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ハラルトの教訓 そのニ
しおりを挟むその日の夜はちょうどゼノウの屋敷で夜会の予定がある。
ゼノウとイヴァンの子 ゼグダの5歳の誕生祝いだ。
この国では5歳と15歳の区切りで特別な衣装を着て成長をお祝いする習わしがある。
ゼグダは二人の間にできた待望の子供だった。
イヴァンの父クロニクル公爵がイヴァンのため、そして孫が見たすぎる自身のために長年特殊オメガ用の妊娠薬を研究し、気合いで開発した薬でやっと授かった子だ。
可愛いゼグダの誕生祝いに、もちろんレオたち国王一家も招待されていた。
普通であれば王族の会場入りは最後の方であるが、その日レオとハラルトは予定時刻よりもっと前にゼノウの屋敷を訪ねている。
それもゼノウには内緒で。
オリバーの空間魔法で居室の一つに飛ぶと、レオはハラルトに向かって戸棚の一つに潜むように言う。
10歳の子供がすっぽり収まる程度の大きさの棚だ。
ハラルトは言われた通りに身を隠すと、息を潜める。
その間にレオたちは王宮へと戻った。
暫くすると、誰かが部屋に入ってくる音がする。
ハラルトは音を立てないよう細心の注意を払った。
「変じゃないか?」
「あぁ、いつも通りカッコいいよ」
入ってきたのはゼノウとイヴァンだ。
鏡を見ながらあれこれ服を弄っている。
「ゼグダの最初の晴れ舞台だからな。
挨拶も完璧にしないと。
あーー、イヴァンどうすればいい?緊張してきた。」
ゼノウはそう言うと、胸に山程ついている騎士の勲章をしきりに直している。
「落ち着け、ゼノウ。お前なら大丈夫だ。」
イヴァンは後ろからゼノウを抱き締め、落ち着くように優しい声をかけている。
「・・・・まだ緊張してるからもっと。」
腰に回ったイヴァンの手を上から包むと、ゼノウはクルッと反転してイヴァンと向き合った。
イヴァンは声を出さずに笑うと、ゼノウを抱きしめて頭を撫で、ゼノウは甘えるようにイヴァンの首筋に顔をぐりぐりと押し付けている。
ハラルトは、ショックのあまり白眼を剥いた。
イヴァンに甘えるゼノウを見て、漢らしくカッコいいイメージがボロボロと崩れ去っていく。
もうやめてくれー、と心の中で願いまくったが、それを裏切るようにゼノウは続ける。
「・・・・キスも。深いやつ。」
「ふっ、はいはい。」
ハラルトは見ていられなくて戸棚の扉を静かに閉めた。
子供になんてもの見せるんだ。
それにあのゼノウさんの姿はまるで、父様に甘える父上と瓜二つじゃないか。
二人が部屋から出て行ったあともハラルトは暫く呆然としていたが、レオとオリバーが迎えに来て漸く我に返った。
「それで?どうだった?」
レオはニヤニヤと隠しきれない笑みを浮かべている。
ハラルトの様子で何が起こったか分かったのだろう・・・・というか最初からこうなることが分かっていたのだろう。
相変わらず底意地が悪い。
ハラルトはジトリとした目で自身の父親を睨んだ。
「・・・・僕には分かったことがあります。
アルファは所詮オメガに敵わない生き物なんです。アルファはこの世界の王者なんて言われてるけど、実際は伴侶が実権を握ってるんだ。
父上もゼノウさんも・・・・どうせオリバーさんもそうなんでしょ?」
「ほう。10歳にしてその境地に辿り着くとは流石ですね。」
オリバーは拍手しながら感心したように言うが、ハラルトは全然嬉しくない。
「まぁ、ハラルトが騎士になるにしろ王位を継ぐにしろ、憧れだけじゃなくちゃんと現実を見据えた選択をしてほしいってことだよ。
完璧に見えるゼノウでも本当はあんなだし、団長になるまではすごく苦労したんだ。
それを支えたのがイヴァンだよ。
どんな道を選ぶにしろ信頼できる仲間を見つけるといい。
俺にとってのゼノウやオリバー、ハルがそうだね。」
「・・・・分かりました。騎士学校には行きますが、いろんな選択肢を視野に入れて今後について考えます。
あと友達もつくれるように努力します。」
「よろしい。旅立つ君に言えるのはそれくらいだね。
じゃあ、ゼノウたちにバレる前にお暇しようか。」
清々しく笑った父上は僕の頭を優しく撫でてくれる。
僕も将来、父上たちみたいに最良の伴侶を見つけられるかな?
ハラルトがそんな運命の出会いを果たすのは数ヶ月後、騎士学校に入学してからすぐのことだ。
(完)
ーーーーーーーーーー
完結です。
拙い文章にも関わらず、たくさんの方に読んでいただきありがとうございました。
読みづらいところも多々あったと思いますが、広い心でここまで読み進めてくださった皆様に感謝致します。
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