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39 出会っちゃった
しおりを挟むあれから2週間経った。
けど、未だに妊娠のことは言えていない。
タイミングが悪いんだかいいんだか、一ノ瀬さんが3週間の長期出張に行ってしまったからだ。
でも、死にそうなほど辛い悪阻も多少マシになった気がする。
異常なほどアイスクリームが恋しくて、アイスばかり食べていたから、少しお肉がついてしまった。
あとこれも妊娠の影響か、物凄く涙脆くなった。
一ノ瀬さんは出張中、毎日電話をくれるのだが、時折、仕事が遅くまでになる日はメッセージだけ来る。
忙しい中、メッセージをくれるだけでもありがたいことなのに、声を聞けないことが悲しい。
電話をくれないと僕に飽きちゃったんじゃ、向こうで運命の番に出会ったんじゃ
、と不安がどんどん募っていく。
そんな中、やっと出張の3週間が終わり、今日はとうとう一ノ瀬さんが帰ってくる日だ。
戻ってきたら会社に顔を出してから、家に帰ると言っていたので、お昼に間に合えば、食堂に顔を出してくれるはず。
朝からウキウキと気分が上がる。
アジの下準備にも身が入るというもの。
一ノ瀬さんが間に合ったら、美味しいのを揚げてあげよう。
まぁ、味はいつもと変わらないんだけどね。
お昼時の忙しい時間も過ぎ、最後の一人が食べ終わると、食堂には給仕の自分達以外、誰もいなくなる。
食堂が閉まるまであと30分、流石に来ないかと洗い物をしていたとき、
「アジフライください。」
バッと勢いよくカウンターを見る、、、
「・・・・恵か。」
「なに?何かガッカリしてない?」
不満気に唇を尖らせる恵。
そりゃ、ガッカリするだろ。3週間ぶりに恋人に会えると思ったら、元彼の今彼だったんだから。
大人しくアジフライを揚げていたら、食堂の入口の引き戸がガラガラッと開いた。
入口は給仕カウンターの真逆にある。
大きな食堂なので入口も遠いのだが、遠目で見てもすぐに分かった!
「響さんっ!」
やった!会えた!!
もう一食アジフライ揚げなきゃ!
ずんずんこちらに進んでくる一ノ瀬さん、早く僕に会いたいからだと思ってた。
ニコニコしながら出迎えようとしていた僕の表情は一ノ瀬さんが近づいてくるにつれ、強張った。
だって一ノ瀬さんは僕の方なんかこれっぽっちも見ていなかったんだから。
一ノ瀬さんのギラつく視線の先にいるのは、、、恵だった。
恵も僕のほうに完全に背を向けているが、呼吸が浅くなっているのが分かる。
どんな顔してるかなんてもう見なくても容易に想像がつく。
「・・・・君か。」
長い脚を駆使し、すぐさまこちらにたどり着いた一ノ瀬さんは、恵の前でピタリと脚を止める。
その間、僕は一度も一ノ瀬さんと目が合わなかった。
「はい・・・・。あなたは、僕の運命の番ですよね・・・・。」
・・・・嫌だ。
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、イヤダ・・・・。
絶望的な目の前の光景に視界が黒く塗りつぶされていく。
あっ、、、どうしよ、、、。
息が・・・・息が苦しい。
吸っても吸っても息ができない。
苦しいよ・・・・一ノ瀬さん助けて・・・・。
涙と酸欠からボヤける視界の中、恵が一ノ瀬さんに抱き着いたのが見えた。
あぁ・・・・ダメか。また棄てられる。
そう思った瞬間、金属のぶつかる派手な音と共に意識がブラックアウトした。
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