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交際3ヶ月と1日 期待させないで(シーナの視点)
しおりを挟む……もう充分じゃないか。
デートして、手を繋いで、キスして、たくさん笑いかけて貰った。
「もう充分だ。今まで付き合わせてしまって申し訳なかった。」
心からそう思ってそのまま口に出した。
なのに彼は、
「俺が充分じゃないんすよっ!!
シーナ団長に会えなかった2ヶ月……俺めっちゃ後悔しました。
なんで素直に自分の気持ちを伝えなかったんだろって。
なんで……最後の日、紫陽花畑に行かなかったんだろう。って。
何としてでも会いにいかなくちゃいけなかったのに……。
俺は……シーナ団長の恋人なのに。
あのとき紫陽花畑に行けてれば、こんな森の中にシーナ団長を一人でいさせることもなかったかもしれない。」
ポーラールの低音でよく通る声が耳に響く。
目は見えないのに、なぜかポーラールが真剣な顔でこちらを見つめているのが分かった。
「リューセー・シーナさん
俺はあなたのことが好きです。
素直になれなくてあなたをたくさん傷付けた。
今度こそ絶対大切にする。
だからもし許してくれるなら……俺ともう一度、今度は正式に付き合ってください。」
いつの間にやら、手の届く距離まで近づいていたポーラールがシーナの手を大事そうに包み込む。
「うっ嘘だ……。
信じない。
ポーラール殿が俺なんかを好きになってくれるはずがない。」
期待するな。
彼は目が見えなくなったシーナを同情しているだけだ。
今まで期待して一度だってそれが叶ったことなんてない。
今回だって絶対そうだ。
「どうやったら信じてもらえます?
俺、シーナ団長といるだけで心臓こんなんなってんすよ。」
ポーラールは握っていたシーナの手を自身の胸に押し当てる。
(あったかくて……すごく速い。)
固い胸板の奥から通常より高まった鼓動の感触が掌に伝わってくる。
ポーラールの熱が自分に入ってきたかのように顔が暑くなり、シーナは急いで下を向いた。
そのまま腰に腕が回され引き寄せられると、掌で触れていた胸板にシーナの頬が押し付けられる。
耳に直接ポーラールの鼓動が響きわたった。
頭の後ろにも手が回ってきて、大きな手で優しく髪の毛をすいてくれる。
シーナは見えない分感覚が鋭くなっているのをひしひしと感じていた。
腰に添えられた腕にぎゅっと力が入る度、
頭を撫でる手が耳を掠める度、
肌が粟立ち、体がカッと熱くなる。
シーナは恥ずかしくなって、思わず顔をポーラールの胸板に押し付けた。
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