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ハルの荷造り
しおりを挟むハルは少しずつ何日か掛けて必要な荷物を纏めていた。
元手ができたので、いつでも出国できる。
できればお腹の子が安定期に入ってから移動したかったが、もうすぐ寒さの厳しい冬が来る。
冬になる前にここを出なければ……ブエナサン王国に行く船は冬の間、氷で海を渡れなくなるのだ。
お金はフェロモンを売って得たものだ。
この間のヒートの時、ハルはたまたま匂集紙を部屋に置きっぱなしにしていたので、フェロモンを収集することができた。
昔、師匠がこの紙からハルのヒートフェロモンを抽出していた。
不眠症の薬に混ぜるとよく効く薬になるらしい。
今回はヒート期間が短かったためそこまでの量にならなかったが、調香師になかなかの値段で売ることができた。
フェロモンそのものを売るのはちょっと抵抗があったが、こんなにいい値段になるならもっと早く売ればよかった。
師匠がいた時はハルにお金は入ってこなかったのでまさかここまでの値段になるとは夢にも思っていなかったのだ……。
ブエナサン王国まではどれくらいかかるだろうか……。
ブルーへピナの開花に間に合うと嬉しい。
ブエナサン王国のブルーへピナの花公園はそれはそれは美しいと有名だから。
こういう時、宰相補佐様みたいな移動に使える魔法だったらよかったのに。とハルは口を曲げてみる。
そういえば、王太子様はどんな魔法使うんだろ……。
少し気になったが、今後ハルが知ることは恐らくないだろう。
王太子様のことを思い出すとどうしても胸が締め付けられてしまう。
王太子様に伝えたかったな……。
でも、伝えたところで困らせるだけだろうから結果的にはやはりこれでよかったのかもしれない。
彼は王太子様なのだ。
どうせ会うことすらままならないのだから、伝えることなどできるはずもない。
本当に大事なものだけ纏めると大した量にはならなかった。
誕生日にもらったプレゼントはブエナサン王国のチケットと一緒に手持ちの鞄に詰めた。
家具や調理器具なんかは師匠が揃えたものだし、残して行っていいだろう。
業者を呼べばそこそこの値段で買い取ってくれるかもしれない。
もともと物の少ない部屋だったが、棚が一つ空くだけでも物寂しく感じるのはなぜだろう。
「不思議だな……。君がいてくれなかったら、外国で暮らそうなんて思いつきもしなかっただろうな。
早く会いたいね。君が生まれるころには暮らしやすい環境を整えておくから安心してね。」
最近ではお腹を撫でるのがクセになってしまった。
まだお腹の膨らみも何もないが、頻繁に襲ってくる悪阻によってハルは腹の中で命が育まれているのを実感していた。
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