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「山で縊死いししようとしたのも、死んでいったという部下や仲間のためですか……?」
「そうだ。騎士でありながら、何も守れなかった。帝国は負け、敗走の最中に、一人、また一人と脱落していった。
 ようやく船を見つけて帝国を脱出して、母親の生まれ故郷というこの島に辿り着いたはいいが、最後の部下は虫の息だった。
 人目を避けて、あの洞窟に隠れて看病したものの……一昨日、息を引き取った」
「そうでしたか……」
「最後の部下はおれの腹心だった。そいつに言われたんだ。『貴方だけでも生きて欲しい』と……」

 カイトスは眉を潜めてしかめっ面になる。
 膝の上で両手を強く握りしめたのだった。

「部下を埋葬して、一人になると急に虚しくなった。おれだけ生きてて何になるんだと……。それで近くの民家から縄を拝借して首を吊ろうとしたが、近くに人がいて、一人になれなければ、ちょうどいい場所が見つからなくてな。
 仕方なく洞窟前で吊ろうとしたら、今度は君に邪魔をされた」

 非難するように、濡羽色の目で鋭く睨みつけてくるカイトスに、みくは首を振る。
 土間で眠る老爺たちのいびきにかき消されないように、みくはお腹に力を入れて話し出す。

「それは違います。死ねないのは、死んでいったカイトスの部下や仲間たちが、見えない力で邪魔をしているからだと思います」
「部下たちが?」
「死んでいった人たちの中には、貴方を想いながら死んだ人もいたはずです。一昨日亡くなったという腹心の部下さんの様に……。
 彼らの分まで生きるのが、これからのカイトスの役目だと思っています」

 しばし思案したのか、カイトスは「そうだろうか」と悩むように口を開く。

「彼らへの償いとして、おれはおれの命を捧げようとした。
 けれども、おれが生きていることが彼らに対する償いになるのなら、おれは生きなければならない」
「そうしてください。この島は貴方を歓迎します。悪いようにはしません」
「騎士じゃなくなっても?」
「はい。お気づきかもしれませんが、この島にはわたしのような女か、幼い子供たち、それとお年寄りしかいません。
 男たちは帝国に徴兵されて、戦争に行って……誰も帰って来ませんでした。わたしの父も……」
「そうだったのか……」
「それもあって、今この島は男手が不足しているんです。
 カイトスのような若い男性は大歓迎です。もちろん、わたしも」

 カイトスに向かって笑みを浮かべると、濡羽色の目がそっと細められた。

「みく、と言ったな。おれを歓迎しているなら、おれを受け入れてくれるか?」
「受け入れる……ですか?」
「これからは、死んでいった部下や仲間たちへの贖罪のために生きていく。そんな生き方をするおれを受け入れてくれないか。一人の咎人として、一人の男として」
「それは良いですが……」

 そうして気づくと、みくはカイトスの腕の中にいた。
 どうすればいいかわからず、カイトスに抱き竦められていると、やがて頭上から涙交じりの嗚咽が聞こえてきた。
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