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42 電話をしよう
しおりを挟む僕は扉をガラッと開けた。
扉一枚ないだけで、臨場感が凄い。
入ってきた僕に二人は気付くことなく、手を握り合っている。
「あの、すみません‼︎」
「「⁉︎⁉︎」」
いつの間にかいた僕に驚いたのか、ちょうど陣痛の合間だったのか、叫び声が止まった。
「・・・・誰⁉︎」
パートナーさんのほうが思わずと言った感じで呟く。
「大変なときに本当にごめんなさい。
10円貸してもらえませんか?」
「えっ⁉︎
本当にこんな時にごめんなさいな内容だな⁉︎」
「あの、僕、お金持ってなくて。
この子の父親に電話したいんです。
お二人の会話聞いてたら、、、僕も産む時に一緒にいてほしいって思って、、、来てくれるかは分からないんですけど・・・・」
焦って上手に説明できなかった。
それでも、僕のお腹を見た妊婦の彼が、「10円くらい早く貸してやれ‼︎」って言ってくれて、パートナーの人がアワアワとポケットに入ってた10円を貸してくれた。
「よく知らねえけど、来てくれるといいな。」
妊婦の彼が汗だくの顔でニカッと微笑んでくれる。
「はい!ありがとうございます。必ずお返ししますので。」
「いや、10円くらいいいよ。なっ?」
「うん。気にしな・・・・ 「ぎゃーー、いってぇぇえ、、、また来た!クソッ!痛ぇ‼︎いつ産まれんだ‼︎」
パートナーさんの話途中でまた陣痛がきたらしい。
本当にこんなときにごめんなさい。
でも、看護師さんとかに声を掛けたら、勇士くんに伝わる可能性がある。
「元気な赤ちゃん産んでください‼︎」
そう言うと一礼して、部屋を出た。
薄暗い非常階段を急いで、かつ慎重に降りる。
足元がよく見えないから転げないように気を付けないと。
病院の入り口脇にある公衆電話から、一ノ瀬さんの携帯に電話をかけた。
たまたま一ノ瀬さんの携帯番号が僕のお婆ちゃんちの郵便番号と実家の番地を掛け合わせた数だったから、ソラで覚えていたのだ。
ほんと奇跡。
10円を入れ、押し間違えないように震える手で慎重に番号を押す。
プルルルル プルルルル
「・・・・はい。」
わっ、出た。
公衆電話からの怪しい電話だ。出てくれないかもと思っていたから、少しドキドキする。
「あの、、、沖、です。」
「っ、蘭丸か⁉︎今どこにいるっ⁉︎」
「あ、、あの、、、」
「どこにいるか早く言えっ‼︎‼︎」
凄い勢いで怒号が聞こえて、堪らず早口で答えた。
「ヒッ、○○県の××病院ですっ。」
「分かった。すぐ行くから動くなっ‼︎いいな⁉︎」
「っ、はいっ‼︎」
プッ プッー
呆然と受話器を置く。
怖かった。
というか、意気込んで電話したわりに気圧されて終わってしまった。
トボトボ元の部屋に戻ると、ちょうど様子を見にいていたであろう看護師さんにも怒られた。
「トイレに行ってました。」と誤魔化したら、「用事があるときはベルで呼んでって言ったでしょ。」とまた怒られた。
機械は一からやり直しになって、迎えに来た勇士くんが部屋を覗きに来る。
「蘭丸、結構時間がかかるんだな?」
「お腹痛くてトイレ行ってたら、やり直しになっちゃったんだ。」
伺うような眼差しを向けられて、真っ直ぐ目を見返すと、勇士くんは目を細めてニンマリ笑った。
ゾクッとするような笑みに、思わずゴクリと唾を飲み込む。
「そっか。それなら仕方ない。」
上手く誤魔化せたみたいだ。
心の中でホッと息を吐いた瞬間、、、
「なーんて、言うと思ったか?」
鼻先まで近づけられた勇士くんの顔に、心臓がヒュンっと音を立てる。
恐怖で顔を強ばらせていると、勇士くんは三日月側に目を細めた。
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