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第1章 出会い
4.騎士団の拠点
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拠点には、リベルトと同じように鎧を身にまとった人達が居た。騎士団の拠点というのは、仮とはいえど、隊員が快適に過ごせる設備が整っていて、ちゃんとした料理場まであるらしく、リベルトと自分の間にある机に並べられた美味しそうな肉料理や野菜は、そこで騎士団の料理人の人が作ってくれたものらしい。
「美味しい…」
「口にあったようで良かった。まだ沢山あるから、いくらでも食べてくれ。」
まだ湯気が出ているほかほかのステーキらしき肉料理を、ナイフとフォークで切り分けて口に運んだ。噛んだ瞬間にジュワッと肉汁が染み出し、あっという間に口の中で溶けるようになくなってしまった。せっかく用意してくれたのに食欲が出なかったらどうしようかと思ったけど、一度緊張の糸が解けると急にお腹の音が鳴り出して、フォークを口に運ぶ手が止まらなくなってしまった。色んなことがあっても、人間は結局生存本能には抗えないんだなとしみじみと感じる。
「ごちそ……美味しくいただきました。」
ついご馳走様でしたと言いそうになって、慌てて言い換えた。この世界でこの言葉があるとは限らないし、慎重に言葉は選ばないと不審がられてしまうかもしれない。
思えば、何となくこの世界は地球で言うところのヨーロッパの辺りの国に近いのかもしれない。拠点に着いてすぐに貸してもらった着替えを改めてよく見てみると、中世ヨーロッパで町民が着ているようなシンプルな布地のデザインだった。
「サイズの合う服がなくてすまない。」
俺が服をまじまじと眺めていると、申し訳なさそうにリベルトがこちらを見ていた。何か誤解させてしまったかな。ちゃんとした服を貸してくれただけでなく、美味しいご飯まで食べさせてくれたリベルトが、そんな風に謝る必要なんて全くないというのに。むしろ謝るなら色々と迷惑かけている俺の方だと、慌ててただ初めて見た服だったから見ていただけと説明すると、俺の"初めて見た”という言葉に反応してリベルトが眉をひそめた。
何か不味いことを言ったかな。もしかして、この服はこの世界で有名なブランドだったとか?だとしたら盛大にやらかしたかもしれないと冷や汗をかいた。
「もういいのか?子供は沢山食べないと大きくなれないぞ。」
俺の失言は忘れてくれたようで、俺の前に並ぶ綺麗になった皿を見てリベルトが気前よくおかわりを勧めてくれた。せっかく勧めてくれたのに申し訳無いけど、大きめのステーキ1枚にサラダなどを食べたお腹はもうぱんぱんだった。
「すみません、もう大丈夫です。あと、一応19歳なので子供ではないですよ」
子供と言ったのはリベルトよりは小柄な自分へのジョークかと思ったが、年齢を聞いたリベルトは目を見開いて驚いていて、どうやら本気で子供だと思っていたようだった。
日本ではそこまで童顔だと言われたことはなかったけど、日本人は外国では幼く見えるという話は本当らしい。
その後、膨らんだお腹を撫でて一息ついていると、ふいに家の場所を聞かれて非常に焦った。適当に答えるにも、この世界の地名は全く分からないし、だからと言って自分の家が分からないなんて言ったらそれこそ頭のおかしいやつだと思われるに決まってる。そうして俺が絞り出した答えは、"無い”だった。そもそも家は存在しないということにした。本当にこの世界にはないから嘘も付いていない。自分からホームレス宣言をすることになるなんて人生分からないものだよな、と自分の判断を肯定しようとするも、森の中にひとりぼっちで居たホームレスってますます怪しいのでは、と気づいてがっくり項垂れた。もうダメかもしれない。いくらリベルトが優しいとは言え、騎士団としては、こんなあからさまな不審者は見逃せないだろう。
俺は、逮捕されるという最悪の事態を想像していたのに次に聞こえた言葉はあまりにも自分にとって都合が良すぎて、素で聞き返してしまった。
「え?」
「君が良ければ、騎士団の寮に住まないかという提案なんだが…」
今さっきの自分の回答のどこを聞いたらそんな提案が出てくるのか。不審者とはいえ可哀想だから助けてくれるということだろうか。そんなにお人好しで騎士団でやっていけてるのかと普通に心配になるな、と失礼なことを考えてしまった。
理由はよく分からないけど、こんな都合が良い話、乗らないわけにはいかない。
「こちらこそぜひお願いします。」
食い気味になりそうなのを頑張って抑えながら出来るだけ控えめにこちらからもお願いすると、リベルトはにっこりと微笑んで歓迎すると言ってくれた。
「ところで、君の名前をもし良かったら教えて欲しい」
リベルトからは職業まで聞いておきながら、俺は名乗っていなかったことに気づいて、慌てたが、ついさっき慌てて失言をしたことを思い出して、一度大きく息を吸って吐いた。
「俺は遥と言います。」
「"ハルカ”か、初めて聞く響きだが、とても綺麗な名だな。君によく似合っている。」
「あ、ありがとうございます。」
すごいな、こんな風に褒められたら口説かれてるのかと思ってしまう。男の俺でも少し照れるくらいだから、女の子からしたら凄い破壊力だろう。リベルトは見ず知らずの俺みたいな男がいきなり泣き出しても優しく慰めてくれるくらい優しい。しかもこんな美丈夫ときたら、女性からしたら理想の相手だろう。きっと素敵な彼女さんが居るんだろうな。なんなら、もう結婚までしていてもおかしくない。
男として、素直に憧れる。俺は昔、少女漫画に登場するようなヒーローに憧れていた。俺には向いてなかったともうとっくに諦めてはいたけど、実際に本物を目の当たりにすると、嫉妬すら出来ないことを知った。
「美味しい…」
「口にあったようで良かった。まだ沢山あるから、いくらでも食べてくれ。」
まだ湯気が出ているほかほかのステーキらしき肉料理を、ナイフとフォークで切り分けて口に運んだ。噛んだ瞬間にジュワッと肉汁が染み出し、あっという間に口の中で溶けるようになくなってしまった。せっかく用意してくれたのに食欲が出なかったらどうしようかと思ったけど、一度緊張の糸が解けると急にお腹の音が鳴り出して、フォークを口に運ぶ手が止まらなくなってしまった。色んなことがあっても、人間は結局生存本能には抗えないんだなとしみじみと感じる。
「ごちそ……美味しくいただきました。」
ついご馳走様でしたと言いそうになって、慌てて言い換えた。この世界でこの言葉があるとは限らないし、慎重に言葉は選ばないと不審がられてしまうかもしれない。
思えば、何となくこの世界は地球で言うところのヨーロッパの辺りの国に近いのかもしれない。拠点に着いてすぐに貸してもらった着替えを改めてよく見てみると、中世ヨーロッパで町民が着ているようなシンプルな布地のデザインだった。
「サイズの合う服がなくてすまない。」
俺が服をまじまじと眺めていると、申し訳なさそうにリベルトがこちらを見ていた。何か誤解させてしまったかな。ちゃんとした服を貸してくれただけでなく、美味しいご飯まで食べさせてくれたリベルトが、そんな風に謝る必要なんて全くないというのに。むしろ謝るなら色々と迷惑かけている俺の方だと、慌ててただ初めて見た服だったから見ていただけと説明すると、俺の"初めて見た”という言葉に反応してリベルトが眉をひそめた。
何か不味いことを言ったかな。もしかして、この服はこの世界で有名なブランドだったとか?だとしたら盛大にやらかしたかもしれないと冷や汗をかいた。
「もういいのか?子供は沢山食べないと大きくなれないぞ。」
俺の失言は忘れてくれたようで、俺の前に並ぶ綺麗になった皿を見てリベルトが気前よくおかわりを勧めてくれた。せっかく勧めてくれたのに申し訳無いけど、大きめのステーキ1枚にサラダなどを食べたお腹はもうぱんぱんだった。
「すみません、もう大丈夫です。あと、一応19歳なので子供ではないですよ」
子供と言ったのはリベルトよりは小柄な自分へのジョークかと思ったが、年齢を聞いたリベルトは目を見開いて驚いていて、どうやら本気で子供だと思っていたようだった。
日本ではそこまで童顔だと言われたことはなかったけど、日本人は外国では幼く見えるという話は本当らしい。
その後、膨らんだお腹を撫でて一息ついていると、ふいに家の場所を聞かれて非常に焦った。適当に答えるにも、この世界の地名は全く分からないし、だからと言って自分の家が分からないなんて言ったらそれこそ頭のおかしいやつだと思われるに決まってる。そうして俺が絞り出した答えは、"無い”だった。そもそも家は存在しないということにした。本当にこの世界にはないから嘘も付いていない。自分からホームレス宣言をすることになるなんて人生分からないものだよな、と自分の判断を肯定しようとするも、森の中にひとりぼっちで居たホームレスってますます怪しいのでは、と気づいてがっくり項垂れた。もうダメかもしれない。いくらリベルトが優しいとは言え、騎士団としては、こんなあからさまな不審者は見逃せないだろう。
俺は、逮捕されるという最悪の事態を想像していたのに次に聞こえた言葉はあまりにも自分にとって都合が良すぎて、素で聞き返してしまった。
「え?」
「君が良ければ、騎士団の寮に住まないかという提案なんだが…」
今さっきの自分の回答のどこを聞いたらそんな提案が出てくるのか。不審者とはいえ可哀想だから助けてくれるということだろうか。そんなにお人好しで騎士団でやっていけてるのかと普通に心配になるな、と失礼なことを考えてしまった。
理由はよく分からないけど、こんな都合が良い話、乗らないわけにはいかない。
「こちらこそぜひお願いします。」
食い気味になりそうなのを頑張って抑えながら出来るだけ控えめにこちらからもお願いすると、リベルトはにっこりと微笑んで歓迎すると言ってくれた。
「ところで、君の名前をもし良かったら教えて欲しい」
リベルトからは職業まで聞いておきながら、俺は名乗っていなかったことに気づいて、慌てたが、ついさっき慌てて失言をしたことを思い出して、一度大きく息を吸って吐いた。
「俺は遥と言います。」
「"ハルカ”か、初めて聞く響きだが、とても綺麗な名だな。君によく似合っている。」
「あ、ありがとうございます。」
すごいな、こんな風に褒められたら口説かれてるのかと思ってしまう。男の俺でも少し照れるくらいだから、女の子からしたら凄い破壊力だろう。リベルトは見ず知らずの俺みたいな男がいきなり泣き出しても優しく慰めてくれるくらい優しい。しかもこんな美丈夫ときたら、女性からしたら理想の相手だろう。きっと素敵な彼女さんが居るんだろうな。なんなら、もう結婚までしていてもおかしくない。
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