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忘れ物を届けに
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エレベーター前で待っていた楓さんの元に行くと、楓さんは眼鏡を外して眉間を押さえていたのだった。
「あの……」
「所長とジェニファーが悪かったな。あの親子はいつもあんな感じなんだ」
いつもの調子に戻った楓さんが眼鏡を掛け直したところで、エレベーターが到着した。
二人でエレベーターに乗りながら、私は首を振る。
「仲が良くていいですよね。楓さんの事も家族も同然だって言っていました」
「そんな事を言われたのか。まあ、俺にとっては父親の様な存在だからな。子供の頃から俺の事も実子のジェニファーと同じ様に可愛がってくれた。法律に関する知識と英会話は、所長から教わったようなものだ」
「そうだったんですね」
そっと笑みを浮かべていると、急に楓さんが手を伸ばして、私の頬に触れてきた。じっと見上げると、楓さんはどこか心配そうな顔をしていたのだった。
「顔が赤いが、所長に何か言われたのか?」
「いいえ。何も言われてないです……」
楓さんは腑に落ちない顔をしながらも、「そうか……」とだけ言って、手を下ろした。
胸が激しく高鳴り、エレベーターの駆動音より、自分の心臓の音が大きく聞こえるような気がした。
(びっくりした。急に触れてくるから……)
楓さんに触れられていたところが熱を持っているかの様に妙に熱い。
エレベーターが一階に到着すると、楓さんから逃れるように先に降りようとしたところで、エレベーターに乗り込もうとしたスーツ姿の黒人の男性にぶつかりそうになった。
「Oops!」
「あ、ご、ごめんなさ……ソーリー!」
慌てて後ろに身を引くと、楓さんが両肩を支えてくれたのが分かった。
「Oliver. sorry. My wife bothered me」
「fine. Please introduce your wife next time」
「I got it」
ウェーブの掛かった長い黒髪を後ろで一つに束ねた黒人の男性は、笑みを浮かべながら片手を上げると私達と入れ違いにエレベーターに乗った。
エレベーターの扉が閉まったところで、楓さんは両肩から手を離したのだった。
「大丈夫だったか?」
「はい。すみません。ご迷惑をお掛けして……」
「いや、いい。オリバーも特に怒っていなかったからな」
私達は受付にいたさっきのアジア系の女性に軽く頭を下げると、事務所を後にする。
「あの……」
「所長とジェニファーが悪かったな。あの親子はいつもあんな感じなんだ」
いつもの調子に戻った楓さんが眼鏡を掛け直したところで、エレベーターが到着した。
二人でエレベーターに乗りながら、私は首を振る。
「仲が良くていいですよね。楓さんの事も家族も同然だって言っていました」
「そんな事を言われたのか。まあ、俺にとっては父親の様な存在だからな。子供の頃から俺の事も実子のジェニファーと同じ様に可愛がってくれた。法律に関する知識と英会話は、所長から教わったようなものだ」
「そうだったんですね」
そっと笑みを浮かべていると、急に楓さんが手を伸ばして、私の頬に触れてきた。じっと見上げると、楓さんはどこか心配そうな顔をしていたのだった。
「顔が赤いが、所長に何か言われたのか?」
「いいえ。何も言われてないです……」
楓さんは腑に落ちない顔をしながらも、「そうか……」とだけ言って、手を下ろした。
胸が激しく高鳴り、エレベーターの駆動音より、自分の心臓の音が大きく聞こえるような気がした。
(びっくりした。急に触れてくるから……)
楓さんに触れられていたところが熱を持っているかの様に妙に熱い。
エレベーターが一階に到着すると、楓さんから逃れるように先に降りようとしたところで、エレベーターに乗り込もうとしたスーツ姿の黒人の男性にぶつかりそうになった。
「Oops!」
「あ、ご、ごめんなさ……ソーリー!」
慌てて後ろに身を引くと、楓さんが両肩を支えてくれたのが分かった。
「Oliver. sorry. My wife bothered me」
「fine. Please introduce your wife next time」
「I got it」
ウェーブの掛かった長い黒髪を後ろで一つに束ねた黒人の男性は、笑みを浮かべながら片手を上げると私達と入れ違いにエレベーターに乗った。
エレベーターの扉が閉まったところで、楓さんは両肩から手を離したのだった。
「大丈夫だったか?」
「はい。すみません。ご迷惑をお掛けして……」
「いや、いい。オリバーも特に怒っていなかったからな」
私達は受付にいたさっきのアジア系の女性に軽く頭を下げると、事務所を後にする。
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