透明少女と檻の中

さねうずる

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14 俺はこうして透明に触りました。

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透明が射られた。

縛られたセイラ王国のひょろい男が突然消えた瞬間、俺はそこに誰がいるのか瞬時に理解した。

発射の号令に被せて、『待て!!』と叫ぶ。
だが、よりにもよってひょろい男に矢を向けていた部下だけが一瞬早く弓の弦をはじいてしまう。
音もなく飛んでいく矢がスローモーションのように見えた。

そして壁際で突然消えた・・・・。

俺には何が起きたかすぐに分かった。
恐らくこの場で唯一俺だけが分かっていた。
だと言うのに・・・・体が動かなかった。
まぬけにも茫然と立ちすくみ、ただただ矢の消えた場所を見つめていたのだ。

体が動いたのは床に広がる血溜まりを見た時だ。
心臓が嫌な音を立てる中、脚を叱咤し、血溜まりに向かって走る。

どこだ?
どこかに倒れてるはずだ。
涙を流して一点を見つめるひょろ男の視線の先を読む。
手を伸ばすと、、、確かにそこにいた・・・・。

体に触り、矢の刺さった箇所を探す。

あった。ここだ・・・・。
腰の右側、急所は外している。

一旦、透明から手を離すと、ラムダに向かって声を張り上げる。

「ラムダ、あの鞄持ってこいっ!!急げっ!!」

ラムダは困惑してはいたが、指示通り薄汚れた鞄を持ってこちらに走り寄った。

「中に入ってる花を出せ!」
「どっちですか?」
「どっちも出せ!!」

ラムダはピンクの花と青い花を散らさない様、取り出す。

二つとも前に透明が見せてくれた花だ。
最初の頃に、怪我や体調をどうやって治してくれてるのか?と聞いた時、俺の前に落として見せてくれた。

透明は俺が怪我した時どうしてた?
何か粘り気のあるものを塗っていた筈だ。
形状からして、いつも口で吸っていたのはピンクの花。
ということは、外傷に効くのは青い花のはず。
だが、この青い花をどうやって使う?
何かを抽出するのか?

青い花を持ちながら、考えていると、ひょろ男がポツリと口を開く。

「・・・・折るんだ。青い花の花弁を折ると中から粘着性のある液体が出てくる。それを傷口に塗って。」

言われた通り、肉厚の青い花を折ると、パキリと小気味いい音と共にプルプルとした粘着性の液体が滲み出てくる。

手探りで矢傷を探すと、刺さった矢の周りに塗り込んでいく。
矢自体は抜かない。
抜いたら出血が酷くなる。

見えないから分からない。
効いてるのか効いてないのかも判断がつかない。
だが、流れ出ていた血は止まった様に思える。
首筋に指を当て、脈を確認した。

・・・・・・・・よし、少し早いが問題ない。
呼吸も弱々しくはあるが、してはいる。

「おい、誰か軍医のリュカを呼んでこいっ!
ひょろ男、どこかこいつを寝かせられる場所に案内しろ。ラムダも一緒に来い。
俺はこいつを運ぶために今から見えなくなるが、後ろからついて行く。」

「えっ、あっ、分かりました!」

ラムダは何が何だか分からない様子だったが、指示通りひょろ男を立たせると手錠を持って道案内するよう命令する。
ひょろ男もそれに逆らわず、広間の出口へと足早に向かった。
俺は透明の傷に触らないよう気を付けながら、横抱きにして歩き出す。
歩き出すと血のついた靴跡だけが地面に残り、部下たちは見えない俺がつけるその足跡に気味悪そうに視線を向けた。

ひょろ男が案内した部屋に到着すると透明をうつ伏せにそっと寝かせる。
途端にベッドが消えた。

程なくして、パタパタと慌ただしい足音が近づいてきたと思ったら、この部屋の扉の前でぴたりと止まる。

コンコンコンッ

「リュカです。将軍様がお呼びとのことで馳せ参じました。」

「入れ。」

リュカは入ってくるなり、部屋を見回し、俺、ラムダ、ひょろ男の順に顔を見ると、小首を傾げた。

「あの・・・・患者はどなたで?」
「こいつだ。見えないがここにいる。」

リュカには俺が何もないところを指差してるように見えるだろう。
あからさまに困惑した表情を浮かべている。
リュカの手を引き、ベッドの縁を触らせると驚いたように手を引っ込めた。

「びっくりした。何かある・・・・」

言うと自らもう一度触り、ベッドの表面に手を滑らせ、途端にリュカの姿も消えた。

誰もが無言のまま、見えないベッドの上を見つめる。
数分後、リュカが姿を現した。

「ーーー何か方法はありますか?」

真剣な顔で聞いてきてはいるが、何の方法を聞かれているのか分からない。
透明になってる間の声は俺たちには届いていないからだ。
リュカはそれを知らないため、恐らくずっとこちらに向かって何かを話しかけていたのだろう。

「何がだ。」
「えっ?ですから、彼女・・・・かな?身体つきからして女性ですよね?
腰部右側に矢が刺さってます。位置的に内臓に障(さわ)りはないようですが、見えないことには治療できません。
彼女を見えるようにする方法はなにかありますか?」

「見えるようにする方法は分からない。
こいつがなぜ透明なのかも、ましてや我々と同じ人間なのかも分からない。」

「・・・・見えないまま矢を抜くのは危険ですね。それを聞くと内臓の作りも我々と同じなのかも分かりませんし・・・・」


「・・・・みーちゃんは人間だ。普通の・・・・どこにでもいる女の子だよ。」

顔面蒼白のまま、今まで黙っていたひょろ男が急に口を開いた。

「お前、こいつのこと何か知ってるのか?
なぜこいつは透明なんだ?
なぜお前を庇った?」

あとで尋問しようと思っていたが、ひょろ男自ら話を始めたため質問を畳み掛ける。
こいつの話で透明を救う手立てが見つかるかもしれない。



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