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お休みをいただきます

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その後は、各々楽に過ごしている。
王太子様と中隊長様、それと宰相補佐様の3人はウイスキーで一杯やりながらカードゲームに興じていた。
ハルの家にこんな国のトップにいる人たちが揃うなんて、今更ながら信じがたい光景だ。

酒の飲めないハルとイヴァン様はキッチンの前に設置されたカウンターに座って余ったケーキをつつきながら、その様子を眺めていた。


「……イヴァン様、聞いてもいいですか?」

「なんだ?」

ハルが徐に口を開き、イヴァンはハルに顔を向ける。
至近距離で見ると本当にかっこいい顔だ。
碧眼が綺麗すぎて、その瞳に映っているのがハルだという事実に申し訳なさすら感じる。


「本の通りなら、イヴァン様はオメガっていうことなんでしょうか?」

「あぁ。私も君と同じ特殊オメガだ。私の特性はフェロモンが酸っぱく感じることらしい。アルファにはよく『お前に会うとレモンを齧った気分になる』と文句を言われるよ。」

イヴァンは冗談として、ハハッと軽く笑う。
こうして笑い飛ばせるのはイヴァンが強い人間だからだ。
軽く話してはいるが、特性のせいで嫌なことだってたくさん経験したはず。

「僕、オメガの知り合いが一人もいなくて……だから色々教えてほしいんです。」

「いいよ。何が聞きたい?」

「……オメガ用抑制剤っていうのが最近開発されたって聞きました。
僕もうすぐヒートで……僕のヒートは一年に一度で一月ほどかかるんですが、いつもすごく辛くて。抑制剤っていうのを飲めば少しは楽になるんでしょうか?」

「うーん。どうだろうか……。抑制剤の効き方は人によってまちまちなんだ。効く体質ならかなり楽だとは聞いたが。一度使ってみたんだが私にはからっきしだったな。」

「そうですか……。」

抑制剤は結構いい値段がする。
ハルは効くかどうか微妙な薬にそこまでお金をかけるか迷っていた。


「特殊オメガのヒートは他のオメガと比べて厄介だからな。期間や時期も人それぞれだし。
普通のオメガだったらアルファを頼れば通常よりずっと早く収まるんだが。特殊オメガだと寄ってくるアルファも稀だしな。私なんかいつもよりもっと酸っぱい匂いになるから、屋敷のものがみんな口を窄めてるよ。」


落ち込むハルを慰めるように、イヴァンは自分の話を笑い話として披露してくれる。
イヴァンは公爵家の人間だと言うのに、ハルにも分け隔てなく接してくれた。
物語に出てくる強くて優しいヒーローそのものだとハルは思った。


暫く話していると、中隊長様がイヴァン様の肩に手を置き、話に交じる。


「何話してるんだ?」


イヴァン様が中隊長様に隣の椅子を勧めると、ドカリとそこに座った。

「抑制剤について聞いていたんです。」

ハルがポツリと答える。

「抑制剤?あぁ、オメガ用のが最近開発されたって聞いたなぁ。ハル使いたいのか?」

「人によって効果の大小がまちまちらしくて迷ってます。抑制剤は高いので……。
もうすぐヒートなので効くなら使ってみようかと思ってたんですが。」

それを聞いて中隊長様が急に立ち上がったため、椅子がガタリと大きな音を立てた。

「ハルもうすぐヒートなのか!?」

「えっ、はい。そうですけど。なので1ヶ月ほど王宮には通えないと思います。」


「…………えっ?い、1ヶ月も……?」

中隊長様はこの世の終わりような顔でヨロヨロとカウンターに手をついた。


そこまで落ち込むことなのか!?とハルが一人アワアワしていると、王太子様と宰相補佐様もこちらの話に参加し始める。

「ヒート1ヶ月も続くの?」

「えっ、はい。年に一度しかないんですが期間が長くて・・・・」

「それなら・・・・仕方ないですね。」


中隊長様と同じく王太子様、宰相補佐様まで放心している。

イヴァン様はそんなみんなの様子に苦笑いしながらケーキを頬張っていた。
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