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19 私はこうして再び宮殿に行きました。
しおりを挟む「ミーちゃんウソだよね!?」
グリードは引き攣った声でそう言った。
顔を恐怖で強ばらせながら、ズリズリと後退(あとずさ)りしている。
私たちは今スリーピーホークスの巣の前にいる。
今日はお花を摘みに来た。
ココ花とキリ花はスリーピーホークスの巣穴のど真ん前に群生しているのだ。
縄張りの一歩手前までグリードを連れてきたが、彼はここで見ていてもらおう。
万が一バレたら普通に殺される。
繋いだグリードの掌に『ここ』『待つ』と書く。
グリードも「分かった。」と何度も頷いた。
グリードの手を離すと、私は縄張りの中へとトコトコ歩いていく。
途中、小枝など踏んでパキパキ音を鳴らしているが問題ない。
ここの巣穴のスリーピーホークス、もといピー助とはお友達なので、中に入っても見逃してくれる。
前はバレないようにソッと縄張りに侵入して花を摘んでいたけど、一度怪我してるところを助けたら次から近づいても怒らなくなった。
今も10m越えの巨体を横たえてピーピー鼻を鳴らして寝ているのを横目に、花を一株ずつ根っこから土ごといただく。
縄張りを出て、グリードの元へと戻ると、グリードに体をペタペタ確認された。
「どこも怪我してないよね?あんな危険な場所に生えてるなんて・・・・誰も採りにこないはずだ。」
家に戻るとグリードに採ってきた二つの花の株を見せた。
家の近くに植えてグリードが魔法をかけてみるが、特に変化はない。
「うーん、この花は栽培にクセがあるみたい。なにか育つ条件みたいなのがきっとあるんだ。僕の魔法程度じゃ種から栽培するのは難しそうだな。」
グリードはそう言って残念そうに眉を下げていたが、
必要ならまた採りに行けばいい。と彼の肩をポンッと一つ叩く。
人と暮らすって楽しいな・・・・ここ数日グリードと一緒にいて、こんな些細なやりとり一つとってもそう思う。
自分がなにかアクションを取ったことに対して誰かが反応してくれる。
ごく当たり前のことなのに、それだけで嘘みたいに嬉しくなってしまう。
だけど・・・・グリードは家に帰らなくてもいいのかな?
宮殿はどうなったんだろう?
あの黒い鎧の騎士たちは誰なのかな?
どうしても気になった私は一度街に行ってみることにした。
グリードが心配するといけないので、一応『まち』『いく』と指文字で伝えると、彼も一緒に行くという。
手を繋いで森を抜けると、まだ街中のいたる所に黒い鎧の騎士たちがいた。
けど、街の人たちは特に問題なく普段通りの生活をしているように見える。
慣れ親しんだ光景に、私はホッと息を吐いた。
世の中の色んなことを知りたいなら、洗濯場へ行けばいい。
私がこの10年で学んだことの半分は、洗濯場で井戸端会議をするおばさんたちから教わったと言っても過言じゃない。
洗濯場へ行くと案の定、肉屋のおばさんとパン屋のおばさんがせっせと手を動かしながら、話し込んでいるのが聞こえた。
「それで?国王様たちはどうなったの?」
「まだ牢の中らしいわよ。黒い悪魔を公開処刑しようとしたから国王様たちも同じように処刑されるんじゃないかって話だったけど、どうやら黒い悪魔が病気で床に伏せってるからって保留にされてるらしいわ」
「まー、そうなの?黒い悪魔相手にあんなことしようとするから報復されるのよ。
この国もどうなっちゃうのかしらねぇ」
その後もおばさんたちの話は尽きることなく次々と話題を変えてくが、私は最初の話が気になってそれどころではない。
・・・・・・・・病気で床に伏せってる?
黒い悪魔って多分黒さんのことだ。
処刑場でもそう呼ばれていたし。
病気なのか・・・・。
ココ花で助けてあげられないかな?
黒さんには花を一輪ずつ渡しておいたけど、足りなかったのかもしれない。
もしかしたら置いておいたバッグに気づかなかった可能性もある。
黒さんのことを考えるとそわそわして、家に帰ってからも落ち着かない。
国に帰ると言っていたけど、おばさんたちの話を聞く限り、宮殿で王様たちを捕まえていたのは黒さんということになる。
もしかしたらあの場に黒さんもいたのかな?
宮殿にいるのかな・・・・。
見に行ってみようかな・・・・。
でも、一度殺されそうになったグリードは嫌がるだろうな。
もしいなかったらそれはそれだし、いたらココ花を置いてこよう。
グリードも万病に効くって言ってたから、たくさん持っていこう。
グリードが眠った後、私はこっそり家を抜け出した。
夜の森は危ないけれど、黒さんが病気なら一刻も早く助けてあげたい。
それに、、、
「黒さんに会いたい・・・・。」
その一心で、私は薄暗い森の中を駆け抜けていった。
・・・・・・・・いた。
黒さんは月明かりが綺麗に入る大きな窓のある部屋で眠っていた。
牢屋にいるときは髭が生えていたけど、今は綺麗さっぱりなくなっている。
スヤスヤと行儀良く眠っていて、顔色もそこまで悪くなさそうだ。
久しぶりに見る黒さん・・・・。
ついつい触りたくなってしまうけど、我慢我慢。
病気のときはよく寝るのが大事だから、起こしてしまったら申し訳ない。
枕元にココ花をたくさん置いていく。
これだけあればきっと元気になるはず。
最後の一つを置こうとしたとき、急に腕が伸びてきて、ガシッと手首を掴まれた。
驚いた勢いで最後のココ花を取り落としてしまう。
「捕まえた。」
そう言って、ニヒルに笑った黒さんは月明かりに照らされて、悪者感が凄かった。
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