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9 俺はこうして脱出しました。
しおりを挟む「出ろ。時間だ。」
ゆっくり立ち上がり歩き出す。
毎日見飽きるほど見たこいつらの顔も見納めか。
全然惜しくないが。
でも、昨日のキスは失敗だったな。
あれのせいで死ぬのが惜しくなってしまった。
馬車に繋がれた檻に入れられ、街中を移動し、見せ物として晒される。
市民どもが食い物やら石やら投げ込み、身体中が得体の知れないもので汚れていく。
別にどうでもいいけど。
処刑場に着くと檻から出され、晒し台に登らされた。
ずっと地下に繋がれていたから陽の光がやけに眩しい。眼下には蛆みたいに群衆がひしめき合っており、俺は冷めた目でそれを眺めた。
人の首が飛ぶのを見て何がそんなに楽しいんだか。
次に一段高いところにいるセイラの王族どもを見る。
偉そうに踏ん反り返りながら、ショーでも見るかのように片手でワイングラスを持ち上げ揺らしていた。
俺がこのタイミングで処刑されるということは、恐らくリンゼンが鉱山を取り返したのだろう。
人質にしようと思っていた第二王子が見つからない上、いつリンゼン王国軍が侵攻してくるかも分からない。
その前にとっとと俺を処刑して自国内の士気を高めようという腹だ。
リンゼンもこんな小国相手から鉱山一つ取り返すのに一体どれだけ時間がかかったのか。
大陸最強のリンゼン騎士団が聞いて呆れる。
ファンファーレが鳴り響く。
大臣らしき男が呆れるほど長い羊皮紙を取り出し、書かれている罪状をつらつらと読み上げ始めた。余りに長く無駄な時間を退屈しながら待っていると、数分掛けて漸く全て読み終えた。
「以上の罪状により、この罪人 ルシエル•ローを死刑に処す。」
そう締めくくると膝をつかされ、頭を下げさせられる。
首がよく見えるようにだ。
無駄にデカい大剣を担いだ大男がゆっくりと晒し台に登ってくると、群衆が大歓声を上げた。
大男は歓声に応えると、大袈裟なモーションで剣を振り上げる。
最期に頭をよぎるのは透明で泣き虫なあいつのことだ。
俺が死んだって知ったら泣くかな。
透明なくせにやけに感情豊かだからきっと泣くだろうな。
この世の最後に目を瞑った瞬間、叫び声がそこら中から上がり、ザワザワと困惑したように空気が揺れた。
「どこに消えやがったーーっ!!!」
大男が剣を床板に突き刺し、天に向かって咆哮を上げる。
「何をやってるっ!?早く奴を探して処刑しろっ!!!」
セイラの国王が焦った様に立ち上がり、部下に向かって怒鳴っていた。
何が起きてる?
状況が分からず呆けていると、後ろ手に拘束された腕をグイッと引っ張られた。
立ち上がり、後ろを振り向く……が、誰もいない。
腕を引かれ、なすがままさらし台の階段を駆け降りる。
下では困惑した市民や騎士どもが右往左往としていた。
「黒い悪魔が逃げたぞ!俺たちも殺されるっ!!」
誰かが叫ぶと、パニックになった市民どもが一斉に様々な方向に駆け出していく。
その混乱に乗じて、俺たちも処刑場を駆け抜けた。
腕を引かれるまま人の間を縫って走り、右に左にと何度も曲がりながら人影のない裏路地へと身を隠す。
「はぁっ、はぁっ、お前何してるんだ!あんなところに来たら危ないだろ!?」
俺がそう言うと、ダンッダンッと地面を踏む音がした。
いつもより音が荒い。
「・・・・怒ってんのか?」
ダンッ
「黙ってて悪かった。でも、お前にあんなところ見せたくなかったんだ。」
タンッ
フッ、ちょっとだけ音が弱々しくなった。
相変わらずチョロいな。笑
見えないのに分かりやすくて、つい笑ってしまう。
「助けてくれてありがとな。怖かっただろ?」
トンッ
「怖いのに頑張ってくれたんだな。ありがとう。上手く逃げ切れたら必ず埋め合わせする。
サリーの酒場って知ってるか?そこに俺の仲間とリンゼン王国に安全に出られる秘密の地下通路がある。連れてってくれるか?」
トンッ
再び腕を引かれ、歩き出す。
掴まれている腕が温かい。
姿は見えないのにちゃんと体温はあって、声は出さないけれど喜怒哀楽がはっきりしてる。
何とも不思議で面白い。
俺の結んだままの唇に僅かに笑みが浮かんだ。
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