75 / 88
真実と想い
75
しおりを挟む
「もしかしたら、誰かに言われたかっただけなんです。私は生きていていいんだって。まだまだ人生は続くから、これからは幸せな日々が待っているんだって。その証拠に、私は今こんなにも幸せです。だって、楓さんと出会えて、ニューヨークで楽しい毎日を過ごせて、結婚指輪を貰えたんです! こんなに楽しい日々は、あの日橋の上から飛び降りていたら、得られなかったものだから……」
「……ああ。生きていていいんだ。小春の人生はまだまだ続くんだ。あんな職場と上司は早く忘れて、幸せな日々を送っていいんだ」
そうして、楓さんは小箱から指輪を取り出すと、私の左手を取る。
「俺は弁護士としてはまだまだ未熟で、人としても何も取り柄は無いかもしれない。それでも――これからも俺と一緒に居てくれないか? 俺には小春が必要なんだ。小春が与えてくれる春の日差しの様な優しい温もりが、俺に勇気を与えてくれる。小春の言葉が俺に自信をくれるんだ」
「楓さんは出会った時から立派な弁護士ですよ……。カッコよくて、魅力的で、素敵で、私の方が取り柄がなくて、カッコ悪いところばかり見せて、向こう見ずなところもありますし、良いところ何もないですし……」
「何を言っているんだ。小春の前向きなところや直情的なところは君の魅力だろう。俺には無い物を持っているんだ。そういうところを見習わないとな」
そうして、楓さんは私の左手の薬指に指輪を嵌めてくれた。サイズが分からなかったという割には、銀色に輝く指輪は薬指にぴったり嵌ったのだった。
それがあまりに嬉しくて、私はつい楓さんに抱きついてしまう。
「嬉しいです……! 何もかも嬉しくて……。この想いを伝えたいのに上手く言葉に出来ないんです。何って言ったらいいんだろう! 指輪も、楓さんの気持ちも嬉しくて、私も伝えたい気持ちがあって……!」
「さっき言っていたな。優しくされると好きになるって。好きになっていいんだ。これからはもう本当の夫婦になるんだ。好きでいていいんだ」
楓さんは最初こそ抱き着いた私に戸惑っていた様子だったが、やがてぎこちないながらも抱きしめ返してくれた。
私が顔を上げると、楓さんはどこかはにかむ様な笑みを浮かべていた。
「キス、していいか?」
「……はい」
もう一度、お互いに顔を見合わせて笑い合うと、どちらともなく顔を近づける。
すると、私の鼻先に眼鏡のフレームが当たったので、楓さんが苦笑いする。
「やっぱり、眼鏡が邪魔だな」
私が小さく笑い声を上げると、楓さんは眼鏡を外して再度顔を近づけてくる。
柔らかな唇が触れ合い、強引でも自棄でもなく、想いの通じ合った男女として初めて口付けを交わす。
長い様な短い様な時間の中、初めて味わった楓さんの唇は、ほんのりとミントとバニラが混ざった様な甘く爽やかな味がしたのだった。
「……ああ。生きていていいんだ。小春の人生はまだまだ続くんだ。あんな職場と上司は早く忘れて、幸せな日々を送っていいんだ」
そうして、楓さんは小箱から指輪を取り出すと、私の左手を取る。
「俺は弁護士としてはまだまだ未熟で、人としても何も取り柄は無いかもしれない。それでも――これからも俺と一緒に居てくれないか? 俺には小春が必要なんだ。小春が与えてくれる春の日差しの様な優しい温もりが、俺に勇気を与えてくれる。小春の言葉が俺に自信をくれるんだ」
「楓さんは出会った時から立派な弁護士ですよ……。カッコよくて、魅力的で、素敵で、私の方が取り柄がなくて、カッコ悪いところばかり見せて、向こう見ずなところもありますし、良いところ何もないですし……」
「何を言っているんだ。小春の前向きなところや直情的なところは君の魅力だろう。俺には無い物を持っているんだ。そういうところを見習わないとな」
そうして、楓さんは私の左手の薬指に指輪を嵌めてくれた。サイズが分からなかったという割には、銀色に輝く指輪は薬指にぴったり嵌ったのだった。
それがあまりに嬉しくて、私はつい楓さんに抱きついてしまう。
「嬉しいです……! 何もかも嬉しくて……。この想いを伝えたいのに上手く言葉に出来ないんです。何って言ったらいいんだろう! 指輪も、楓さんの気持ちも嬉しくて、私も伝えたい気持ちがあって……!」
「さっき言っていたな。優しくされると好きになるって。好きになっていいんだ。これからはもう本当の夫婦になるんだ。好きでいていいんだ」
楓さんは最初こそ抱き着いた私に戸惑っていた様子だったが、やがてぎこちないながらも抱きしめ返してくれた。
私が顔を上げると、楓さんはどこかはにかむ様な笑みを浮かべていた。
「キス、していいか?」
「……はい」
もう一度、お互いに顔を見合わせて笑い合うと、どちらともなく顔を近づける。
すると、私の鼻先に眼鏡のフレームが当たったので、楓さんが苦笑いする。
「やっぱり、眼鏡が邪魔だな」
私が小さく笑い声を上げると、楓さんは眼鏡を外して再度顔を近づけてくる。
柔らかな唇が触れ合い、強引でも自棄でもなく、想いの通じ合った男女として初めて口付けを交わす。
長い様な短い様な時間の中、初めて味わった楓さんの唇は、ほんのりとミントとバニラが混ざった様な甘く爽やかな味がしたのだった。
1
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。
真守 輪
恋愛
年下の恋人を持つ図書館司書のわたし。
地味でメンヘラなわたしに対して、高校生の恋人は顔も頭もイイが、嫉妬深くて性格と愛情表現が歪みまくっている。
ドSな彼に振り回されるわたしの日常。でも、そんな関係も長くは続かない。わたしたちの関係が、彼の学校に知られた時、わたしは断罪されるから……。
イラスト提供 千里さま
誘惑の延長線上、君を囲う。
桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には
"恋"も"愛"も存在しない。
高校の同級生が上司となって
私の前に現れただけの話。
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
Иatural+ 企画開発部部長
日下部 郁弥(30)
×
転職したてのエリアマネージャー
佐藤 琴葉(30)
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の
貴方を見つけて…
高校時代の面影がない私は…
弱っていそうな貴方を誘惑した。
:
:
♡o。+..:*
:
「本当は大好きだった……」
───そんな気持ちを隠したままに
欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。
【誘惑の延長線上、君を囲う。】
純真~こじらせ初恋の攻略法~
伊吹美香
恋愛
あの頃の私は、この恋が永遠に続くと信じていた。
未成熟な私の初恋は、愛に変わる前に終わりを告げてしまった。
この心に沁みついているあなたの姿は、時がたてば消えていくものだと思っていたのに。
いつまでも消えてくれないあなたの残像を、私は必死でかき消そうとしている。
それなのに。
どうして今さら再会してしまったのだろう。
どうしてまた、あなたはこんなに私の心に入り込んでくるのだろう。
幼いころに止まったままの純愛が、今また動き出す……。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる