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47 めでたし
しおりを挟むあれから3年、、、
僕と響さんは結婚して、子供は航(わたる)と名付けた。
響さんは、勤めていた商社で専務になった。
というか、知らなかったが社長が響さんの叔父さんだった。
一度も見たことのない謎のアジフライ社長が、響さんの叔父さんだったなんて驚きだ。
結婚の挨拶の時も僕がアジフライ担当だと知って握手まで求められた。
のんびりと穏やかに過ぎてゆく時間が愛おしくて、幸せだ。
今日も、休日の日課である海沿いの公園へ3人で出掛けにきた。
潮の香りと海風が気持ちいい。
ゆっくりゆったり、子どもの歩幅に合わせながらレンガ敷の歩道を歩く。
すると、海風に乗って、凄く芳醇な、、、言うならブランデーのようないい香りが
鼻腔を擽る。
ずっと嗅いでいたらクラクラと酔ってしまいそうなほど、強い匂いだった。
僕は匂いの元に惹かれるようにフラフラと歩みを進める。
目的の先にいるのは、二人の男性。
背の高い精悍な顔つきの彼とばっちり目が合う。
彼もまた僕の方を驚いたように凝視していた。
僕の普通じゃない態度に、響さんが不安げに声を掛ける。
「・・・・蘭丸?」
でも、僕は目線の先にいる男性から目を逸らさなかった。
僕も彼も一歩一歩ゆっくりと近づいていく。
強い海風に匂いが巻き上げられているというのに、鋭くしつこく匂いが追ってくる。
手を伸ばせば届きそうな距離で二人同時に立ち止まると、絡む視線を外すことなく、二人で見つめ合っていた。
相手の男性が先に口を開く。
「・・・・いい匂いだな。」
「えぇ、あなたも。これが運命の番の匂いですか。」
僕が言った瞬間、後ろで一ノ瀬さんが息を飲むのが分かった。
彼の連れの男性も驚いたように目を見開いている。
「ここにはよく来られるんですか?」
「いや、初めてだな。観光がてら寄っただけだ。」
「そうですか・・・・。じゃあ、もう会う心配もなさそうですね。」
「だな。もうここには来ないよ。」
そう言葉を交わすと「じゃあ」と言ってお互い踵を返す。
響さんも相手のパートナーさんも何が起こったか分からないというように困惑の表情を浮かべていた。
「ら、蘭丸!あの人、蘭丸の運命の番なのか・・・・?」
「そうみたいです。長年、運命の番の匂いってどんなのなんだろうって思ってきましたけど、体験できてよかったです。」
響さんは眉を寄せて、航を抱っこしながら不安そうに抱きしめていた。
「その、、、大丈夫か?」
「全く問題ないです。正直こんなもんかって感じです。確かにいい匂いですけど、たかが匂いですしね。なんで皆あんな夢中になってんだろう。」
「あっ、そう・・・・。」
本当にあんな気に病むほどのことでもなかった。
相手の人も全然平気そうだったし、個人ごと影響度が違うのかな?
「僕は、響さんと航のいるこの生活が大好きですよ。
運命の番なんかに惑わされません。
響さん、ずっと一緒にいてくれるんですもんね?」
「っ、あぁ、、、蘭丸と航とずっと一緒にいる。だから蘭丸も俺のこと捨てるなよ?」
二人で顔を見合わせて、フフッと微笑み合う。
航も機嫌良く笑っていた。
運命の番はこの世に3人いるらしい。
でも、運命の番なんかいらない。
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