運命の番はこの世に3人いるらしい

さねうずる

文字の大きさ
43 / 48

42 電話をしよう

しおりを挟む

僕は扉をガラッと開けた。
扉一枚ないだけで、臨場感が凄い。

入ってきた僕に二人は気付くことなく、手を握り合っている。


「あの、すみません‼︎」
「「⁉︎⁉︎」」

いつの間にかいた僕に驚いたのか、ちょうど陣痛の合間だったのか、叫び声が止まった。

「・・・・誰⁉︎」

パートナーさんのほうが思わずと言った感じで呟く。

「大変なときに本当にごめんなさい。
10円貸してもらえませんか?」

「えっ⁉︎
本当にこんな時にごめんなさいな内容だな⁉︎」

「あの、僕、お金持ってなくて。
この子の父親に電話したいんです。
お二人の会話聞いてたら、、、僕も産む時に一緒にいてほしいって思って、、、来てくれるかは分からないんですけど・・・・」


焦って上手に説明できなかった。
それでも、僕のお腹を見た妊婦の彼が、「10円くらい早く貸してやれ‼︎」って言ってくれて、パートナーの人がアワアワとポケットに入ってた10円を貸してくれた。

「よく知らねえけど、来てくれるといいな。」

妊婦の彼が汗だくの顔でニカッと微笑んでくれる。

「はい!ありがとうございます。必ずお返ししますので。」

「いや、10円くらいいいよ。なっ?」

「うん。気にしな・・・・ 「ぎゃーー、いってぇぇえ、、、また来た!クソッ!痛ぇ‼︎いつ産まれんだ‼︎」

パートナーさんの話途中でまた陣痛がきたらしい。
本当にこんなときにごめんなさい。
でも、看護師さんとかに声を掛けたら、勇士くんに伝わる可能性がある。

「元気な赤ちゃん産んでください‼︎」

そう言うと一礼して、部屋を出た。
薄暗い非常階段を急いで、かつ慎重に降りる。
足元がよく見えないから転げないように気を付けないと。


病院の入り口脇にある公衆電話から、一ノ瀬さんの携帯に電話をかけた。

たまたま一ノ瀬さんの携帯番号が僕のお婆ちゃんちの郵便番号と実家の番地を掛け合わせた数だったから、ソラで覚えていたのだ。
ほんと奇跡。


10円を入れ、押し間違えないように震える手で慎重に番号を押す。


プルルルル プルルルル

「・・・・はい。」

わっ、出た。
公衆電話からの怪しい電話だ。出てくれないかもと思っていたから、少しドキドキする。

「あの、、、沖、です。」

「っ、蘭丸か⁉︎今どこにいるっ⁉︎」

「あ、、あの、、、」

「どこにいるか早く言えっ‼︎‼︎」

凄い勢いで怒号が聞こえて、堪らず早口で答えた。

「ヒッ、○○県の××病院ですっ。」

「分かった。すぐ行くから動くなっ‼︎いいな⁉︎」

「っ、はいっ‼︎」


プッ プッー

呆然と受話器を置く。
怖かった。
というか、意気込んで電話したわりに気圧されて終わってしまった。

トボトボ元の部屋に戻ると、ちょうど様子を見にいていたであろう看護師さんにも怒られた。
「トイレに行ってました。」と誤魔化したら、「用事があるときはベルで呼んでって言ったでしょ。」とまた怒られた。

機械は一からやり直しになって、迎えに来た勇士くんが部屋を覗きに来る。


「蘭丸、結構時間がかかるんだな?」

「お腹痛くてトイレ行ってたら、やり直しになっちゃったんだ。」

伺うような眼差しを向けられて、真っ直ぐ目を見返すと、勇士くんは目を細めてニンマリ笑った。
ゾクッとするような笑みに、思わずゴクリと唾を飲み込む。


「そっか。それなら仕方ない。」


上手く誤魔化せたみたいだ。
心の中でホッと息を吐いた瞬間、、、

「なーんて、言うと思ったか?」

鼻先まで近づけられた勇士くんの顔に、心臓がヒュンっと音を立てる。
恐怖で顔を強ばらせていると、勇士くんは三日月側に目を細めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

【完結】言えない言葉

未希かずは(Miki)
BL
 双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。  同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。  ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。  兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。  すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。 第1回青春BLカップ参加作品です。 1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。 2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)

【完結済】どんな姿でも、あなたを愛している。

キノア9g
BL
かつて世界を救った英雄は、なぜその輝きを失ったのか。そして、ただ一人、彼を探し続けた王子の、ひたむきな愛が、その閉ざされた心に光を灯す。 声は届かず、触れることもできない。意識だけが深い闇に囚われ、絶望に沈む英雄の前に現れたのは、かつて彼が命を救った幼い王子だった。成長した王子は、すべてを捨て、十五年もの歳月をかけて英雄を探し続けていたのだ。 「あなたを死なせないことしか、できなかった……非力な私を……許してください……」 ひたすらに寄り添い続ける王子の深い愛情が、英雄の心を少しずつ、しかし確かに温めていく。それは、常識では測れない、静かで確かな繋がりだった。 失われた時間、そして失われた光。これは、英雄が再びこの世界で、愛する人と共に未来を紡ぐ物語。 全8話

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

裏乙女ゲー?モブですよね? いいえ主人公です。

みーやん
BL
何日の時をこのソファーと過ごしただろう。 愛してやまない我が妹に頼まれた乙女ゲーの攻略は終わりを迎えようとしていた。 「私の青春学園生活⭐︎星蒼山学園」というこのタイトルの通り、女の子の主人公が学園生活を送りながら攻略対象に擦り寄り青春という名の恋愛を繰り広げるゲームだ。ちなみに女子生徒は全校生徒約900人のうち主人公1人というハーレム設定である。 あと1ヶ月後に30歳の誕生日を迎える俺には厳しすぎるゲームではあるが可愛い妹の為、精神と睡眠を削りながらやっとの思いで最後の攻略対象を攻略し見事クリアした。 最後のエンドロールまで見た後に 「裏乙女ゲームを開始しますか?」 という文字が出てきたと思ったら目の視界がだんだんと狭まってくる感覚に襲われた。  あ。俺3日寝てなかったんだ… そんなことにふと気がついた時には視界は完全に奪われていた。 次に目が覚めると目の前には見覚えのあるゲームならではのウィンドウ。 「星蒼山学園へようこそ!攻略対象を攻略し青春を掴み取ろう!」 何度見たかわからないほど見たこの文字。そして気づく現実味のある体感。そこは3日徹夜してクリアしたゲームの世界でした。 え?意味わかんないけどとりあえず俺はもちろんモブだよね? これはモブだと勘違いしている男が実は主人公だと気付かないまま学園生活を送る話です。

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

処理中です...