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雪山訓練だってさ

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「おい、聞いたか?ランゲ団長の噂」


またこれか……。デジャブ3回目である。

現在、雪山訓練の真っ最中である。
夜はむさい男たちで身を寄せ合い、暖を取りながら噂話くらいしかすることがない。
狭いテントの中、日中雪山を駆けずり回った男たちが風呂にも入らず身を寄せ合っているため半端なく臭い。
中にいると鼻が麻痺して分からないが、一回トイレに行って戻ったらその臭いに思わずえずいた。



「噂って?」

「ランゲ団長が年末にあったベルナルド様の夜会に例の異世界人を伴っていったらしいんだが……」

「あぁ、毎年俺らが警備担当だったのに今年はヴォルフ団長のとこが担当してたもんな」

「異世界人のあまりの美しさに目が眩んだレオーン団長と一触即発の事態になったらしい。」

「俺は、一晩給料1ヶ月分はする高級娼婦を伴っていったと聞いたぞ。」

「俺は王太子を脅しつけて、聖女を奪おうとしたと聞いた。」


「…………情報が錯綜してるが、最初のはないんじゃないのか。
だって異世界人は強烈な見た目の女なんだろ?
魔術でも使わない限り人間そこまで見た目なんて変わらないだろ。」


「まぁ、確かになー。」


「でも、そこまで強烈な女なら逆に見てみたいよなー。」

「……ランゲ団長の奥さんは差し入れとか持ってこねえのかな?
団長の妻なのに。」

基本的に騎士団員の妻は持ち回りで騎士団に差し入れを持ってくる。
別にそういう規則があるわけではないのだが、慣習的にそうなのだ。
何を持ってくるかで奥さんの度量測られると言っても過言ではない。

ちなみに一番人気は小隊長の奥さんが持ってくる焼き菓子である。


「レオーン騎士団長の奥さんなんか定期的に団員を招いて慰労会やってるらしいぞ。」

「えー、いいなぁ。」

「でも慰労会に格好つけて、団員喰ってるって噂もあるけどな。
レオーン団長は気の多い人だからな。
奥さんも夫婦揃って奔放だって噂だ。」

「ははっ、じゃあ、ランゲ団長の嫁が慰労会開いたら俺らも食われるんじゃね?」

「化け物嫁だからそのまんまの意味で食われるかもな(笑)」

「こっわーwww」


あははーなんて皆んなで笑っていたら、その会話をテントの外で聞いていたランゲ団長に残りの5日間死ぬほど扱かれた。
扱かれたなんて言葉では生温い……実質死んではいないが死んでもおかしくなかった。
あれはまじで……。

川の向こうから死んだ婆ちゃんが手を振っている走馬灯まで見えたときは本当にもうダメだと思った。
孫が死にかけていると言うのに満面の笑みだったな……婆ちゃん。


今現在、誰一人喋らず、屍のような顔で山を降りている俺たち……
側から見たらゾンビ集団のようだろう。

そんな俺たちに何一つ気を使うことなく、上官たちは軽い足取りでガンガン先に進んでいく。
猛吹雪の中、見失えば遭難必至の状況である。
何故だ……同じ訓練を受けているのにあの人らは何故あんなピクニックみたいな足取りなんだ。
化け物か。

特にランゲ団長なんか一人リタイアした奴を易々と担いで山を降りていく。
やっぱ化け物だ。


漸く麓の村が見えた時、俺たちはハラハラと涙を流した。
本当に自然に溢れてきたんだ……生きているって素晴らしい。
そう思わせてくれる光景だった。
ただの村なんだが……。
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