透明少女と檻の中

さねうずる

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18 私はこうして目覚めました。

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目を覚ますといつものボロい壁板の隙間から豊かな緑色が見えた。

死んだのかな・・・・?
でも背中痛い。
普段から幽霊みたいな生活だから、生きてるのか死んでるのか、いまいち自信ないな。

そんなことをぼんやり思っていたら、ギィーと鍵も何もついていないセキュリティ性能ゼロの扉が、嫌な音を立てて開く。
蝶番(ちょうつがい)が錆(さ)びて馬鹿になっているから、恐らくそのうち外れると思う。

「みーちゃん?ただいま」

小さな声でそっと小屋に入ってきたのはグリードだ。
この小屋は元々グリードが教えてくれた場所だったけど、実際にいるところを見るのはこれが初めて。
自分以外の人間が小屋にいるのはなんだか新鮮で、ちょっとだけ嬉しい。

いつも通り、返事の代わりに踵をコツンと鳴らす。

「あっ、起きたんだね。よかった。」

安心したように笑いを溢すグリードの手には籠いっぱいに入ったフルーツ。
そういえば、お腹すいたな。

「起きた時、お腹空いてるかもと思って果物取ってきたんだ。自分でやっといてなんだけど色んな種類のが育ってるね。こんなにたくさん植えてたんだと今更ながらびっくりしたよ。
ミーちゃん食べられそうかな?」

グリードが10年間コツコツ植えてくれた果物たちだ。
ここらじゃ手に入りにくい種だってたくさん植(うわ)っている。

コツン

・・・・そう言えばグリードはなんでここに?
あの後どうなったのかな?
記憶が断片的で曖昧だ。
背中には手当ての跡があるから矢に射られたのは確実だけど、手当ては?グリードがやってくれたの?

「取り敢えず、ご飯を食べながら話ししようか。」

テーブルにドンと置かれた果物で比較的食べやすいものを手に取る。
グリードと二人、もそもそ口を動かしていると、齧り掛けのりんごを机に置いたグリードが話始めた。

「まずは、僕のこと助けてくれてありがとう。」

コツン

「あと、今まで本当にごめん・・・・。」

……

ありがとうは分かるけど、ごめんの意味は分からない。グリードに謝られるようなことをされた記憶がない。

「10歳の君を一人でこんな危険な森に追いやるなんてどうかしてた・・・・。本当なら僕が兄として君を連れて逃げるべきだったのに。
・・・・貴族としての生活を捨てるのが怖かったんだ。君にはそれを強要しといて、自分だけ安全な場所に留まった・・・・本当に最低な意気地なしだったと思う。」

コツン コツン

確かに一人森で暮らすのは寂しかったし、怖かったけど、あの時二人で逃げていたら今生きてるかどうかは分からない。
食べ物がなくてきっと困っただろうし、グリードが陰ながら支えてくれたおかげで今こうして生きてられる。

私はこう思っているけど、踵の音二つじゃグリードに全然に伝わってないようで、いつの間にか泣き出してるし、辛そうに眉根を寄せていた。

そうだ!

グリードに分かるようにワザと足音を立てて机の反対側へと回る。
急に隣にいたら驚くだろうから、音を立てて近づき、彼の手を取った。
それでも触った瞬間はビクンッと驚いていたけど。
彼の掌に指で文字を綴っていく。
まともな教育は受けていないので、読み書きは簡単なものしかできない。
でもこれくらいならそれで十分。

分かりやすいようゆっくり丁寧に指を滑らせた。

『だ い す き 』『お に い ちゃ ん』『あ り が と う』

書き終わると、グリードは「ぐっ、ゔぅっ」と変な声を出して余計に泣き出した。

オロオロしている私の手を引き、抱き締められる。
全力で力を入れてくるので、骨が軋んで痛い。
あと、耳元でわんわん泣くのでちょっと煩い。

それでも人の体温とは気持ちのいいもので、何だかポカポカとして心地よかったため、暫くはその体勢に甘んじていた。



「ぐすんっ、かっこ悪いところ見せちゃったな。」

背骨が悲鳴をあげ始めた頃、ようやく抱擁ホールドが解除された。
グリードのカッコ悪いところなら、いつも見てたので問題ない。むしろ通常運行だ。

「そう言えば、机にいつも置いてあった花はミーちゃんだよね。」

コツン

「最初にあの花をもらった時、本で調べたんだけどコスターナの花は煎じれば万病に効く幻の花って言われていてね、あんな気軽に机に置いておけるような花じゃないんだよ?本当は。
キスリアの花はコスターナの花と対(つい)で生えるって書いてあったんだけど本当かな?
これも本に書いてあったけど、キスリアの花の粘液って傷を治すのもそうだけど、舐めると凄く甘くて美味しいらしいよ。ミーちゃんは舐めたことある?」

コツン コツン

そんな名前の花ってことすら今初めて知った。
肌が乾燥した時にたまたま塗ってみたことで傷に効くってことは分かってたけど、舐めようと思ったことはなかった。
だって粘着質で口に入れるのには抵抗があったから。
でも、そう言われれば舐めてみるしかない。

今度、グリードも連れて行ってあげよう。
ココ花とキリ花の群生地は遠目から見てもなかなか綺麗だし、きっと喜ぶだろう。
それに種さえあればグリードの魔法で栽培できるかもしれないし。
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