初心なイケメンくんの初体験は異世界の騎士団長と 《もだもだラブコメBL》

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第1章 出会い

1.佐々木 遥

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生まれて初めて『恋愛』というものを知ったのは小学三年生の時だった。

いとこのお姉ちゃんが、お気に入りの少女漫画を貸してくれて、題名は忘れてしまったけど、その物語のヒーローは、ヒロインがピンチの時はすぐに駆けつけて、かっこよく助ける。まるでおとぎ話の騎士様のようだと幼いながらに思ったのを覚えてる。男児がかっこいいものに憧れるのはごく普通なことで、俺はそれが少女漫画のヒーローだった。

それから親や友達にバレないようにこっそりいとこのお姉ちゃんから少女漫画を借りるようになり、思春期を迎えた頃には、気づけば『恋愛』に強い憧れを抱くようになっていた。
 
特に仲良くもない女子と少し手が触れただけで、少女漫画の手を繋ぐシーンが頭をよぎり、逃げ出してしまったり、とにかく意識しすぎてまともに話すことすら出来なくなっていた。

幸い、俺は女子相手でなければコミュニケーション力はそれなりにあったので、クラスで浮くことはなく、いつも男子とばかりつるんでいたが、それなりに楽しい学校生活を送れたと思う。
俺が不思議なほどに男子としか話さないから、俺がゲイなんじゃないかとからかうヤツらも居たが、そういう時は仲の良い友達が「こいつは女子と話せない可哀想なヤツなんだ!」と熱弁し、助けてくれた。
ゲイとからかわれなくなった代わりに、男子からは哀れみの目で、女子からは童貞なんだ…という目で見られるようになってしまった気がしたが、当時既に高校三年生だった俺は、こんな自分が彼女を作れるわけがないと諦めていたから、耐えることができたんだと思う。

そんなこんなで俺の青春時代は終わったかと思いきや、俺にも転機が訪れた。
高校まで住んでいた地方の田舎を飛び出し、都内の有名大学に入学した。
元々勉強はそれなりに出来る方だったから、本気で勉強してみたら案外すんなり合格することが出来たのは自分でもちょっとすごいと思う。

入学式の夜は、人が多い都会の大学なら、今度こそ良い出会いがあって、初めての彼女が出来るかもしれないと期待に胸を膨らませた。
恋愛をしたいと思っていても、これまでは意識しすぎるあまり、女子と仲良くなれず、ちょっと良いなと思っていた子とも、まともに話すことすら出来ずに卒業してしまった。

お互い愛し合って、一緒になんてことない時間を過ごして、時には喧嘩したり離れたりしても、好きだから許せる。そんな少女漫画で見てきた恋愛をいつか自分も出来たら、と夢見ていたんだ。

しかし、そんな子供じみた夢は、大学に入学してすぐに打ち砕かれた。

入学式の帰り道、サークルの勧誘でガヤガヤと賑わう大学の門の近くで、『遊びも恋愛も勉強も、両立できるテニスサークルだよ!』と声をかけられて、『恋愛』という言葉に反応して足を止めたら、「恋愛したいならこのサークルしかないよ!」という押しに負けてテニスサークルに入会した。
この時はテニスは最近運動不足だから丁度いいし、本当に恋愛が出来るサークルだったらいいなと少し期待してしまっていたけれど、後日開催された新入生歓迎会で、おれは現実を思い知らされることになる。

まず、サークルの幹事の男が紹介していた年間スケジュールには、『テニス』という文字はひとつも無く、あるのは飲み会という文字と、人気テーマパークの名前だけだった。俺は思わず、貰ったパンフレットの表紙を見てテニスサークルだったか確認してしまった。
説明が終わったらすぐ始まった飲み会で、隣に座っていた、金髪の男の先輩に、「ここはテニスサークルですよね?テニスの練習の予定がないみたいですが」と聞いたら、周りに座っていた他の先輩と一緒になって腹を抱えてゲラゲラと笑われた後に、
「これが普通のテニサーじゃん笑 君さ、綺麗な顔してるんだからそんな初心丸出しだとすぐ食べられちゃうよ笑」と言われてしまった。

特に自分を初心だと思ったことはなかった俺はそれはどういう意味ですかと聞き返そうとしたが、少し離れた席が何やら盛り上がっていて、その内の1人だった女の先輩が金髪の先輩に声をかけた。
「タケル~!今日はあたしとしようよ!」
「オレビッチには勃たないから無理~」
「はー?ヤリチンにいわれたくないんですけど!」
ガハハハハと男女の笑い声が店内に響いた。

最初は何の話をしているのかよく分からなかったが、所々に下品な単語が出てきたことでやっと意味が分かってきた。 

「オレは恥ずかしがってるとこが見たいわけ、お前みたいなクソビッチは恥じらいもクソもねーだろ?」

「処女厨まじでキモイ~!ほら、せっかく捕まえてきた隣のイケメンくんも引いてるじゃん~!」

いくら酔っているとはいえ、大勢が公の場で恥ずかしげもなく、日常会話をするように下品な話をしている。あまりの衝撃に顔を赤くしたまま動けないでいると、急に周りの目線が一気に自分に集まった。

「イケメンくん!こんなやつの隣に居ないでこっちおいで~!お姉さんが可愛がってあげる~!♡」
「アイリはほんと面食いだよね~ま、うちらも人のこと言えないけどさ笑」

カラスに睨まれた小鳥のような感覚だった。
突然話題の中心にされて、動揺で言葉を返せないまま固まっていると。金髪の先輩からやけに目線を感じた。

「耳まで真っ赤にして震えちゃって、かわいーね?笑こんな初心なやつ初めて見たかも笑」

そう言って金髪の先輩が遠慮なく俺の耳に触れてきた。その手つきと目線が妙にねっとりしていて、ゾワッと一気に鳥肌が立った。すると、それを見ていたアイリという女の先輩が、私も触りたいと言いながら近くに寄ってきた。

「ねぇ~イケメンくんは名前なんて言うのー?
てかヤバ!近くで見ると肌白くてまつ毛長くてほんと美って感じ~!」
「たしかにおまえより百倍美人だな笑」
「はぁー?いくら美人でも勃たなきゃ意味ないんでしょ?」
「でもオレ、さっきから初心なイケメンくんの顔見てたら勃ってきた笑」

そう言う金髪の男の下半身に目を向けると、ズボンがテントを張っていた。人が勃起しているところを見たことがなかったわけではないが、目の前に居る男が他でもない俺に欲望を向けている意味が分からず、理解できないことが起こったことによる恐怖に、握りしめた手が震え、呼吸もしずらくなった。

「え~でもなんか怖がってない?ってあんたはその方が興奮するんだっけ笑」
「美人なら男でもヤれるって説オレが証明するわ笑」
「うわ、もうここで始める気じゃんー!」

強い力で腕を掴まれたと思った次の瞬間には畳に押し倒されていた。この状態になっても、混乱と恐怖でひたすら固まることしか出来ず、いつの間にか着ていた白いシャツのボタンを上から下まで外されてしまった。

どうしても身体が動かない。誰かに助けを求めたくても、周りの人達は面白いものでも見物するかのようにニヤニヤしながらこちらを眺めているだけ。逃げ場がないと思うと、ますます震えは酷くなっていく一方で、頭の中は冷めきっていった。

さっき女の先輩は、金髪の先輩に気軽に性的なことをしようと誘っていた。金髪の先輩も、周りの人達も、それをよくあることのように笑っていた。今も、目の前の先輩が自分の服をひん剥いて今にも身体を触ろうとしているのに、誰も止めようとしない。居酒屋の店員さんも、個室の奥のここは通路から死角になっているため、見つけて助けてくれる可能性は低いだろうと、助かる見込みの無さに、希望を失った。すると、ついにシャツから覗く白い身体を舐めるように見ていた男が撫でるような手つきでお腹に触れてきた。突然のヒヤリとした手のひらの感触につい身体がビクリと反応すると、男は気を良くしたようにそのまま胸元に手を伸ばしてきた。

ただ、本気で愛して、愛されるような恋愛をしてみたかった。

自然と好きになって、告白して、何度もデートを積み重ねてやっと身体まで結ばれる。そんな物語をこれまで何冊も読んできた。田舎の高校では無理でも、都内の大学生になったら、自分にも出来るかもしれないと期待していた。

しかし、現実は甘くはなく、大学内にキラキラした恋愛なんて無くて、実際にあったものは目の前のこの状況。
期待し過ぎていた自分が悪いんだろう。でも、こんなのおかしいじゃないか。何で急に初対面の先輩、しかも男に身体を触られているのか。周りの人達も、なぜそんな普通の顔して笑っているのか、自分のこれまでの価値観が全て間違っていたと言われているような気分になった。

自分が憧れていた恋愛は、もう出来ないのかな。

真実の愛なんて、存在しないのかも。

そう思ってしまったら、喉がキュッと締め付けられて一気に目元が熱くなった。絶対に夢は叶わないんだということが胸に深く突き刺さり抜けなくなった。いつの間にか目元に溜まっていた涙が、瞬きとともに頬を伝っていく。

「はぁはぁ、泣いちゃったの?可愛い…もう勃ちすぎて痛いよ…笑」

さらに息を荒らげて興奮している先輩は、今にもズボンの下で張り詰めているものを取り出しそうな雰囲気だった。

嫌だ。好きでもない人にこんな風に身体を触られたくない。いくらそう思っても、押し倒されているこの体勢から、先輩を押しのけて逃げられる力はなかった。そして、今となってはそんな気力も湧かなかった。


もう、どうでもいいや。

そう心の中で呟いた時、ふと何か聞こえた気がした。

『可哀想に…』

突然頭の奥から響いてきたのは、聖母のような落ち着いた美しい女性の声だった。
ああ、ついに幻聴が聞こえたのか。これはいよいよストレスでおかしくなったのかもしれないな。

『真実の愛は、存在しますよ』

しかも、俺が今本当は1番言って欲しかった言葉を投げかけてくる。やめてくれよ。余計虚しくなる。

『あなたには、真実の愛を知って欲しい』

もういいんだ。そんなの、俺の幻想だったんだから。

『私の世界においで』

どういうことかと脳内で問いかける前に、プツっと意識が途切れた。








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