透明少女と檻の中

さねうずる

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3 私はこうして会いました。

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それ以来、定期的に通ってココ花をグリードに届けていた。

今日も今日とて宮殿への道を行く。
鼻歌を歌いながら。
先日街へ遊びに行った時に、夕暮れの公園でトルーバドゥール(吟遊詩人)が歌っていた歌だ。
観客は自分一人だったが、何となく歌の響きが気に入って最近よく歌ってる。
歌詞は外国語らしく意味はよく分からない。

歌い終えたトルーバドゥール相手に聞こえないであろう拍手を送り、おひねり帽子の中にココ花を一輪入れておいたが気付いただろうか。
申し訳ないがお金は持っていないのだ。

グリードの部屋に一輪届けた後、暇だったので適当に宮殿探検をしてみる。
思いの外、熱中してしまい一日中宮殿内を練り歩いた。
途中に蔵書室と厨房、あとでっかいお風呂も見つけた。

そうして物珍しいものに気を取られているうちに辺りがすっかり暗くなってしまった。
帰るのが面倒だし、今日は宮殿に泊めてもらおうかなと、どこか寝る場所を探してるうち、窓もないような薄暗い通路に出てしまう。
冷んやりした空気、薄暗いランプ、絨毯の剥がされた石畳の床。

なんかオバケ出そう・・・・。
ダンジョンとかこんな感じなのかな?
自分もオバケと似たような境遇(透明という点において)なので、オバケは別に怖くない。
逆に冒険者気分でちょっとワクワクしてるぐらいだ。

通路脇には地下へと続く細い階段。
私は音を立てない様、慎重に階段を下った。

幾つのも鉄格子が並んだその空間は、どう見たって地下牢だ。
使われていないのか、中はシーンと静まりかえり、薄暗く冷んやりした空気で満たされている。
地下牢なんて初めて見るなぁ。
私はそこを何となしに眺めて回っていると…………

うわっ!?ビックリした!!

一番奥の牢にだけ人が入れられていた。
静かすぎて全然気付かなかった‼︎

バクバクする心臓を押さえ、鉄格子の外側からそっと中を眺めてみる。

手枷で壁に貼り付けられている男性だ。
全身血だらけで見るからに痛そう・・・・。
というかピクリとも動かない。
生きてる・・・・よね?
俯いていて顔が見えないからよく分からない。

暫く眺めていると、階段のほうから足音が降りてきたため、息を殺して様子を伺う。
降りてきたのは騎士の服を着た男性。
手にはバケツとパン。

一番奥の檻まで来ると、鍵で錠を開け、檻の中の男性に向かって水をぶっ掛けた。
当然、男性はびしょびしょだし、床もびしょびしょ。
騎士は水浸しの床にパンを放り投げる。

「今日の飯だ。」

それだけ言うと、騎士は牢を出ていく。

檻の中の人は反応を返さない。
落ちたパンもそのままだ。

注意深く見ていると、指の先がピクリと動いた気がした。

あっ、やっぱ生きてる。

私はそのまま静かに階段を駆け上がる。
階段を上がるとまだあの騎士は見える範囲に居る。
簡素なドアの中に入っていくのが見えたので後を追いかけた。

ドアの前で耳をそば立てると中からは談笑する声。

「あいつに餌もやったし、俺たちも食事に行こう。」
「だな。次の見回り何時だっけ?」
「えーと、22時だ。あの手錠が導入されてからずっと監視しなくて良くなったから楽だよな。」
「あぁ、そうだな。まだまだ時間もあることだし、街まで行って一杯やるか?」
「おっまえ、ほんと悪い奴だなーw」

あははーなんて言いながら、二人して部屋から出てくる。ギリギリ体を滑り込ませて何とか入れ替わりに部屋の中に入った。

ほんとに小さな部屋だ。人2人がギリギリ座れる程度の部屋。
壁にはいくつも鍵が掛かっていてこのどれかがあの牢の鍵なんだろう。

どれだろう・・・・。

鍵を眺めていると、一番端に掛かっている鍵が目に留まる。

"マスターキー"

マスターキーって書いちゃってるwww
何て不用心な(笑)
これ幸い、とちょっと拝借した。

後は、お風呂場からタオルを拝借する。たくさんあるからニ、三枚減ってもバレないだろう。
厨房の残飯入れから、まだ食べれそうなご飯もいただいた。
さっき捨てたのを見てから拾ったので新しい残飯なのは確認済みだ。

ほんとはスープとかがいいんだけど、残飯の汁物はさすがに無理だしね。

透明サバイバル生活が長いとこういうのも全然平気。
むしろ残飯あさりなどルーチンワークである。

そしてそれら必要なものを持って地下牢に戻った。

マスターキーで牢の鍵を開けると、静かに開けたつもりなのに、地下牢中に解錠の音が鳴り響いた。
牢の中の人は、こんな大きな音にも反応しない。

床に広がる水たまりで足元がピチャピチャと音を鳴らす中、ゆっくりと男性に近づく。
グリードだったら、「ひいっ、オバケ!」とか言って怖がりそうだ。
高位貴族の跡取りらしくプライドは高いので、人前では気をつけてるみたいだけど。

しゃがみ込んで男性の顔を覗き見る。

・・・・この人の髪の毛、黒い。

黒髪なんて初めて見た。
血がこびり付いてゴワゴワしてるけど、それでもとても綺麗な夜空色だ。

頬をつんつん。
・・・・反応なし。
頭なでなで。
・・・・反応なし。

でも、呼吸はしてるから間違いなく生きてはいる。

鞄の中からココ花を一輪取り出す。
余分に持ってきておいてよかった。
外傷に効くキリ花はないから明日持ってこよう。
あっ、でも外傷が治ったら流石に不自然かな。

そんなことを考えつつ、ココ花を彼の唇にちょんちょんと押し当てた。

・・・・反応なし。

仕方ないので、顔を上に向けて親指で唇をこじ開ける。
自分でココ花の蜜を吸うとそのまま彼の唇に口を押し付け、喉の奥に流し込んだ。
ごくんと喉が鳴るのを確認してから唇を離す。

これで、多少元気になるはず。

次は、頂戴したタオルで優しく押し当てる様に体を拭いた。
傷に触らない様に気をつける。
下はズボンを纏ってるので、軽く水気を取ることしかできない。
体が冷えちゃうけど、見回りに来ると言っていたから脱がせるわけにもいかない。
体の大きな男性にズボンを履かせるのは至難の技だ。
濡れた衣類ならなおのこと。

こういう時、魔力があれば乾かしたりできるのに。

あらかた拭き終わると、次は食事だ。
床に落ちた水浸しのパンは溶けてぐちゃぐちゃ。

貰ってきた誰かの食べかけりんごを先程と同じ要領で咀嚼し、彼の口に流し込む。
果物だったら水分も一緒に摂れるので一石二鳥だ。

流し込む時、押さえた頬は水分を拭き取ったことにより、熱を取り戻していた。
少し熱いくらいなので、熱が出てるかもしれない。
余分に持ってきたタオルを体に掛けると、彼の横に座り込む。
私も少し寒かったので、ちょっとだけ体温を頂戴しよう。
分け合えば倍暖かい。

今日は刺激的な一日だった・・・・。
透明になってから人に触ったのは初めてだ。
今も体の横から熱が伝わってきて何だか不思議な気分。

人肌の心地よさに瞼が自然と下がってくる。
見回りの時間22時まではあと1時間半ある。
それまでに牢から出れば大丈夫・・・・。

 
まだ時間があるから少しだけ・・・・・・・・




「いないっ!?どこに行きやがった!!」

檻のすぐ向こうから聞こえる叫び声にハッと目が覚める。

しまった!!寝過ごしちゃった!!

横の彼に寄り掛かって寝ていたため、彼ごと透明になっていたらしい。

外にいる騎士はガチャガチャと扉を開けようとしてるが、入る時念のため鍵を掛けておいてよかった。

鍵を取りに駆け出す騎士が階段に消えたところで、鍵を開けて、外に出る。
再度鍵を掛けると先ほどの騎士の後を追った。

「マスターキーはどこだ!?おいっ!!ヤバいぞ!!六番房の鍵を寄越せ!!」

バタバタと騎士2人が鍵の小部屋から出てきた時を狙って扉の隙間からマスターキーを床に滑らせ、小部屋の中に放り込む。

焦っている様子の2人は全く気付いていない。

牢屋に走っていった2人の様子を階段の上から伺っていると、微かに声が聞き取れた。

「おい、いるじゃないかっ!」
「あっ、あれ?でもさっきは確かに・・・・」
「暗いから見間違えたんじゃないか?だから飲みすぎるなって言ったのに。」
「いや、でも・・・・そうだ!じゃあマスターキーはどこにいったって言うんだ!?」
「うーん、確かに。でもこいつが逃げてないなら問題はない。念のため1人は見張りについて、もう1人は鍵を探そう。」

そのやりとりを聞いてホッと息を吐いた。

何とか誤魔化せそう。マスターキーは小部屋の床に転がってるからすぐに見つけられるはず。

鍵が無事彼らに見つかったのを確認してから、私はその場を後にした。
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