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21 一ノ瀬視点 その3
しおりを挟む「そんなこと言って、響は運命の番が現れたら蘭丸のことを捨ててそいつのところに行くよ。
・・・・・・・・昔の俺みたいに。」
勇士は沖くんとのこと、よほど心残りがあるらしい。
だが、こっちも勝手に決めつけられるのは気分が悪い。
「もし運命の番が現れても、俺は沖くんを選ぶよ。」
「ハハッ、あいつの4番目の元カレもお前と同じこと言ってたな。でも、結局は蘭丸を捨てた。」
勇士が一歩また一歩と俺に近づいてくる。
俺はそれを真正面から受け止めた。
ここで一歩でも後ろに下がったら、俺は勇士に負ける。なぜかそんな気がした。
「お前は出会ったことがないからそんな簡単に言えんだよ。
俺だって蘭丸のこと大切に思ってた。愛してたし、大学卒業したら結婚して、首噛んで、一生俺のものにしようって思ってたよ。
でもあいつ、、、恵を見つけた瞬間、蘭丸のことなんかカケラも意識の中になかった。恵の首に噛みつきたいってそればっか。
蘭丸がそんな俺のことどんな顔して見てたか、全く記憶にねえんだよ。」
「ちょっと待て。沖くんと一緒のときに運命の番に会ったのか?沖くんの目の前で運命の番を選んだってことか?」
驚いた・・・・し、胸が痛んだ。
恋人を目の前で運命の番に取られるなんて・・・・、
沖くんが元カレたちとどうやって別れたかなんてちっとも意識していなかった。
「・・・・そうだよ。蘭丸さぁ、その時泣いたんだよ。いつも俺に尽くすばっかでもっとわがまま言えよって思ってたのに、『俺のこと捨てないで。』って泣く蘭丸の唯一のわがままを俺は拒んだ。
恵との仲を裂こうとして苛つきさえしたし、俺のことが本当に好きなら運命の番と出会えたことを祝えるだろ、ってバカなことまで言った。
まじで、あの時の蘭丸の顔が未だに夢に出てくんだよ。
なんであんな酷いこと言ったんだって今でも自分を殺したくなる。」
頭を抱えて髪を掻きむしる勇士を前に、俺は呆然としてしまう。
その時の沖くんを想像すると胸が痛くて苦しい。
彼はその時どんな気持ちだった?
運命の番に会いたいなんていう俺と、どんな気持ちで今まで付き合ってた?
・・・・あぁ、バカは俺もだ。
俺たちの間には恋愛感情がないから、沖くんにとっても別に平気なことだと思ってた。
そんなわけないのに・・・・。
勇士の話を聞くまでは、置いてけぼりにされる側の気持ちなんて考えたことがなかった。
だって、運命の番に出会えることは奇跡に近い素晴らしいことなんだから。
でも、運命の番なんて沖くんにとったら、自分から恋人を奪っていくただの浮気相手にすぎないだろう。
多分、俺も今までの恋人に運命の番が現れたら「よかったね」って素直に祝福できたと思う。
でも、それが本当に好きな相手なら?
それがもし、、、沖くんだったら?
考えただけでも、全身の毛が逆立つような不快感に襲われた。
「なんで・・・・なんで、そこまでして結ばれた運命の番と別れた?」
「あんなの、一過性のものだ。運命の番の匂いなんて三ヶ月もすれば慣れるし、遺伝的に相性がいいってだけで性格が合うわけでもない。
頭が正常になってくると、だんだん自分の仕出かしたことのデカさに気付いてくる。
必死こいてやっと付き合ってもらったのに、大事にしてぇって思ってたのに、傷付けて・・・・。
だから次は間違えない。
お前があいつを幸せにできないなら、蘭丸は俺のものにする。」
勇士は泣いていた。
未だに勇士の沖くんへの執着心は衰えていないのだろう。
それはアルファの特性だ。自分のモノと決めたら決して諦めない。
俺は今までその特性は自分には当てはまらないと思ってたけど、勇士の気持ちが今なら分かる。
だって俺も今、きっと勇士と同じことを考えているから。
沖くんは、絶対渡さない。
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