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2 私はこうして宮殿に行きました。
しおりを挟むそれから数年が経ち、なんやかんや度々死にそうになりながらも、何とか生きてこれた。
単(ひとえ)に兄のおかげだ。
グリードはあれから両親の目を盗んでは翠の森に入り、食べられそうな植物の種を植えていく。
彼の魔法で通常の何倍も早く育つ植物は、私の貴重な食料源だった。
それにある時、彼の子供の時の服が岩影に置いてあるのも見つけた。
森の管理人が置いて行った汚いシャツと元々身につけていた服をエンドレスリピートしていたので、これを見つけた時は嬉しすぎて思わず叫んだ。
まぁ、聴こえないんだけど。
そして月日が経ち、兄のグリードは宮殿で文官になったと聞いた。
超エリートコースらしい。
私もその頃には、透明生活にもすっかり慣れて街などにも顔を出していたし、行動範囲を拡げていた。
人にぶつかったり、物音さえ立てなければバレる心配はない。
ある時ぶらぶら街歩きをしていたら、疲れた顔のグリードがふらふらと歩いているのを見かけた。
存在自体は身近に感じていても、顔を見るのは久しぶりだ。
森は広いし、グリードと会うことはまずない。
思わず後を尾けていくと、着いたのは宮殿だった。
目の前に巨大な建物がデデンとそびえ立っている。
・・・・…………すごい。
宮殿には初めて来たけど、見上げるほど高い建物にキラキラと金の装飾がされていてそれはそれはド派手だ。
グリードの後にくっついて宮殿の中に入る。
右を見ても左を見ても物珍しいものばかり。
でも、こんなに綺麗な宮殿なのに、グリードは俯いて足取り重く歩くだけ。
廊下の先、一番奥の部屋の前で立ち止まるとグリードは大きなため息を一つ零した。
コンコン
「グリード•サッチェルです。」
「入りなさい。」
中から凛とした女性の声。
私はスルリとドアの隙間に体を滑り込ませた。
椅子に座った偉そうな女の人と周りには沢山の侍女。
身に付けているものや自信に満ち溢れた立ち振る舞いからよほど位の高い人物なんだと分かる。
「遅いわ。ほんとノロマなんだから。」
「・・・・申し訳ありません。」
「それで?買ってきた?」
「・・・・はい。」
グリードが持っていた箱を差し出すと、周りの侍女が一斉に笑い出す。
クスクスと笑うその声に、侮蔑を感じ取って私は不快な気分だった。
グリードだって不快だろうと思ったが、顔には感情が現れていない。
ただ、、、手だけはキツく握り締められていた。
「見て。サッチェル卿はこういうのがお好みらしいわ。随分、可愛らしいご趣味ね。」
嫌味な笑いで部屋中が満たされる。
箱の中身は女性モノのインナーウェアだった。
グリードに御使いをさせて笑い者にして愉しんでるらしい。
「でも、私の趣味じゃないわね。いらないからあげるわ。
相手もいないでしょうし、自分でつけたらどうかしら?」
箱を床に落とすとグリードが箱から溢れた肌着を集めて、腕に抱える。
グリードが何かする度、あの女性が何か言う度に起こる笑い。
嫌なものがもやもやと私の胸に広がった。
部屋を出たグリードは来る時よりもトボトボとした足取りで通路を歩く。
すれ違う人は声はかけないものの気の毒そうな表情を浮かべていた。
そして数分も歩かないうちにまた別の部屋に入る。
机と椅子、後はそこら中に書類が散らばる小さな部屋だ。
グリードは椅子に座ると机に突っ伏してシクシク泣き始めた。
「なんでっ、なんで俺がっ、うぇぇえん(泣)」
机をガンガン叩きながら、ビービー泣いてる姿は子供の時と変わらない。
グリードは優しすぎるうえに繊細だから、あの仕打ちにさぞや心を痛めたことだろう。
うちのお兄ちゃんを虐めるなんて!!
誰だか知らないけど許せない奴だ。
その日から私は頻繁に宮殿に通って情報収集を始めた。
エリート文官として入職したグリードだが、その美しい見目のせいで王女の目に留まってしまったらしい。
めちゃくちゃ偉そうだと思ったらまさか王女だとは。
あんな人が王族だなんて世も末だと思う。
婚約の打診を受けたものの、グリードは跡継ぎだし、仕事を初めて幾何(いくばく)も経っていない……集中したい気持ちもある。
丁寧にその旨を伝え断りの返事をしたのだけど、それが王女の逆鱗に触れてしまった。
グリードは文官から、男でただ一人の王女付き侍従として配属転向され、王女は近くに置いたグリードを当てつけのように毎日虐めているとのこと。
やってることが子供みたいね。
そんなに若くは見えなかったけれど。
ある時、私は王女を懲らしめようと夜中にポルターガイスト現象を起こしてやった。
ちょっと怖がらせようと思っただけなのだけど、王女は翌日から見張りの騎士を増やしてベッドの周りを囲ませた上、よく眠れないせいか大変機嫌が悪く、グリードへの当たりがさらに強くなってしまった。
作戦失敗。他の人に迷惑なのでこの一回で止めた。
ごめん。グリードと騎士の人たち。
王女に何かすると周りに迷惑が掛かる。それならグリードに元気を出してもらおう!とココ花の花弁を一輪、あの書類だらけの小部屋に置いておいた。
ココ花は私が森で見つけたピンク色の花だ。
蜜を吸うと体が元気になる。風邪の時にもよく吸ってたし、夜中、寂しさの波に襲われたときも吸ってた。
採るのにコツがいるけど、私は透明なのでそこは問題ない。
グリードはかなり疲れているようだから、これで少しでも元気になってくれればいい。
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