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もう一度、やり直したいんです
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同居を始めたばかりの頃を思い出しながら夕食を用意する。夕食が完成して、後は若佐先生が帰宅するのを待っていたが、二十時近くになっても、若佐先生は帰って来なかった。ここでも仕事が忙しいのかもしれない。
(一緒に食べようと思っていたのに……)
スマートフォンを確認するが、特に連絡は無かった。
一緒に食べようと思って、私も夕食を食べないで待っていたが、ここでも明け方近くに帰って来るのかもしれない。
そろそろ諦めて先に夕食を食べようかと考えていた時、玄関の鍵が開く音が聞こえてきた。出迎えに行くと、そこには幽霊を見たかの様に、目を丸く見開いた若佐先生の姿があったのだった。
(こんな顔、初めてみたかも……)
小さく笑うと、若佐先生はやや頬を染め、目を逸らしながら「まだ居たんですか?」と尋ねてきた。
「まだニューヨークに来たばかりですから。入国時に申告した滞在日数もまだまだありますし……」
「そうですか……」
そのまま、私の横を通り過ぎて、若佐先生はリビングルームに入って行く。その後を追いかけると、リビングルームで立ち止まっている若佐先生の姿があったのだった。
「何かありましたか……?」
「部屋が綺麗になってる……」
どうやら、リビングルームが綺麗になっているので驚いていただけらしい。ホッと安心すると、「昼間に掃除したんです」と返す。
「時間がなかったので、今日はリビングルームだけ掃除機を掛けて、洗濯機を借りて軽く洗濯もしました。明日はベッドルームも掃除機をかけますね。洗濯物も沢山溜まっていたので、一回では全て洗えなくて……」
「それはハウスキーパーに依頼するので気にしなくていいです。それより、この料理はどうしたんですか? 冷蔵庫には食材は入れてなかったように思いますが……」
「私が作りました。食材は近くのスーパーマーケットに買いに行きました」
「外出したんですか!?」
急に声を上げると両肩を掴まれたので、私は瞬きを繰り返す。
「は、はい。近くのスーパーマーケットまで。お金は日本で両替してきた私のお金で……」
「どうして外出したんですか!? 代行サービスに頼めばいいものを……!」
若佐先生の剣幕に怯えて、膝が震えてしまう。両目から涙が溢れそうになり、目線を床に落とす。
「す、すみません……。お腹が空いて何か食べようと思っても、冷蔵庫には栄養ゼリーと飲み物くらいしかなくて……。代行サービスがあるなんて知らなくて……」
胸の前で両手を強く握りしめていると、ようやく若佐先生は両肩を離してくれた。
「すみません。強く言い過ぎました」
額に手を当てた若佐先生に、私は首を振る。
「私こそ、すみません。勝手に外出してしまって……。昨日も言い過ぎました。若佐先生は心配して言ってくださったのに、酷い事を言ってしまって……」
「いいえ。私こそ、昨日はムキになって、強く言ってしまいました。嫌にも関わらず、貴女を抱いてしまいました。身体はもう大丈夫ですか?」
「大丈夫です。それに嫌だなんて思っていません……痛かったけれども、嫌でもなんでもなくて、むしろ気持ち良いくらいで……」
「気持ち良いですか……。おかしな事を言いますね」
若佐先生が小さく笑ったので、私も笑みを浮かべる。こうやって、若佐先生と笑い合ったのはいつ以来だろうか。
この機会を逃さない内に、私が「あの!」と口を開くと、若佐先生は銀縁眼鏡の奥からじっと見つめてくる。
「私、まだ夕食を食べていないんです。お口に合うかは分かりませんが、よければ、一緒に食べませんか?」
「まだ食べていなかったんですか……。いえ、是非いただきます。貴女の作った食事が口に合わなかった事は、これまで一度も無かったので」
「そうだったんですか……?」
「日本に居る時もいつも用意してくれましたね。どの料理も美味しかったです」
「嬉しいです……お料理、温め直しますね」
私が料理を温め直す間、若佐先生は「着替えてきます」と言って、ベッドルームに入って行った。
(一緒に食べようと思っていたのに……)
スマートフォンを確認するが、特に連絡は無かった。
一緒に食べようと思って、私も夕食を食べないで待っていたが、ここでも明け方近くに帰って来るのかもしれない。
そろそろ諦めて先に夕食を食べようかと考えていた時、玄関の鍵が開く音が聞こえてきた。出迎えに行くと、そこには幽霊を見たかの様に、目を丸く見開いた若佐先生の姿があったのだった。
(こんな顔、初めてみたかも……)
小さく笑うと、若佐先生はやや頬を染め、目を逸らしながら「まだ居たんですか?」と尋ねてきた。
「まだニューヨークに来たばかりですから。入国時に申告した滞在日数もまだまだありますし……」
「そうですか……」
そのまま、私の横を通り過ぎて、若佐先生はリビングルームに入って行く。その後を追いかけると、リビングルームで立ち止まっている若佐先生の姿があったのだった。
「何かありましたか……?」
「部屋が綺麗になってる……」
どうやら、リビングルームが綺麗になっているので驚いていただけらしい。ホッと安心すると、「昼間に掃除したんです」と返す。
「時間がなかったので、今日はリビングルームだけ掃除機を掛けて、洗濯機を借りて軽く洗濯もしました。明日はベッドルームも掃除機をかけますね。洗濯物も沢山溜まっていたので、一回では全て洗えなくて……」
「それはハウスキーパーに依頼するので気にしなくていいです。それより、この料理はどうしたんですか? 冷蔵庫には食材は入れてなかったように思いますが……」
「私が作りました。食材は近くのスーパーマーケットに買いに行きました」
「外出したんですか!?」
急に声を上げると両肩を掴まれたので、私は瞬きを繰り返す。
「は、はい。近くのスーパーマーケットまで。お金は日本で両替してきた私のお金で……」
「どうして外出したんですか!? 代行サービスに頼めばいいものを……!」
若佐先生の剣幕に怯えて、膝が震えてしまう。両目から涙が溢れそうになり、目線を床に落とす。
「す、すみません……。お腹が空いて何か食べようと思っても、冷蔵庫には栄養ゼリーと飲み物くらいしかなくて……。代行サービスがあるなんて知らなくて……」
胸の前で両手を強く握りしめていると、ようやく若佐先生は両肩を離してくれた。
「すみません。強く言い過ぎました」
額に手を当てた若佐先生に、私は首を振る。
「私こそ、すみません。勝手に外出してしまって……。昨日も言い過ぎました。若佐先生は心配して言ってくださったのに、酷い事を言ってしまって……」
「いいえ。私こそ、昨日はムキになって、強く言ってしまいました。嫌にも関わらず、貴女を抱いてしまいました。身体はもう大丈夫ですか?」
「大丈夫です。それに嫌だなんて思っていません……痛かったけれども、嫌でもなんでもなくて、むしろ気持ち良いくらいで……」
「気持ち良いですか……。おかしな事を言いますね」
若佐先生が小さく笑ったので、私も笑みを浮かべる。こうやって、若佐先生と笑い合ったのはいつ以来だろうか。
この機会を逃さない内に、私が「あの!」と口を開くと、若佐先生は銀縁眼鏡の奥からじっと見つめてくる。
「私、まだ夕食を食べていないんです。お口に合うかは分かりませんが、よければ、一緒に食べませんか?」
「まだ食べていなかったんですか……。いえ、是非いただきます。貴女の作った食事が口に合わなかった事は、これまで一度も無かったので」
「そうだったんですか……?」
「日本に居る時もいつも用意してくれましたね。どの料理も美味しかったです」
「嬉しいです……お料理、温め直しますね」
私が料理を温め直す間、若佐先生は「着替えてきます」と言って、ベッドルームに入って行った。
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