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オリバーのお話 そのニ

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「すみませーん、掃除入らせてもらいます。」

「・・・・なんでですか!?」


オリバーは昨日どうしても我慢ならず、帰りにステーキを食べようと店に寄ったが、運の悪いことに売り切れだった。
いや、運が悪いとは言えないかもしれない。

「申し訳ありません、今日は王宮勤めの方がやけに買いに来てくださって、早い時間に売り切れてしまったんですよ。」

と、表面的には困った顔の店主は言っていた。
内心のほくほく感は全く隠せていなかったが。
売り切れの理由は明白だ。
みんな彼の匂いに当てられたに違いない。

そして今日、彼は昨日と同じ時間に掃除に訪れた・・・・が、今日はなぜかスパイスカレーの匂いだ。
昨日よりは匂いが弱いが、それでもスパイシーないい匂いで部屋が満たされる。

「なんで今日はステーキ串の匂いじゃないんですかっ!?」

「すみませーん。僕のフェロモンの匂いって日によって変わるらしいんすよね。
今日は何の匂いです?」

「・・・・スパイスカレーです。」

「あーー、今日はヒートじゃないんすけどよりにもよってキツい匂いの食いもんすね。ウケるw」

ウケない。昨日だってステーキが食べたすぎて眠れなかったほどだ。
今日こそ買って帰ろうと思っていたのに、今の今で完全にカレーの腹になってしまったではないか。







「すみませーん。掃除来ましたー。」

次の日も彼は来た。
そして、オリバーはイライラしていた。
昨日もカレーを食べ損ったのだ。
オリバーはどうしても仕事の帰りが人より遅くなる。
帰る頃には、彼の匂いに充てられた他の人がすでにカレーを買い尽くしていた。
そのせいでオリバーはカレー屋を5軒も回った末、空腹のまま帰宅することになったのである。

いい加減にしろ。
今日は、よりにもよってオリバーの好物オムライスの匂いだ。
トマトの酸味のあるいい匂いで部屋が満たされる。

昼に食べに行ってもいいが、どうせもう売り切れているだろう。

クソッ!しかも昨日よりはるかに匂いが強い。

「なんで今日も匂いが強いんですか。ヒートは終わったはずでは!?」

「あー、僕のヒートって二日に一回なんすよね。」

今日も今日とてヘラヘラヘラヘラと!!

こちらは食べたいものにありつけないと言うのに!!

「君の匂い何とかならないんですか!?
気になりますし、買いに行ってもいつも売り切れてるんですよ!!」

「んー、僕も出したくて出してるわけじゃないんすけどね。」

彼は少し困ったように眉尻を下げると、「あっ!!」と今度は嬉しそうに顔を綻ばせた。

「それなら、今晩僕の仕事先に食べに来ないっすか?飲み屋なんすけど、食材揃ってるんで大抵のものは作れるっすよ。
今日はなんの匂いですか?」

「・・・・オムライスですね。」

「了解っす。宰相様が来る前に用意しとくっすよ。あっ・・・・でも、宰相様は庶民的な飲み屋なんかで食事しないっすよね。」


彼は表情豊かだ。
今度は悲しそうに眉を寄せている。

「いえ・・・・特に食事するところにこだわりはありません。大衆向けの飲み屋にもたまに行きますし。」

「ほんとですかっ!!やった!!じゃあ、夜待ってるっす。アサリヤ亭っていうところなんで、仕事終わりに寄ってください。」

彼は嬉しそうにニコニコと仕事を終わらせると、「それじゃ、夜に。」と言って部屋を出て行った。

まぁ、食べれるなら探す手間も省けていい。
しかし、それにしても美味そうな匂いである。

夜のことを思うと、先ほどのイライラなど嘘のように、仕事を高速で片付け始めた。
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