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夢を追いかける、その背を追いかけて

【9】・終

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「ねぇ、どうして最近作品を書いてくれないの? それとも俺が邪魔をしているの?」
「そんなことは無いよ。ただ誰も読まないなら書かなくてもいいかなって……」
「俺はこの世界に来るまで夢もやりたいことも無かった。両親に勧められて騎士になっただけだし。貴族といっても三男だから、そのうち誰かの紹介で爵位が釣り合う家に婿入りして、家庭を築くだけだと思っていた。この世界に来て、コトに出会うまでは……」
「私に出会ってから?」
 
 初めて聞くジェダの過去に衝撃を受ける。これまで元の世界を話をしなかったし、私からも聞かなかった。下手に聞いたらジェダが苦しくなるだけだからと、ずっと触れられずにいた。

「夢を追いかけるコトの姿はいつだって輝いていて眩しくて、俺には無いものをたくさん持っていた。そんなコトを見ていたら、ようやく自分もやりたいことを見つけられたんだ」
「何を見つけたの?」

 私の左手を両手で握りしめると、ジェダはワンコのように真っ直ぐな目を向けてくる。

「大好きなコトの夢を叶える手伝いをしたい。コトと結婚したのなら、手伝えることももっと増えるから。でもそのためにはこの世界の一員にならなきゃならない。今の俺はこの世界にとってただの異質な存在だから……。それでお願いしたんだ。俺をこの世界で生きる住人にして欲しい、もっとこの世界について知りたいって店長に……」
「店長さんって、ジェダが働いているレストランの!? そんなことをしたらダメでしょう!」
「店長は良いって言ってくれたよ。その代わりに、店を受け継いで欲しいって言われたけどね。今はみっちりと店のことを教え込まれている。毎日目が回るような忙しさだけど、でもこれでようやくコトに一人の男として意識してもらえるよね?」
「それは……」

 どうやらジェダも私が弟のように接していたことに気付いていたらしい。これには流石にぐうの音も出ない。

「婚約指輪は渡しちゃったし、この初仕事が終わったら改めて結婚の申し込みをするから考えておいてね。でもそれまでは恋人として同棲を続けさせて。これは先約の証。待っている間に他の男に盗られるのは我慢できないから」
「恋人って……そんな……」
「こんなことをあえてするまでもなく、俺自身はとっくにコトの恋人のつもりでいたけどね」
「なにそれ……変なの……」
 
 ジェダは茶目っ気たっぷりに婚約指輪を顔に近づけると、そっと唇を落とす。それが本当に憧れていた騎士の誓いにも見えて心が震えてしまう――ジェダは元々騎士だけれども。
 ほんのりと頬を赤く染めて満足そうな笑みを浮かべるジェダに指まで絡め取られて、もう逃れる術は無いと悟る。

「この仕事、一緒に成功させようね。俺の最愛の恋人さん」

 この仕事を成功させた時、私たちの関係は確実に変化する。
 同棲人か恋人か、それとも――。
 悩む日はまだまだ続きそう。

 了
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