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真実と想い

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「何をやっているんだ!? 車に轢かれるところだったんだぞ!!」

 楓さんが怒鳴った時、先程まで私が居た場所を車がスピードを上げて通り過ぎて行ったところだった。楓さんに腕を引かれていなかったら、今頃、通り過ぎて行った車に轢かれていたという事実にゾッとする。

「ご、ごめんなさい……」

 楓さんから離れるが、膝に力が入らず、その場に座り込んでしまう。楓さんは呆れたように「全く……」と呟いて腕を引っ張ると立たせてくれたのだった。

「何も無かったから良かったんじゃないか。あまり気にするな」

 そうしている間に信号が変わったので、他に信号待ちしていた通行人と一緒に楓さんも歩き出す。私もその後を追いかけるが、さっき怒鳴られた衝撃から抜けきれていない事もあり、足元が覚束ないまま歩いていると、ひび割れたタイルに足を取られて転んでしまったのだった。

「……っ!」

 転んだ際に掌と膝を地面にぶつけてしまい、痛みで声が出なくなる。そんな私に構う事もなく、周囲の人達が通り過ぎて行く中、ゆるゆると身体を起こしていると、ただ一人だけ、駆け寄ってくる姿があったのだった。

「小春!」

 スーツのズボンが汚れる事も構わずに楓さんは地面に膝をつくと手を貸してくれる。助け起こしてもらいながら、とうとう思っていた事を口にしてしまったのだった。

「大丈夫か?」
「なんで……そんなに優しくしてくれるんですか……」
「小春?」
「もうすぐ離婚するのに、目的も果たしたのに、ずっとすれ違っていたのに、全然会話らしい会話もなかったのに、顔だってほとんど合わせてくれなかったのに……。今になって、どうしてそんなに優しくしてくれるんですか……。そんなに優しくされたら、甘えちゃうじゃないですか、期待しちゃうじゃないですか……。好きに、なっちゃうじゃないですか……」

 あまりにも自分が情けなくて、とうとう私は泣き出してしまった。そんな自分を見られたくなくて、その場から駆け出すが、転んだ衝撃でまだ膝が痛む事もあり、すぐに追いかけてきた楓さんに捕まってしまったのだった。

「小春……」

 しゃくり上げながら泣き続ける私に唖然として立ち尽くしていたかと思うと、急に楓さんは抱きしめてきたのだった。

「……っく!」
「いつもギリギリまで我慢して泣くんだな。悪い癖だな……。まあ、人の事は言えないが」
「……るっさい!」
「うるさいか……小春からそんな言葉が出てくる日が来るとは思わなかったな」
「全部、全部、ぜんぶ……、かえでさんの……あなたの、せいです……」
「そうだな。全部俺のせいだ。俺が意気地なしだから、俺があの日、君を救えなかったから……」
「えっ……」

 顔を上げると、すぐ目の前に悲痛そうな顔をした楓さんの顔があって、私は泣くのを止めて見入ってしまう。楓さんは私の頬を流れる涙を拭ってくれると、そっと身体を離したのだった。

「帰ろう。俺達の家に」

 楓さんは私の手を繋ぐと、家まで引っ張るように連れ帰る。それが恥ずかしいような、嬉しいような気持ちになりながら、一言も話さないまま帰路に着いたのだった。
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