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3 アジフライの人現る

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それが三ヶ月前の出来事だ。

心の傷はだいぶ癒えた。僕も26歳なので流石に何ヶ月も部屋に引き篭もって泣き暮らすなんてことはしない。

今日も表面上は元気に出勤している。
僕の職場は大きな商社・・・・の社食だ。
栄養学を学び短大を出て、ここに就職した。
大企業の社食だけあってオメガにも理解のあるホワイトな職場だ。

定食がどれでも500円で、とってもリーズナブル。
舌の肥えたエリートの人たちにはちょっと庶民の味すぎるのかもしれないけど、それなりに美味しいと思う。

おすすめはアジフライ定食。
自分なりに揚げ方に拘っているけど、メニュー的には地味すぎてあんまり人気はない。
人気はないけど、日替わりとかじゃなくて毎日固定の定番メニューだ。
社長秘書の人が頻繁に社長用に取りにくるから多分社長の好物ゆえ生き残ってるっぽい。

あとは一人、毎日アジフライ定食しか頼まない人がいる。
ここに勤めて5年だが、僕が知る限り一度たりともアジフライ定食以外の定食を頼んでいるところを見たことがない。

彼はすごく背が高くて、いつも注文の時は背を屈める。
そうじゃないと、顔が上にかけてあるメニュー表で隠れるから。


スーツの上からでも分かるくらい胸板も厚いし、男らしい顔に笑顔を浮かべると白い歯が眩しい。
溢れんばかりのアルファ臭。

そんな彼をカウンターの中から観察するのが僕の日課だ。

いつも定位置である食器返却口近くの机で、美味しそうにアジフライ定食を食べている。

同僚の人とわいわい食べているときもあれば、綺麗なオメガの人と二人きりで食べている時もある。
たまにこうしてお昼時間を少し外して一人でゆっくり食べに来ることもある。

共通して言えることはいつでもアジフライ。
そしていつでも美味しそうに食べること。

毎日揚げ物をしていると、見るだけで胃もたれするのだが、彼が食べているのを見るとちょっと自分でも食べたくなるから不思議だ。
まぁ、今日のまかないはざるそばにする予定なんだけど。



そんなこんなアジフライ定食の注文以外で言葉を交わしたことがなかった彼と、何故か今、僕はカフェでお茶を飲んでる。

一体なぜこんなことに?

さっきから店にいる人がちらちらこちらを見てきて居心地が悪い。
飛鳥くんもイケメンアルファだったけど、この人はなんかレベルが違う。
こんなちっこい机一つ囲んで対面するには顔が良すぎる。
整いすぎてる顔は時に凶器にもなるのだと知った。
だってなんか怖くて顔があげられないのだ。


「で?さっきの奴ってなに?なんで揉めてたの?」

「えっと、別に揉めてたってほどじゃ・・・・。」

飲めないブラックコーヒーを上から眺めながら、しどろもどろ返す。
緊張しすぎて注文をミスった。
せめてカウンター横に置いてあるミルクと砂糖を取りに行きたいけど、目の前の人の圧が強くて席を立つのが憚(はばか)られる。

ほんとにどうしてこうなった。

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