞼を持ち上げると、心配の色が滲むワインレッドの瞳と視線が重なった。
「リベルト?」
リベルトが目の前に居た。そして、リベルトの大きな手が自分の頬に触れていて、いつの間にか俺はその手を両手で力強く掴んでいた。
「…ここは?」
すぐに辺りを見回すと森林ではなく、見晴らしの良い平原で、少し離れたところで、騎士団の人たちが楽しそうに談笑している様子が見えた。
「ハルカが寝てしまったから、少し休憩にしようと一度馬から降りたんだが…」
俺は寝ていて、今目覚めたんだ。
つまり、夢だったのはあちらの方で、リベルトも俺の妄想なんかじゃなくて、本当に存在していたんだ。
「魘されていたようだったが、大丈夫か?」
こうして、またリベルトが温かい手のひらで触れて、頭を撫でて心配してくれる。相変わらずの子供扱いが、たまらなく嬉しく感じた。
「リベルト…!」
感極まった俺は思わず、リベルトのたくましい身体に勢いよく抱きついてしまった。
リベルトは、そんな俺を拒むことなくすぐに抱きしめ返して、そのまままた頭を優しく撫でてくれた。
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