使い魔を召喚したら魔王がきた

まよちん

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 *  *  *


 その二日後の夜のこと。
 チンポ問題も大事だが世界征服に加担するのは大問題である。と思い切ったミチカは、ついに逃げ出す計画を実行に移すことにした。

 大きなベッドに、くしゃくしゃに乱れたシーツ。
 眠っているかのように見えたミチカの瞳が、ぱちりと大きく開いた。
 しっかりと開かれた瞳は寝起きのそれではなく、寝たふりから起きるタイミングをうかがっていた顔だ。
 ミチカは後ろから抱きしめるようにして眠るアーシュの様子を確かめるために、寝ぼけたふりをしてわき腹をつついてみたが、反応は返ってこない。

 ふうっ、と安堵のため息をついた。

(やれやれ……今夜の魔素の搾取もえぐいものでしたね)

 アーシュの気まぐれなのか何なのか、昨日今日と、昼夜を問わず容赦なく魔素を取り立ててられた。
 快楽漬けにして気力体力ともに奪い、余計なことを考えさせないようにするためなのだろうか。もしや、なにか感づかれているのでは? と、ミチカのあせりはますます募った。
 本当ならもう少し計画を練りたかったが、のんびりしてはいられない。

(やはりアーシュは危険だわ。何もかも見透かすようなあの瞳の前では、冷静を装うのも難しい)

 しかも彼との淫らな行為を思い出すだけで、きゅんきゅんと下腹部が疼いてしまうくらいにはしっかりと肉の快楽を教え込まれている。

(少々淫乱になることはかまいません。しかし……しかし、人類として、守らなければならないものがあるのです)
 
 今日のミチカは、どれだけ苛烈な快楽責めで足がふらつこうとも、やらねばならないことがあった。

 クローゼットの引き出しをあさって見つけた、睡眠薬。
 母は不眠症というわけではないが、特殊な趣味を持つ父とのプレイでたまに使うのだと以前本人から聞いたことがある。どのような趣味でどのように使うのかは知らないが、母のはにかんだ顔はよく覚えていた。
 いまだ仲睦まじいふたりである。
 なので、この別荘にもどこかにあるはずだと思っていた。
 ——それを今日寝る前に、アーシュの寝酒にしこたま入れてやった。

 説明書に『魔:一回2錠』書いてあったのを、6錠ほど砕いてすり潰して混ぜたので、抜かりはないだろう。
 アーシュは「やけに澱が多いな……」とわずかに首をかしげたくらいで、特に不審がることもなく薬入りの赤ワインを飲みほしてくれた。
 繊細な容貌と似合わず、意外とおおらかな彼の性格もこの計画には織り込みずみだ。

 と、ここまでは順調である。
 アーシュの眠りを確信したミチカは、自分の身体に回された腕をそっとはずした。
 狙ったように手のひらが乳房の位置にあったのはさすがだと感心しながら身体を起こし、隣でぐっすりと眠る男を見下ろした。
 今夜は満月。
 カーテンを開けたままの窓からは月明かりが差し込んで、灯りをつけずとも使い魔の美しい横顔を見ることができた。

(ごめんなさい、アーシュ。あなたはわたくしがチンポに慣れるために力を貸してくれたのに、こんなかたちで一方的に別れを決めてしまうなんて)

 でも、世界征服はちょっと手に負えない。

 彫刻のように整った寝顔にそっと口づけた。
 まつ毛は長く、肌は青白く陶器のようにきれいだが女性的には見えない、魔族クオリティの美貌。
 この顔とも今日でお別れだ。
 そう思うと胸に込み上げるものがあって、ミチカは両手を握り締めた。

「アーシュ……」

 ミチカは、震える手で薄い毛布をつかみ、ゆっくりとめくっていた。
 なぜ、そんなことをしたのか分からない。
 「最後だし」「見納めに」と思ったのかもしれない。
 毛布の下には一糸まとわぬ男の、美しい肉体があった。
 胸はわずかに隆起しているが、自分の胸とは違う、筋肉で盛り上がった胸部。
 一切無駄な脂肪のない引き締まった腹部。
 頼りない自分の身体とはまるで違う、肉の色気を存分に含んだ裸体が月明かりの下に横たわっていた。
 いつも自分を組み敷きいたぶる雄々しい身体が、今は無防備に眼前に晒されている。
 ミチカは不思議な興奮を覚えた。
 鏡を見たなら、自分のメス顔に驚くことだろう。
 はあはあと、心なしか息も荒くなる。

(い、今なら、耐えられるのでは……?)

 チンポに——。

 しかも今、毛布は膨らんでいない。いつものようにそそり立っていない。
 ということは、いつもよりいくらかは小さくて、嫌悪感もマシに違いない。尽きることのない興味と、怖いもの見たさの好奇心、「最後だから」という免罪符のもと、ミチカはそろり、とさらに下へ毛布を引き下ろす。
 へそを過ぎ、陰毛が見え、そして、ついに脚の間に横たわる、|それ(・・)が見えたとき、ミチカは驚きに目を見開いた。

「え……可愛い………………?」

 いつもの凶悪さがない。
 ゆるんでだらりと足の間に横たわり、まるでそれ自体も眠っているかのようだった。竿のくびれから続くキノコの笠も謙虚で、無害な顔をしている。

(そんな馬鹿な……こんなにもかたちが変わるものなの? これがあんなに大きくなるの?)

 指でつん、とつついてみると、いつもと違い柔らかさを感じた。柔らかいと言ってもふにゃふにゃというわけではなく、わずかに弾力があり、それがおもしろくてミチカは何度もつつく。
 調子に乗って、眠ったペニスを持ち上げてみた。

(きゃっ! 持ってしまったわ! わたくしが、チンポを! 持てたわ!)

 手にのせたペニスの先端を、ハムスターを撫でるように、撫でてみる。ペニスはミチカの手になじみ、従順ささえ感じた。

(なんて愛らしいの……)

 大人しく弄ばれるペニスに、胸がきゅんとした。

(嘘みたい……こんふうにチンポと戯れることができるなんて)

 ドキドキしながらペニスを撫でていると、僅かに手のひらに硬さを感じてきた。ゆっくりとだが、むくむくと覚醒し始めていることに気づいて、慌てて手を離す。

(いけない。これではアーシュが起きてしまうわ)

 チンポで遊んでいる暇はないのだ。
 我に返ったミチカは、後ろ髪引かれる思いでベッドを降り、素肌にガウンを羽織った。

「ごめんなさい。さようなら、アーシュ……!‬」

 部屋から出ると思い切るようにドアを閉め、ぬくもりの残る手のひらを握り締めた。
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