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僕はハルです。
しおりを挟むその日もハルは午後の施術を無事に終え、店に鍵を掛けていた。
ハルは按摩指圧師だ。
治療師の師匠のもと13歳から始めてもう8年………来てくれるお客さんはほぼ固定されている。みんなオメガに偏見のないいい人たちだ。
通常、按摩指圧治療院の利用者の八割はお年寄りだ。だが、お年寄り世代の人はオメガに対して抵抗がある人が多い。
オメガは滅多に産まれない。貴族でもない一般人なら尚更オメガと相対する機会など0と言っていい。
だから、お年寄りが若い頃はオメガに対する間違った噂が巷に広まってしまったらしい。
アルファと見ればどこかしこでも発情するとか
人間が昔、獣だった頃の先祖返りなのだとか……
故にオメガであるハルの治療院に通ってくれるはそう多くない。
少ないお客さんを大切にしながら細々経営しているのである。
ハルは毎日、施術を終えると他所行きの服に着替える。
なけなしのお金を叩いて古着屋で買った2セットの服……型遅れでお洒落とはとても言い難いが、生地は上質だし飾りは繊細で精巧な作りだ。
ハルのオメガにしては大きめな体には少しフリル多めなのが気にはなるが。
王宮に行くためにわざわざ買った服。
1日置きで交互に着ていく。
初めて王宮に呼ばれた時にヨレヨレの施術着を着ていったら怖い男の人にしこたま怒られた。
後から分かったが王太子の侍従長だそうだ。
王宮で働いた分のお給金はその侍従長から受け取っているのだが、今でも怖くてビクビクしてしまう。
ここ半年毎日歩いている王宮までの道のりを今日も黙って歩いていく。
治療院からは片道1時間。森の中にあるハルの自宅からは1時間45分の道のりだ。
丘の上に堂々と建つ王宮へ行くのは最初はとてつもなく緊張したものの、最近はもう慣れたものである。
なんなら、夕日が王宮の後ろに沈みゆくのを眺めながら登る丘道はハルのお気に入りと言ってもいい。
今日も機嫌良く丘を登り、門番へ通行許可証を見せる。
前髪をみっともなく伸ばしているせいか、毎日通っているというに都度ジロジロと顔を覗かれるためハルはその度、無意識に体を固くしてしまう。
「通ってよし。」
既に自分の方を見ていない門番を横目にペコリと頭を一つ下げるとそそくさと門を通った。
「よく来たね!」
施術に利用させてもらってるサロンの扉を開く。ハルを笑顔で迎えてくれたのはこの国の王太子 レオハルト•オヘア様だ。
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