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第1章 出会い
3.騎士様
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「落ち着いたか?」
「…はい」
数十分泣き続け、ついに涙が枯れて出なくなった俺に、彼はハンカチを渡してくれた。沢山泣いて、頭がスッキリした俺は、大の男が大の男に慰められていた状況に、急に恥ずかしさが込み上げてきた。
「あの、すみません。ご迷惑おかけしました。」
「君が気にすることはない。それだけ辛い目にあったんだろう。」
俺が慌てて頭を下げ謝ると彼は柔らかな笑みを浮かべて許してくれた。
「服はすぐに用意するから、すまないが少しの間だけそれで我慢してくれ」
そう言われて改めて自分の服装を見てみると、確かにシャツのボタンは無理やり脱がされた時にちぎれてしまっていて、もう使い物になりそうにない。なるほど、彼はこのだらしのない服を隠すためにコートを着せてくれたのか。本当に紳士的な人だな。
数分後、鎧に身をまとった男が走って来て、こちらに向かって軽く敬礼をした。
「団長!遅くなりました!」
「私はこの子を連れていくから、お前達は先に戻って準備を頼む。」
彼らは少し言葉を交わした後、すぐにどこかに走っていってしまった。せっかく来たのに何ですぐ去っていったんだろうと俺が不思議に思っていると、近くの拠点で俺を受け入れる準備を頼んでおいたから、これから一緒に拠点に向かおうと言ってくれた。安全な場所に連れて行ってもらえるのは、本当にありがたい。彼と偶然出会えていなかったら、と想像すると思わず身震いしてしまう。
そして、移動するために腰を持ち上げようとすると、思ったより力が入らずよろけてしまう。
「大丈夫か?」
すると、すかさず腰に手を回して支えてくれた彼は、眉毛を下げて少しこちらを心配の色が滲む深いワインレッドの瞳で見つめてくる。それは、世界中の女性を虜にしてしまう程の破壊力があった。自分が女子だったら、まるで少女漫画のワンシーンだなと、あまりの現実味のなさについ感動してしまう。
「あ、ありがとう、ございます」
俺がくだらないことを考えている間に謎の間が出来てしまっていたことに焦って慌てて笑顔を作ると、彼は眉毛を下げて無理はしなくていいと微笑んでくれた。
「私が横抱きで運んでもいいだろうか?」
横抱きとは何だろう。よく分からないけど、俺はどうやら腰を抜かしていたようで、自分では歩けそうになく、承諾するしかなかった。
しかし、その後俺は少し後悔した。
横抱きはどうやら所謂お姫様抱っこのことだったらしく、大の男に大の男がお姫様抱っこされているという恥ずかしすぎる状況がもう10分近く続いている。
俺の体重は普通よりは軽いくらいだが、それなりの重さはある。それをこの男は軽々と持ち上げて、汗ひとつ流さず颯爽と歩を進めている。彼はしっかりとした体格で、俺より15cmは身長が高そうだが、それにしてもこんなに力があるなんて、一体何者なんだろう。
「あの、あなたはどこかの騎士様だったりするんでしょうか」
ついに聞いてしまった。俺から見た第一印象はおとぎ話の騎士様だったが、この世界に騎士というものがあるのかも分からないし、全然違ったら普通に俺の妄想を直接本人に言ってしまったことになってしまう。せっかく助けてもらったのにそうなったら俺は羞恥で死んでしまう。
「ああ、名乗るのが遅れてすまない。私はこのアルシュタイン国の第一騎士団に務めているリベルト・アルバインという。」
彼は言い忘れていたという調子でサラッと教えてくれて、少し拍子抜けする。
騎士団に所属しているということは、彼は本当に騎士様なのか。じゃあ、さっきここに来た鎧を来た人も同じ騎士団の
人だったんだろうか。しかし、リベルトはただの一般団員ではないような気がする。偉い人にお世話になりすぎるのは抵抗があるけど、今の俺はリベルトに頼るしかないし、生きていく術が見つかるまで面倒見てくれないかな。流石に図々しいか。
俺が黙り込んでこれからについて悩んでいると、何やら暗い表情でリベルトが尋ねてきた。
「…君は、何故あんなところに居たのか聞いてもいいか?」
どう答えるべきだろう。神様に呼ばれて異世界から来たなんて言っても頭おかしいヤツになってしまうし、他に森に居た理由なんて思いつかない。
「それが、分からなくて、気づいたらあそこに居て…」
早く答えないと怪しいヤツだと思われてしまう。そうなったら、またここに置いていかれてしまうかもしれないと、焦って涙目になりながら必死に考えたが、結局はなんの答えにもなってないことしか言えなかった。
リベルトは俺のそんな答えを聞いて、一気に眉をひそめ、先程までの柔和な表情とは打って変わった険しい顔つきになった。あんなに優しく慰めてくれた人を怒らせてしまった。喉がキュッと締まる。すると、じわりと、また目元が濡れてきた。
俺ってこんなに泣き虫だったかな。短期間で泣きすぎて、涙腺がおかしくなってしまったのかもしれない。こんな風に泣きだしたら、さらに不審がられてしまうのに。急いで目元を腕で拭ってもどんどん零れてきて、これではバレバレだ。
「すまない、酷なことを聞いた。」
俺の予想に反して、リベルトは俺に同情してくれているようだった。
こんなよく分からない人間にまで優しくしてくれるなんて、リベルトは本当にお人好しなんだろう。酷なことなんて、何もないというのに。否定したくても、他に言えることがないからただ黙ることしか出来なかった。
そうしているうちに、拠点という所に到着した。
「…はい」
数十分泣き続け、ついに涙が枯れて出なくなった俺に、彼はハンカチを渡してくれた。沢山泣いて、頭がスッキリした俺は、大の男が大の男に慰められていた状況に、急に恥ずかしさが込み上げてきた。
「あの、すみません。ご迷惑おかけしました。」
「君が気にすることはない。それだけ辛い目にあったんだろう。」
俺が慌てて頭を下げ謝ると彼は柔らかな笑みを浮かべて許してくれた。
「服はすぐに用意するから、すまないが少しの間だけそれで我慢してくれ」
そう言われて改めて自分の服装を見てみると、確かにシャツのボタンは無理やり脱がされた時にちぎれてしまっていて、もう使い物になりそうにない。なるほど、彼はこのだらしのない服を隠すためにコートを着せてくれたのか。本当に紳士的な人だな。
数分後、鎧に身をまとった男が走って来て、こちらに向かって軽く敬礼をした。
「団長!遅くなりました!」
「私はこの子を連れていくから、お前達は先に戻って準備を頼む。」
彼らは少し言葉を交わした後、すぐにどこかに走っていってしまった。せっかく来たのに何ですぐ去っていったんだろうと俺が不思議に思っていると、近くの拠点で俺を受け入れる準備を頼んでおいたから、これから一緒に拠点に向かおうと言ってくれた。安全な場所に連れて行ってもらえるのは、本当にありがたい。彼と偶然出会えていなかったら、と想像すると思わず身震いしてしまう。
そして、移動するために腰を持ち上げようとすると、思ったより力が入らずよろけてしまう。
「大丈夫か?」
すると、すかさず腰に手を回して支えてくれた彼は、眉毛を下げて少しこちらを心配の色が滲む深いワインレッドの瞳で見つめてくる。それは、世界中の女性を虜にしてしまう程の破壊力があった。自分が女子だったら、まるで少女漫画のワンシーンだなと、あまりの現実味のなさについ感動してしまう。
「あ、ありがとう、ございます」
俺がくだらないことを考えている間に謎の間が出来てしまっていたことに焦って慌てて笑顔を作ると、彼は眉毛を下げて無理はしなくていいと微笑んでくれた。
「私が横抱きで運んでもいいだろうか?」
横抱きとは何だろう。よく分からないけど、俺はどうやら腰を抜かしていたようで、自分では歩けそうになく、承諾するしかなかった。
しかし、その後俺は少し後悔した。
横抱きはどうやら所謂お姫様抱っこのことだったらしく、大の男に大の男がお姫様抱っこされているという恥ずかしすぎる状況がもう10分近く続いている。
俺の体重は普通よりは軽いくらいだが、それなりの重さはある。それをこの男は軽々と持ち上げて、汗ひとつ流さず颯爽と歩を進めている。彼はしっかりとした体格で、俺より15cmは身長が高そうだが、それにしてもこんなに力があるなんて、一体何者なんだろう。
「あの、あなたはどこかの騎士様だったりするんでしょうか」
ついに聞いてしまった。俺から見た第一印象はおとぎ話の騎士様だったが、この世界に騎士というものがあるのかも分からないし、全然違ったら普通に俺の妄想を直接本人に言ってしまったことになってしまう。せっかく助けてもらったのにそうなったら俺は羞恥で死んでしまう。
「ああ、名乗るのが遅れてすまない。私はこのアルシュタイン国の第一騎士団に務めているリベルト・アルバインという。」
彼は言い忘れていたという調子でサラッと教えてくれて、少し拍子抜けする。
騎士団に所属しているということは、彼は本当に騎士様なのか。じゃあ、さっきここに来た鎧を来た人も同じ騎士団の
人だったんだろうか。しかし、リベルトはただの一般団員ではないような気がする。偉い人にお世話になりすぎるのは抵抗があるけど、今の俺はリベルトに頼るしかないし、生きていく術が見つかるまで面倒見てくれないかな。流石に図々しいか。
俺が黙り込んでこれからについて悩んでいると、何やら暗い表情でリベルトが尋ねてきた。
「…君は、何故あんなところに居たのか聞いてもいいか?」
どう答えるべきだろう。神様に呼ばれて異世界から来たなんて言っても頭おかしいヤツになってしまうし、他に森に居た理由なんて思いつかない。
「それが、分からなくて、気づいたらあそこに居て…」
早く答えないと怪しいヤツだと思われてしまう。そうなったら、またここに置いていかれてしまうかもしれないと、焦って涙目になりながら必死に考えたが、結局はなんの答えにもなってないことしか言えなかった。
リベルトは俺のそんな答えを聞いて、一気に眉をひそめ、先程までの柔和な表情とは打って変わった険しい顔つきになった。あんなに優しく慰めてくれた人を怒らせてしまった。喉がキュッと締まる。すると、じわりと、また目元が濡れてきた。
俺ってこんなに泣き虫だったかな。短期間で泣きすぎて、涙腺がおかしくなってしまったのかもしれない。こんな風に泣きだしたら、さらに不審がられてしまうのに。急いで目元を腕で拭ってもどんどん零れてきて、これではバレバレだ。
「すまない、酷なことを聞いた。」
俺の予想に反して、リベルトは俺に同情してくれているようだった。
こんなよく分からない人間にまで優しくしてくれるなんて、リベルトは本当にお人好しなんだろう。酷なことなんて、何もないというのに。否定したくても、他に言えることがないからただ黙ることしか出来なかった。
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